アリシアと賢者達 -2-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
明日はとうとう魔法学院での講義がある。冊子の準備も終わり、記録盤に納めたデータ確認も終わった。後は行くだけだ。
霞沙羅も軍の方にデータの提出を終え、あとは説明会の日程待ち。
そんな状況下、大学の敷地に1台のトラックと、3台のSUV車が入っていった。4台の車は魔法術専攻エリアにある一つの建物の前で止まった。
建物の前で待っていた3人の教授はSUV車から出てきた人間と一緒にトラックの荷台から、丁寧に降ろされた頑丈そうな箱を確認する。
「何だよ、もう着いたのか」
そこに霞沙羅が伽里奈を連れてやって来たので、教授達以外は敬礼を行った。
彼らは警官。箱の中身を守る為に道警からやって来たので、組織的に霞沙羅とは関係はない。
ただ、改めてこの国の英雄を目の前にして、尊敬の念を表しただけだ。軍と警察の上はテリトリーの事で仲がよろしくないが、ライバルの現場職員に尊敬されるくらい新城大佐は慕われているのだ。
上の人間に知られたらドヤされるかもしれないけれど、自然に敬礼をしたくなってしまう。
「じゃあ教授達、準備はいいんだな?」
「ああ、大学もエージェントを雇っているし、警備室とも連携は出来ている。しかし、こんなモノを触る事が出来るとは学者冥利に尽きるよ」
「道警の対魔術犯罪専門課から来ているしな。軍の方でも遠回しに変な動きがないかは警戒しておいてやる。情報は提供するが、そっちはそっちでしっかり鐘の警護を頼む」
「はっ!」
霞沙羅の言葉に警官達は再度、ビシッと敬礼する。その表情は何となく誇らしげだ。
こういう時の先生は格好いいなー、と伽里奈はしみじみ思う。
もう冬が近いっていうのに、今朝は朝食に来ないので家に行ったら、寝間着どころか下着がほぼ脱げた全裸状態で床に転がって寝ていた人とは思えない格好良さだ。
訓練のキャンプではそうならないのに、なぜ自宅だとあんなになるのだろうか解らない。
それはともかく、少し前に福島県の廃寺から出てきた、曰く付きの鐘が運ばれてきた。長年の調査の末、ようやく発見された特級の聖法器の為、捜索のプロジェクトリーダーを務めた神学の権威がいるこの大学に運ばれてきて、これから他の研究者も集まって解析が始まる。
鐘が入れられた箱は警備の中、建物内に運ばれていった。この建物は研究施設でもあり、宝物庫でもある。教授達も入っていき、頑丈そうな入り口のドアが閉まると強固な結界に包まれた。
「何か注文があれば聞くぜ」
「小樽校の施設は外からしか見てませんからね、現状は何も言えませんねー」
「横浜のは吉祥院の気まぐれで見たんだっけな。まあこっちの設備はやや劣るとはいえ、現状は問題ないだろう。教授達も全員なんらかの魔術は使えるしな」
神学の専門家が、大学と道警を挟んで警備計画を立ててあるのだから、これ以上ここでお節介を働く必要は無い。
二人は自分の居場所に戻っていった。
* * *
ついに週末の土曜日になり、予定通りラスタルの王立魔法学院で、アリシアによる、モートレル占領事件で使用された魔工具三点の講義が行われる事になった。
あの事件が終わってから十日が過ぎた程度だが、天望の座を初めとした賢者と魔導士達は今日の日を待ちかねていたようだ。
「お昼と夕食の下ごしらえは済ませてあるけど、帰れないかもしれないから。その時は悪いけどシスティー、よろしくね」
「はい。お任せ下さい」
「私も掃除をしておくわ」
「うん、エリアスもよろしくね」
書類を満載した大きなキャリーケースを持って、アリシアは魔法学院正門前に転移した。
学生の授業はもう始まっている時間なので、正門前には誰もいなかった。
「位置ぴったりー」
前回のエリアスの転移で場所を掴んだので、もう大丈夫だ。では久しぶりに、正面から魔法学院に入ろう。そう思ったのだが、衛兵に止められた。
「ええー、何でー。お呼ばれしてるのにー」
「どういった御用ですか?」
口調は丁寧だが、部外者は入れないぞと威圧感がある。見覚えの無い人間が、見た事もない服装と妙な箱を持ってきているのだからそれは止めるだろう。
受付からも女性の職員が出て来た。ここの職員さんの多くは学院の卒業生で魔法が使えるので、何かトラブルがあればこうやって事務所から出てきては、衛兵と一緒に対処にあたる事になる。
「アリシア=カリーナなんですけどー。5年前まで研究職してたのにー。ほらー、魔導士の腕輪。階位27位なんですけどー」
「あら本当、アリシアちゃんじゃない。昨日お家に行ったら息子が帰ってきたって言ってたわ」
「あ、おばちゃん、久しぶりー。今日、講義があってきたんだけどー」
