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大事件の後は -3-

場面により主人公名の表示が変わります

  地球      :伽里奈

  アシルステラ :アリシア

 その翌日には、横浜での仕事を終えた霞沙羅(かさら)が帰ってきた。


 横浜での事件が解決したのはモートレル占領事件の前日だったそうで、昨晩に簡単には連絡は貰っている。


「大変な事になっているみたいだな」

「どっちの話です?」


 異世界から持ち込まれた道具があった事か、アリシアとしてフラム王国に帰還した事かどちらの話なのだろうか。


「どっちもだよ。ただ王国の人事じゃ手助けはできんからな。それはお前の仲間に相談するんだな」

「はーい」


 日本では散々お世話になっているけれど、世界の事情がわからない上に、社会構造が違うフラム王国の事まではさすがに相談は出来ない。故郷の相談事は、貴族であるヒルダに食べ物でも持って行って、ご機嫌を取りながら訊く事にするのが一番だ。


「じゃあ、改めてこっちの事情を話そう」


 霞沙羅はPCを取り出して、今回横浜で起きた事件と、その鑑定結果を提示してきた。


「日本でも同じ人が事件に関わっていたんですかねえ」


 霞沙羅が横浜まで呼び出された理由は、地球のモノでは無い刀の魔装具(まそうぐ)が使用されたからだ。事件自体はモートレル占拠のような大規模ではなかったけれど、軍の施設は被害を受けた。


 その魔装具に刻まれた術式や効果が解らなかったので、軍本部でも犯人の発見に手こずってしまい、結局霞沙羅が出ていって犯人を拘束する事になった。


 使われた刀の魔装具は証拠として軍に置いてきたけれど、霞沙羅は横浜でしっかりと検証を終えて、レポート作成の為にデータは持ち帰ってきている。


「犯人の記憶の隅まで見てやったが、誰がこんなモノを持ち込んだかは結局解らなかったな。誰かから購入した事はぼんやり残っていたが、何らかの魔法を使って記憶が操作されているようでな。相当の手練れの仕業だぜ」


まだ元皇女達の尋問は終わっていないが、地球側でも関係した人間は同じような状況のようだ。


「こういう世界を越えた事例ってあるんですねー。錫杖とか色々とおかしな道具が出てきたので、学院の賢者様に聞いたんですけど、過去にも記録は残っているそうで」

「この家があるんだぜ、その住民が、ありえない、とは言えんだろう。これについては前管理人にも話をしておかないとな」


 何と言っても、どちらの道具も前の管理人さんの世界の魔術なので、第一に疑うとすればその世界の住民だ。


 元管理人さん夫婦も伽里奈(アリシア)と同じで、所属する国内では知らぬ者はいない英雄的存在だ。現在は政府の依頼を受けて後継者の育成にあたっているという立場。その位置にいるのであれば調査もしてくれるかもしれない。


「で、お前の所のは?」

「はいはい、これです」


 伽里奈(アリシア)は自分で出来る範囲で纏めた、各道具の術式データを霞沙羅に見せた。


「相変わらず解りやすいな」


 同じ魔術師とはいっても、魔装具(まそうぐ)魔工具(まこうぐ)への確たる技術を持っている霞沙羅と違い、考察レベルになってしまうけれど、基本は概ね間違っていない。


 王者の錫杖、神降ろしの杖、それと町に仕掛けられた結界の術式を纏めたレポートを、霞沙羅は念入りに確認した結果、一つの結果が見えたようで


「この錫杖だけ百年前からあるのか。それで同系統の、いや、同じ人物かその家系に連なるヤツの仕業という事になるな」

「そうなんですか?」

「前にも言ったが制作者の癖が出るんだよ。同系列ならその弟子でもな。しかし別世界で同じ世界の魔術が揃うモノなのか」


 さすがに異世界の魔剣も聖剣も制作・修理が出来る霞沙羅だけあって見る場所が違っていた。それぞれの道具に仕込まれた魔術基盤(まじゅつきばん)を全て並べて、類似点がどこかを示してくれた。


「この100年で同じのがないか、同業者か他の国の知り合いにも聞いてみるか。お前は、学院にはまだ顔は利くのか?」

天望(えんぼう)()っていう、賢者様の集まりから一度顔を見せろと言われてますし、錫杖のレポートを出すくらいには繋がりはありますよ」

「いいじゃねえか。今回の件を纏めてからでいいから、その学院の書庫でも漁ってこい」


 そういえば事件の後始末をしている最中に誰かに言われたワケでも無いのに、なぜ進んでレポートを書くと言いだしたのだろうか、自分でも不思議でならない。


 霞沙羅はこの館の住民だから、彼女の仕事の手伝いをするのは管理人としての仕事でもある。これまで軍にも研修用テキストをいくつも納めてきたのは、霞沙羅のサポートの為だ。


