アリシアと賢者達 -1-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
アリシアにとって、本職の研究者達はやっぱり苦手だ。
なんとも気が早いもので、大賢者タウに説明をした翌日にはもう、講義の開催日と参加者が決まったと連絡があった。
しかも元々講義が可能な日は伝えてあるけれど、その一番早い日を指定してきた。
「ちょっと早いんだよねー」
そのせいで高校から帰ってきてから、慌ててプリンターで印刷を始める事になった。参加者は天望の座を頂点とした24人。100ページ以上あるレポートを24人分も印刷して、製本するのは中々の手間だ。
霞沙羅関係でレポートを提出する事もままあるので、レーザープリンターはあるけれど、こんなに印刷するとは思ってもみなかった。
霞沙羅は軍で印刷させるのでいいけれど、魔法学院にはコピー機なんて無いから頼めない。コピーのような事は出来るけれど、時間がかかるので、今から頼んでは間に合わない。
「復帰第1回目がこれじゃ先が思いやられるわね」
エリアスも製本を手伝ってくれている。
「冷蔵の札あるでしょ。あれの解説も頼まれてるから、これが終わったらすぐ、今度は王宮の人も混ぜて説明しないとダメなんだよねー」
「この私を見事に倒した英雄様ですもの、その位の依頼は来るでしょ」
倒すというか…、3年も一緒にいればまあ色々と…。
「はい、一部終わったわ」
冊子は3冊が1セットになっている。それぞれをホッチキスでとめて、製本テープを貼って完了だ。
「懐かしいよな、こういうの」
霞沙羅も手伝ってくれている。
TRPGのリプレイ集という、仲間内でプレイした内容を書き起こして、それを纏めた同人誌を短い学生時代に作っていたそうだ。
印刷屋に頼む事もあれば、自分達で手作りで印刷した本を、イベントで頒布していた事を思い出しながら、霞沙羅は製本している。
「エリアスも関係している事だからここで言うが、大学にとある聖法器が送られてくる」
「この世界のモノが私に関係あるの?」
「百数十年前にとある寺院から無くなって、学者が探していた『鐘』なんだが、それを強奪しようという連中がいるらしいんだな」
つい先日ニュースになったわね、とエリアスは思いだした。
二百年以上前に長野のとある寺院で、蛇の妖怪を幾度も退治したというその『鐘』は、妖怪がいなくなりその役目を終えた後も同じ寺院で保管されていた。ところがいつの間にか無くなってしまい、長い間行方を捜していたら、福島県の廃寺院の敷地から発掘されたそうだ。
「学校周辺で一悶着起きるかもって事?」
「そうだな。警察の管轄になるんだが、その『鐘』を研究している間は、警官と大学が雇った個人エージェントなんかが警戒にあたる。ただまあ何かあれば周りにも被害が出るから、気をつけろよ、という話だ」
地球側で「幻想獣」と呼ばれる魔物であったり、魔術的な事件については警察と軍の二つの組織が対応する事になっている。
小規模であったり、個人やある程度のグループが起こした事件は警察が、災害になるような大規模な事件は軍が、それぞれ担当となり鎮圧に当たる。
今回は魔術関連の盗難対策となり、災害ではないので警察が対応に当たる。だから霞沙羅は軍を動かす事は無い。
大学の敷地内にいた場合は、職員の一人として動く事はあるだろうけれど、基本的には警察任せというルールだ。
「それとなくクラスメイトを守るくらいはするわよ」
「ボクもかなー」
「その程度でいい。余程のことじゃなければ無理に首を突っ込まなくていいぜ」
王都の学院にも研究物が持ち込まれる事もあるし、宝物庫に保管されたアイテムを奪おうという人間もいて、生徒が危険にさらされるような事もあった。
基本的には大人の仕事ではあるけれど、子供であってもどうしてもという場面は出てくる。在学中や職員時代にそういう危険を退けた事は一度や二度では無い。
ただ、それは自分が強かった事もあるからで、小樽校の付属校の生徒達だけで無く、大学生はどうだろうか。
職員には元軍人や元警察も少なくないから戦いには慣れてはいるだろうから、その時は様子見する方がいい。大丈夫であれば静かにしていればいいだけだ。
とりあえず霞沙羅の迷惑にならないように立ち回った方がいいだろう。
* * *
「こ、これがペンギンなのか!」
以前に青とピンクのぬいぐるみをあげてからペンギンに興味を覚えていたので、アンナマリーに談話室のテレビを使ってネット動画を見せてみたら、予想通りの反応が返ってきた。
「全然違うじゃないか」
白と黒の羽毛が基調の、背の高い鳥が豊満な体を揺らして歩いている映像に、いたくショックを受けた。
