小樽でのまあまあ変わらない日常 -1-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
高校の方では、先日行われた魔法術科の筆記試験の結果が返ってきたので、伽里奈は放課後に1年E組にやって来て、中瀬と早藤、他のクラスメイト6人を相手にテスト問題の解説を行っている。
今回のテストは理解度の確認のために行われているモノで、成績に反映されないけれど、真面目に魔術師を目指している生徒であれば、やはり適当に終わらせてはいけない。
テスト内容は幻想獣の生態について。魔術に関する内容では無いけれど、魔術師を目指すのであれば、幻想獣は明確な敵となる存在だ。E組の学生が実際に戦う事は無いけれど、これも知っておくべき最低限の知識だ。
「今はVRゴーグルなんかもあるから臨場感があるよな」
写真や動画での勉強もあるけれど、今はVRゴーグルを使ってゲーム感覚で討伐の体験をする事も出来る。
ゲーム的に、中瀬達ではまだ使う事が出来ない本物の魔法をシミュレートして、ネットワークを介してFPSゲームのようにチームプレイをしたりと、いずれ来る本番に備えた心の準備とか、こちらの世界はなかなか面白い事をしている。
アシルステラだと直接現場に赴いた実戦形式だったり、幻術で幻と戦ったり、ゴーレムを作ったりと、体を動かすものだ。機械文明は気軽に戦闘体験が出来て羨ましい。
軍にも新人訓練用にVRがあって、伽里奈も体験したことがある。学校のVRは授業の一環なので、アリシアは見た事はないけれど、軍で使われているソフトは、現役の本職向けに幻想獣のリアルすぎるモデリングや、攻撃時の部位欠損など、なかなかトラウマモノの映像が充実していた。
あれのコンセプトは学院に持って帰りたいなー。
現在のラシーン大陸に住む人間の中でも、最も多くの魔獣を撃退した人間の一人だから、幻術としてのデータを残して、まずは簡易的に目に被せる魔工具を作り、という事は後でにしよう。
「いい装置だと思うけど、実物というか、擬似的な物体を作っての実習とかしないの?」
「さすがに本物を連れてくるってワケにはいかないだろ? それに学校なりに安全も考えないとダメだし」
「そうだけどねー」
VRは心の準備だったり日常的な勉強にはいいと思うけど、実際に自分の体を動かす機会は用意した方がいいような気がする。
―これは一つの課題かなー。
「じゃあ今日はここまでかな」
不正解の解説は終わったし、疑問点ももう出ない。VRも雑談のようなモノだし、これで勉強会は終了だ。
「またレーンの予約を取ったから、その時にまた付き合ってくれよ」
「うん、いいよー」
練習用レーンの予約が取りにくいのも課題だ。
* * *
夕食後は、アンナマリーの希望もあって、談話スペースのテレビでネコとイヌの動画を見ていると、町に備えられたスピーカーから緊急警報が流れた。
「な、何だこの音は?」
アンナマリーがやどりぎ館に来て1ヶ月と少し。そういえばこの警報は、まだ鳴った事が無かった。
「幻想獣っていう、いわゆる魔物とか魔獣に相当する存在がいてね、それが出現したっていう警報なんだよ」
「金星という星があるんだが、そこを住処に選んだ神の力で、人の恐怖や欲望を反映した生命が生まれる。それが幻想獣だ」
「そんなのがいるのか?」
「迷惑な神だが、いい心も反映するから善し悪しなんだよな」
「霞沙羅さんの仕事がそれの退治だからねー」
動画視聴は一時停止にして、情報チャンネルに変えて、どの辺りで幻想獣が発生したのかを確認した。
「近いといえば近いが」
やどりぎ館のある地区から、ちょっとした山を越えたところに温泉街があって、ダムへと繋がる集落がある。その地区での話のようだ。
「なら霞沙羅さんの出番って事か?」
「いや、この規模なら警察だ。私ら軍が出る時はもっと規模が大きい場合だ、災害レベルのな」
情報には「幻想獣の幼態が2体出現」と出ている。
幻想獣には通常「幼態」「成長態」「完成態」の三形態があり、今回の幼態は生まれたばかりの弱い状態だ。さすがにこれは軍の出番ではない。
「騎士団と言っても団体毎に役割があるだろ? それと同じだ。組織した以上、それぞれの業務テリトリーがある。緊急時でもない限り、それを越えてしまうと組織の意味が無くなってしまう。」
「アンナマリーのお父さんも普段は国防には口を出さないでしょ?」
「そういうことなのか」
「あれがあまりにも成長しすぎると問答無用で私らの出番だがな。それはまあ稀だ」
霞沙羅が6年前に討伐したのがそれにあたる。あれはその中でも最悪の形態だった。
「小樽警察署から担当者が出動して、討伐して終わりだろ」
霞沙羅の言うとおり、30分後には、駆除が完了した旨の放送が流れて、今回の事件は終わった。
* * *
「鐘」が見つかったその裏で、一つの書類を持っている人物がいることを研究者は知るよしもない。
長野県の山深い村、森に囲まれてひっそりと佇む古民家に住む一人の刀鍛冶は、先祖がどこかから持ってきた書類に書かれているとある杖の作成方法に興味を持っていたが、肝心の素材が無いこともありすっかり忘れてしまっていた。
魔剣鍛冶として数々の魔装具を作り続けてきた一族の末裔である彼は、先日報道された「鐘」と呼ばれた魔工具が、巻物に書かれた魔装具の為に作られ素材だと理解した。
「それであればワシのところにあるのが道理ではないか」
長い年月をかけて精製されたその素材を使い、先祖から託された武器を作りたい。それこそがこの家を継承した自分の役割だ。
どういうわけか元々あった場所から持ち去られたという事は知っているが、誰が何の目的であんな遠い場所に運んだのかは解らない。
ただ、杖の設計図に殴り書きのように追加で書かれた銅の精製方法からすると、素材として使える時期はもう限界だろう。これ以上寝かしておくと、素材としての価値は無くなってしまう。
「しかし厄介なところに持って行かれたものだ。お前さんが言う、そのミスター某がここへ持ち込めば、余りについてはお前達の言うとおりに分け前はやろう。ワシはただここに書かれた杖を作る事ができればそれで良い。余った素材がどうなろうともどうでもよい」
すぐ側でお茶を飲んでいた女子高生、というには少々歳のいった、どこかの制服姿の女は頷いた。
「そうね。ウチの人もどういう素材か気になってるみたいだしね。鐘を奪取しようというミスター某への助力は色々としているわ。ただ私達はあまり目立ちたくはないの。ミスターがヘマをしたなら諦めなさい」
「その時はその時だ」
「じゃあそう言うことで」
女は湯飲みを置いて、古民家の古くさい木の戸を開けて出ていった。
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