 でもアリシアはあの時点では、魔法学院に対する何の責任も義務もない。


「どうした?」

「何でもないです」


 アシルステラの世界から逃げ出すように小樽に来たけれど、かつての仲間の顔を見て心変わりをしたのかもしれない。


「それよりもだ、クレープを作れ。久しぶりにあれを食ってから作業だな」


飲兵衛の霞沙羅は頭を使う作業をする際には糖分補給として甘い物を要求してくる。横浜から帰ってきたばかりなのに魔工具の研究をするからと、甘い甘いクレープを要求してきた。


 それならば作ろう。それと折角作るのならちょっとヒルダの所に行こう。


  * * *


「前にも増して夢みたいな食べ物ねっ!」


 バニラアイス、カスタードクリーム、生クリーム、チョコソース、バナナと苺を包んだクレープを持って、頼れる仲間のヒルダを訪ねた。


 門番も、もう英雄アリシアだと解っているので、屋敷にもすんなり入れてくれて、ヒルダはグレードアップ版のクレープを満面の笑顔で食べ始めた。


「んんー、美味しいわ。こんなに美味しい物がこの世にあるなんてっ!」


 とりあえすこの腹ぺこさんが食べ終えるのを待って、アリシアは話を始めた。


「事件についてルビィから何か聞いてる?」


 旧帝国の残党達は王都に連れて行かれてしまったけれど、それは国家存亡にも関わる犯罪に対する専門的な情報収集が出来るからで、事件が起きたのはモートレルだから、尋問から得られた情報はきちんと貰えると確約されている。その情報を伝えてくるのはルビィだ。


「とりあえずはありきたりな、彼らの主張と今回のメンバーの事は聞けたわ」


 人数については死体を含めて全て回収された60人と少々。帝国を再興するにしては人数的には少なそうだけれど、やはり王者の錫杖が頼りの計画で、洗脳したモートレルの人材を、個々が持っているノウハウごと利用して、拠点運営をしていくつもりだったから、その人数で良かったのだろう。


「錫杖はあの人達が学院の宝物庫から盗んだわけじゃないんだよねー?」


 それはルハードの館で捕まえた男を尋問して解っている事だが、他のメンバーが別の事を言う可能性があるので、確認が必要だ。


「あの人達に接触してきた人がいて、それが盗ってきたのは間違いないわね」

「元皇女達と一緒にいたあの自称重臣さんが協力者とか言ってた人だね。結局正確な情報って手に入ったのかな?」

「ダメみたいよ。魔法学院の設備で記憶を覗いたみたいだけど、全員その姿に霧がかかったみたいに曖昧になってるそうよ」


 記憶を覗き見る、という事については、システィーの青い剣を使った精神への攻撃で、元皇女と魔術士さんが抵抗も出来無い昏睡状態なので、さぞや簡単だっただろう。


「やっぱりかー。今日ここに来たのはね、館の住民で、日本の英雄さんにお互いの事件の話をしたら、ここと同じ事案に関わったみたいだからなんだ」

「どういうこと?」

「向こうの世界でも、先生、霞沙羅さんて人だけど、事件に使われた道具と錫杖の作成者が同じ人か、その子孫かって解ってねー。道具を渡した人の記憶も同じ状況になってて、解らなかったから、こっちだとどうかなって」

「同じ人が同じタイミングで別の世界で動いてたって事?」

「霞沙羅さんの見立てではそうみたい。でもさすがに全部解決ってワケにはいかないみたいだね。まあボクがその問題になってる人だったとしても同じ事は考えるだろうけどねー」

「アーちゃんの側には随分優秀な人がいるのね。それであればルビィにも話をしておいた方がいいわよ」

「でもルーちゃんって、学院のどの辺にいるの? 話しをするにももうちょっと上の方の人に言った方がいい気がするけど」

「例の階位って事? それなら8位よ」

「おー、やっぱりすごいねー。おじさんとか越えちゃったね。冒険に出る前は26位だったね。8位なら話をしても良さそうだなー」

「アーちゃんは?」

「27位だよ」


 13歳で学院を卒業後、一般的な「魔術士」を飛ばして、その上の「魔導士」になり、階位が27位で始まったアリシアは、1年間だけ学院で働き、冒険者になるからと辞めて、その後の3年以上は多分変わっていない。学院に何も貢献していないので下手したらランクダウンしてるかもしれないけれど、当時は27位だった。


 なお、階位はランクの話で、級とか段などと同様で、順位では無いから同じ位には複数人いるというのが実態だ。


「そっかー、ルーちゃんも天望の座への夢に向かってるんだなー」


 天望の座は「魔導士」のさらに上の「賢者」、より上の「大賢者」にならないといけないし、魔法学院トップ5名のみの身分だ。ここはもう超ベテラン達の世界なので、まだまだ先は長い。それでも19歳で一桁階位というのはあまり聞いたことは無い。


「ハルキスも次期族長決定でしょ。イリーナも司祭になって、聖都の神殿を一個任されてて、ライアも自分の劇団と劇場持ってるんでしょ。良かったなー。ヒーちゃんはおじさんから領主の座を貰ってるし」

