大事件の後は -1-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
『アリシア=カリーナ帰還する』
旧ワグナール帝国残党によるモートレル占領事件が解決した報告を受けて、フラム王国国王マーロン=レス=フラムは、この喜ばしい情報を王都ラスタルに発した。
王都は魔女戦争を終結させた六英雄の一人アリシアの生まれ故郷ということもあり、町中に衝撃が走り、王都のあらゆる場所で歓喜の声が響き渡った。
しかも旧ワグナール帝国残党が企てた再興計画を、冒険仲間であったヒルダとルビィ、そして現在の三将軍の一人、ランセル=エバンスの長女アンナマリー達と共に打ち砕いたのだから、それはそれはセンセーショナルに発表された。
この話は国王領だけでなく、王国全土を駆け抜け、周辺国へも広まっていくだろう。
* * *
「ようやく今日が終わりそう」
事件の後処理と、モートレルの確認にやって来た王宮騎士団と王立魔法学院への報告も終わり、町の人へのカレーの配給も終わった。
「アーちゃん、今日はお疲れ様。それにしても長い一日だったわね」
昨晩は王者の錫杖によって町が占領されていた頃だ。それがもう、町は一応の平穏を取り戻して、お祭り騒ぎ状態だった市民達も眠りにつく時間だ。
モートレルの町は戦闘の余波で所々が壊れてしまったけれど、幸い住居への被害は少ないと言える。修理が必要な建物の多くは、早速今日から修理が始まっている。
町にはしばらくは騎士団による特別警戒が続くだろうけれど、とりあえずの悲劇は避けられ、無事と呼べる状態で事件は終わった。
「久々の大きな仕事だっタ。魔法学院としては大きな宿題が出来てしまったガ」
実行犯であったユリアン元皇女と魔術士オーレイン及び数名の生き残りは捕縛され、早々に王都へ連行されていった。これから拷も…、ではなく尋問が行われていくだろう。この事件の裏で暗躍していた人物の事も解るといいのだが。
「色々レポートをあげなきゃならなくなっちゃったなー」
王者の錫杖に神降ろしの杖、それから結界装置はこの世界の技術ではない。霞沙羅に相談しなければならないけれど、ラシーン大陸の魔術に翻訳して、対応策も考えなければならない…。
「自分から口にしておいてなんだけど、何でボクがレポートを出さないとダメなんだろ?」
「今のところアーちゃんしか解らないからじゃないカ。職員としては辞めたが、アーちゃんは魔導士として学院に所属している事になっているゾ」
「まあ危ない道具だしね」
皇帝の血筋が残っていないとも言い切れず、またどこかで使われるかもしれないし、世界を越えている魔工具という事実から、日本も安全とは言えない。事件については、日本の軍人である霞沙羅に伝えておいた方がいいことは確かだ。
「ところでボクに爵位をくれるとか、土地をくれるとかって話は無しになってるよね?」
「アーちゃんは生きていることになっているから、王様の方で保留になっているゾ。これで王宮もアーちゃんが帰ってきた事を知ったわけで、予定通り授与されるナ」
「いらないのにー。ボク向いてないでしょ、そういうの」
「それは王様に相談するのね。でも爵位は貰っておいた方がいいわ。拒否したら国のシステム上まずいのよね。アーちゃんが辞退したら今後の爵位の授与に悪影響が出るわね」
「功績に対する国からの評価だからナ。今回の件も足したらアーちゃん以上の人間は百年は出ないだろうし、そんな人間が貰ってしかるべき褒賞をあげないとなったら、周辺国にも王家のメンツが立たなイ」
「なら皆貰ったの?」
「爵位は皆貰ったわ。土地は私とハルキスが貰って、領地がちょっと広くなったわ。イリーナは神官として土地を辞退して、ライアは劇場購入代を貰ったわ」
とはいえ聖職者であるイリーナが土地も受け取らないのは、これは仕方が無いことだろう。
「私も魔法学院に戻るから、領地は貰わなかったが代わりにラスタルの小さな屋敷を貰ったゾ。それでお金をちょっと増額してもらっタ」
「土地は辞退出来そうだね」
「今後アーちゃんがどうするのかは知らないが、家の土地くらいは貰っておいたらどうダ? かといって私の家はアーちゃんが想像しているようないかにもな屋敷じゃないゾ。今度見に来たらいイ」
「対応は考えておくよ」
いずれ帰る世界だ。フラム王国から出ていくという考えは無いから、王様とか国のメンツを考えて、何かしらは貰っておくのが正解だろう。
近々王宮から連絡が来るだろうし、その時に条件を見て相談してみようと決めた。
* * *
あれから一晩明けた翌日の朝。アリシアはいつもの通り朝の準備をして、朝食を食べたアンナマリーはモートレルに出掛けていく時間になった。
「アリシア様、行って参ります」
「今まで通りにしてくれていいんだよ」
それにしてもアンナマリーの態度がおかしい。今までは騎士修業に身を置く自分を鼓舞する為に突っぱった口調だったけれど、事件のあった朝を境に、まるで憧れの英雄でも見るような、真摯な態度を取るようになったのだ。
「ここはアンナマリーが一日の疲れを癒やしに帰ってくる家だからね。アリシアがいるからってそんな、緊張感漂う生活をしなくていいんだよ。この家の中では伽里奈でいいんだよ。ボク達は家族みたいなものだからね」
「善処します」
憧れのアリシアの家にいるという嬉しさもあるし、英雄様が食事を始め色々な世話をしてくれて、剣も魔法も教えてくれているというのもあるからか、生来の貴族的なアンナマリーになってしまった。やっぱり真面目。でもアリシア的には今まで通りでいてほしい。
しばらくはお願いを聞いてくれそうにないアンナマリーを送り出して、アリシアも伽里奈として高校に登校した。
* * *
「おー、伽里奈おはようさん」
「エリアスもおはよう」
学校までの道の途中で中瀬と早瀬に出会った。いつもの挨拶、ここには変わらない日常がある。たったそれだけなのになんて素晴らしいのだろうと思えてしまう。
「悪いんだが、今日の放課後にちょっと付き合って貰えるか?」
「来週に試験があるのよ」
今回は魔術でも筆記の試験だ。普通科の試験といえば中間期末テストだが、魔法術科の方は月イチペースで小テストがあって、日々の実技と座学の理解度が試される。
まだ1年生とはいえ、将来は魔術師としてやっていこうという覚悟を決めて入学してきた生徒達だ。魔法術科には部活動がなく、なかなか学生らしい自由は少ないけれど、確実に将来の目標を持って入学したわけだから、テストが多い事に不満を漏らす生徒はいない。
アリシアだって王立魔法学院に入学してから卒業まではバリバリと魔術の勉強をして、向こうの世界のあまり快適ではない文明の中で、工夫に工夫を重ねて早期の卒業を勝ち取ったのだ。紙は使い放題、事務用品は豊富、本も売っている、エアコンや空調も完備、夜は電気をつければいい、という恵まれた環境に身を置いている彼らからの苦労話は、正直甘いと言える。
それでもこの2人はこの世界での、初めてのごく普通の友人だから、その縁もあって今後も手伝いをしたいと思う。
ただ、この2人が自分の実力を知ってしまったら一歩引かれるだろうなとは感じている。それまでは、出来る限り付き合っていきたい。
「じゃあ授業が終わったら連絡頂戴ねー」
平穏な学生生活が一日でも長く続きますように、と祈りたい。
でもその祈りは誰に願えばいいのだろうか。
隣にいる女神様は違うかもしれない。
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