一人だけ、学生時代から馴染みの職員さんがいたので助かった。おばさんはすぐさま連絡装置で担当者に連絡を取ってくれた。
「あ、アリシア様だったんですか?」
他の職員達は魔導士の腕輪を見せられて驚き始めた。確かに帰ってきたと、先日国王から大々的な発表があったけれど、式典も何もしていないのにいきなり正面から来るとは思っていなかった。
衛兵も変に手を出さないで良かったと安堵しながら下がっていった。魔法騎士の異名を持つアリシアだ。変に取っ組み合いになったら、いくらアリシアが素手とはいえ、大怪我では済まなかっただろう。
すると職員のおばちゃんがルビィに確認を取ってくれて、会場となる講堂の場所を教えてくれた。
施設は基本的に、ここを最後に訪れてから変わっていないそうなので、アリシアは一人で向かう事にした。
久しぶりにきちんと見る魔法学院に、あーフラム王国に帰ってきたんだなー、としみじみ思いながら、ガラガラと書類満載のキャリーケースを転がしながら校内を歩く。
外で実習中の初々しい学生達の姿が懐かしい。
「誰ですか、変なものを転がしているのは」
魔術に使う草の説明の為、植物園で生徒と実習をしていた教師に呼び止められた。
「先生久しぶり。宿屋のカリーナでーす」
「カリーナって、アリシアちゃんなの? ホントに帰ってきたの?」
「ちょっと前にねー、今はモートレルにいるよ。今日はちょっと講義があって来たんだー」
アリシアという名前に生徒達が反応する。
「先生、あの人って、英雄のアリシア様?」
「ええそうよ」
「昔、ボクの担任だったんだよー。風属性魔法を教えて貰ってたねー。今日も風関係でしょ?」
「「ええーっ!」」
自分の教師が本当にアリシアを教えていたという事がハッキリして、生徒達は騒ぎ始めた。
魔術師としての格は魔導士であるアリシアの方が上だが、憧れのアリシアと同じ先生に教えて貰ってるというのが生徒達には驚きなのだ。先生を見る目がちょっと変わった。
「ということで、ボクはルーちゃんのいる講堂に行ってきます」
元担任教師への挨拶もそこそこに、アリシアは講堂がある建物に入っていった。
講堂では、受付から連絡を貰っていたルビィがいち早くやって来ていた。
講義の手伝いとして、アリシアがキャリーケースから出した冊子を、ウキウキと上機嫌な様子で、出席者の座る座席に置き始めた。
その間アリシアは、持ってきた記録盤を、講堂に設置されている大型スクリーンに映すべく、連結装置に設置した。
「あー、やっぱりダメだー」
「アーちゃんどうしタ?」
配り終わったテキストをチラ見して、これから始まる講義に期待してウキウキしていたルビィは、アリシアがが妙な事を言うので、連結装置の所にやって来た。
「これ、いじり過ぎちゃって、連結出来なくなっちゃってる。説明用のデータ入れてきたのに」
「ど、どうするんダ?」
仕方が無いので、アリシアはルビィが冊子を配った座席の数と場所を確認して、記録盤に取り付けた追加機能を弄る。
「こうするしかないなー」
この記録盤には新たな機能として、魔力の粒子を任意の場所に飛ばして、半透明の小型のモニターとして表示する機能が追加されている。
そして参加者が座るであろう場所にモニターを設置した。サイズ的には標準のノートPCの画面くらいだ。
「な、何だあれハ」
早速ルビィが反応して、モニターの前に移動したので
「今からそれにデータを映すから、ちゃんと見えてるかどうか教えてね」
表示されるのは冊子と同じ内容に、アリシアが注釈を書いたモノ。
「おお、すごいじゃないカ。ちゃんと読めるゾ」
「それは良かった。でも色々と追加しちゃったからまともに動かなくなっちゃったね」
小型モニターはちゃんと動作してことが確認されたので、一旦表示を消したらルビィはちょっと残念そうな顔をした。
「とりあえずどこかで一旦止めて貰おう」
講義の進行としては、途中質問は受け付けず、とにかく解説に徹する。ただでさえ100ページを越える情報量なので、相当の時間を要するだろう。
ここに集まるのは学院でも上位の、賢者や大魔導士クラスの人達が中心。多くがお年寄りばかりとはいえ、知識のためなら徹夜の作業も厭わない研究バカばかり。質問責めにあうのは目に見えている。
そこでやめる気は無いけれど、出来れば一旦やどりぎ館に帰って様子を見たいし、休みたいし、飲み物も持ってきたい。
そして予定時間が近づいてきて、参加者達が集まり始め、早速この小型モニターについても尋ねてきたので、本当に今日中に終わるのか不安になった。
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