「私は名前だけの領主よ」

「え、そうなの?」

「英雄ヒルダの治める領地って、それだけで目立つから。お父様達は一応引退って事で外の町の屋敷にいるけれど、基本的な統治と対外的な事とかはまだ私の出番じゃないもの」

「しばらく部外者目線で見てたけどヒーちゃんなりに頑張ってたよー。あのお坊ちゃんだったレイナードと一緒に騎士団の食を改善しようとしてるしねー。町の雰囲気もいいから、ちょっと手伝っちゃったし」

「あれは助かったわ。実際にアーちゃんが関わってから1ヶ月くらい経つけど、食堂担当もやる気が出てるし、食事中の雰囲気も良くなったのよ」

「へー、そうなんだ。学院は全然ボクのやった事が反映されなかったけど、ヒーちゃんはボクがやってた事、覚えてたみたいだから。アンナのお父さんからもアドバイスを求められてたって聞いたよ」

「上手はくいってなかったけど、それでも騎士達の食事には気を使ってたのよ」

「ヒーちゃんはまず出来るところからやっていけばいいんじゃない? 騎士団の料理もじきに町の食堂にも降ろして、モートレルをグルメの町にしていければいいねー」


 アリシアが日本から持って来た料理は、作り方や食材の関係でいきなりは大衆料理にする事は出来ない。


 それでもここの町だけでなく、領内の主要な町の騎士団や警護団の食事として定着すれば、町に食材が集まるようになれば、いずれ町の食堂にも教える事が出来るようになる。


 主要な街道が交わる場所なので、人の往来も多いから、旅人を料理でもてなせば、口コミで評判も広がっていく事だろう。


「システィーも料理が出来るから、貸し出したりはするよ」

「彼女から料理を教わるって想像出来ないんだけど」

「まあボクよりはレパートリーは少ないんだけど、一度作って貰う?」

「アーちゃんが言うなら、そうするわ」


襲撃された日に食べた夕飯はとても美味しかった。向こうの世界の料理のようだけれど、アンナマリーは毎日あんなモノを食べているのだろうかと羨ましくなるほどだ。


 異世界の料理だけれど、レイナード達も問題なく食べる事が出来たので、アリシアには是非こっちの世界に料理を持って来て欲しい。


「それと、今回の件でモートレルの問題点が一つ浮き彫りになったわ。やっぱり魔術的な準備が不足しているのよね」

「それは、ボクも気になってたんだけどねー。騎士団としては悪くないと思うんだけど。魔法学院の分校も運営してたり、ギャバン教の大きい神殿もあるけど、どうもねー」


騎士団の実力としては、あのレラの眷属に立ち向かって行くくらいには士気も高いし、アリシア達がいたこともあるけれど、死者は出なかったくらいだから、かなりのモノだ。


 ただ、ネクロマンサーの件ではあまりにも対応がお粗末だった。


「魔術についてはルーちゃんに研修を頼んだりとか、は無理そうかなー」

アンナマリーから騎士団の剣士でも魔法の心得がある人がいるとは聞いている。けれどそんな人達がルビィの講義を理解出来るかどうかもあるし、そもそも学院の仕事で忙しいから、頻繁にモートレルには来ていないと聞いている。


「それでアーちゃん、冒険中に私やハルキスに魔術を教えてくれた腕前を見込んで、ちょっと教えてくれない?」

「んー、考えてはみるけど、ボクも向こうでの日常があって、こっちでも今後どうなるか解らないからね。王様に何を言われるか次第だねー」


 謁見の話については、王宮から直接アリシアに連絡出来るルートがないので、ヒルダかルビィ経由で来るはずだけど、まだそれはない。


 事情は伝えているから、こっちの世界に帰ってこいとは言ってこないと思う。爵位は貰うとして、土地については断っている人もいるから自分もそれに習いたい。


 ただそれだと王様に失礼だし、爵位を貰いながらこの国への愛着というか王家への忠誠が疑われる。土地は断るけれど、フラム王国には今後も関わるという意志を示して、代わりのモノを貰う、で着地をしたい。


 とすると選択肢は限られる。


「今の生活は随分と性に合っているのね?」

「建物は特殊な場所にあるけど、今のところはやめる気はしてないねー。料理も覚えたいし、入居者にも管理人を辞めるなって言われてるし」

「私的にはお隣さんなわけで、料理を色々と持ってきて貰いたいわ」


結局は腹ぺこさんなワケだ。


「色々考えておくけど、とりあえず館の仕事があるから、そろそろ帰るね」

「そうそう、劇団に顔だけでも出して貰える? アーちゃん役の子が事件のこと気にしてるかもしれないじゃない?」

「あ、そうかもねー」

読んで頂きありがとうございます。

評価とか感想とかブックマークとかいただけましたら、私はもっと頑張れますので

よろしくお願いします。

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