「お前が持っているぬいぐるみは日本人特有のデフォルメがかかっているぬいぐるみのペンギンだ」
事前に本物とは違うとは言っているけれど、アンナマリーが抱えているカラフルなぬいぐるみとは似ても似つかない。
「しかしこれはこれで可愛いじゃないか。く、こいつらは一体どこに住んでいるんだ」
今映っているのは誰かが動画サイト上にアップした旭山動物園のペンギン舎の映像で、ジェンツーペンギンとキングペンギンが映っている。あまり再生数は多くは無いけれど、投稿者のペンギン愛が解るアングルで撮られていて、どのペンギンもとても可愛く撮影されている。
「本当の生息域には近づけないけど、この撮影場所は同じ北海道の旭川ってところだし、この小樽でも水族館っていう施設にいるよ」
「ここから車で20分はかからんぜ」
「そんな近くにこんな可愛いのがいるのか」
動画の中でペンギンが足を滑らせてポヨンと転んだので、それを見たアンナマリーがぬいぐるみをぎゅっと抱きしめて、女の子らしい悲鳴を上げた。
「こ、こここ、ここに行きたい」
「雪が降るようになったら柵の外に出て通路を散歩するから、その時に行こうか。一ヶ月とちょっと先かな」
「お、おう、絶対行く」
館の外を出歩くならアンナマリーはもう少しこっちの世界を知ってもらった方がいいので、ルールとかを教えておこう。それまでは動画で我慢して貰おう。
「それで霞沙羅、推薦の申請が通ったわ。ただアンナマリーのように裏口がロンドンと繋がるのはまだ先だから、来る時は飛行機で来て貰うしか無いわよ」
「元からその予定だったからいいと思うぜ」
「これで小娘が2人になるわけじゃな」
「え、なんだ、何の話だ?」
アンナマリーにだけ伝えるのを忘れていたので、新しい入居者の話をした。
海外留学で来日するのはシャーロット=ホールストンという女の子だ。今は13歳でもう高校生。来年には大学に飛び級入学するという、天才魔術師。
高校卒業と大学入学のために学術テストやレポートや実技試験を控えているけれど、ほぼ最終確認のようなもので、イギリスの魔術師協会や大学関係者一同からは太鼓判を押されている状況だ。
「アリシア様みたいなものか」
「ボクは飛び級じゃ無くて期間短縮だけど、霞沙羅さんみたいな感じかな」
「そういやそんなもんか」
「すごいのが来るんだな。それに比べて私は情けない」
「小娘よ、この家はそういう判断基準で見ているのではないぞ。自己評価はどうあれ、お主はここの住民として、将来に期待されておるのだ。お主は今まで通りアリシアや、なんだったかいう領主から日々学べば良い」
「同年代の騎士でも、お前はこの前の件で充分以上の経験をしているだろ。それに強ければいいというモノでも無い。貴族であれば人の上に立つ事が重要だ。他人の事は気にせず色々と経験する事だ」
「お主はこれから先、そこにいる小僧に色々と振り回される運命が待っておる。それを一つ一つクリアしていけば良い方向に行く」
「は、はい」
急に霞沙羅とフィーネが妙なフォローをしてきたので、アンナマリーは驚いてしまった。
館にいる人があまりにも優秀すぎるので、自分の非力さをちょっと気にしてはいたのだ。
「まあそうだろうねー。ボクはボクで貴族生活について教えて貰わないとダメだから、ついて来て貰ったりするだろうし、ボクの冒険仲間達も紹介するしね」
「はい。よろしくお願いします」
「こっちもよろしくねー。ペンギンも見に行こうねー」
「しかし、同じくらいの歳とはいえ、向こうは優秀なんだろう? 性格的に合うのかどうか」
「性格は普通の奴だぜ。犬好きだったり、ぬいぐるみ好きだったり。食うのに興味があるが、ロンドンの食い物に飽き飽きしてたり」
「あの国ってそんなにダメなんですか?」
20年以上前に終わったのに何度も何度も再放送されているローカルバラエティー番組内でも、タレントどころかディレクターまでも口を揃えて「不味い」発言をしていたのを思い出した。
「食い物にもよるが、全体的に不味いぜ。日本に来るのを楽しみにしているくらいだしな」
「こっちの世界なのにか?」
「先進国という栄えている国の中では、間違いなくダメだな、土地風土文化的な問題だ」
「ここの家は何食べても美味しいのにな」
「なら家に連絡して、事前に色々写真を送っておいてやるか?」
実際に来日するのはまだ先だ。アリシアとしてまだ大きなイベントが2つあるので、入居の準備はまた後でにしておこう。
読んで頂きありがとうございます。
評価とか感想とかブックマークとかいただけましたら、私はもっと頑張れますので
よろしくお願いします。




