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 テレビに一人の男が映し出されていた。名前は望月健で、かつての大学の同級生だった。


 望月が出ていたのはクイズ番組で、彼はよく解答を間違えていた。頓珍漢な答えが司会者に面白がられ、視聴者が楽しむまでがワンセットだった。

 

 望月は端正な顔をしていて、近頃、テレビに良く出ていた。ある大会社の御曹司で、既に独立して事業を始めていた。有望な若手経営者というのが彼の肩書だった。ところが、切れ者であるはずの彼は、テレビでは天然の、とぼけた事を言ったりするのでその部分がアクセントになって人気が出た。もちろん見た目のさっぱりした所、端正な顔も原因だった。僕はその顔をじっと見ていた。変われば変わるものだ、と思ったが、いや、元から何一つ変わってやしない、とも言えた。

 

 僕がじっと見ていると、妻が隣にやってきて肩に手を置いた。妻は風呂から出たところだ。

 

 「あら、望月さんじゃない」

 

 妻は画面を見ながら言った。僕は何も答えず、二人で五分ほどじっと画面を見つめた。ふいに妻が口を開いた。

 

 「望月さんってあなたと大学同じだったのよね」

 

 「うん。サークルも同じだったよ」と僕は言った。

 

 「へえ、凄いじゃない!」

 

 妻は嬉しそうに言った。画面は望月ではなく他のタレントを映していた。

 

 「凄いわね! あの望月さんと同じサークルだったなんて。羨ましいわ!」

 

 「…そうでもないよ」

 

 僕はじっと画面を見ていた。妻がこっちを見ているのに気づいていたがあえてそちらを見なかった。

 

 「ねえ、何かエピソードがあるんじゃない? 望月さんの、面白いエピソード。いつもの…お金持ちエピソードとかさ」

 

 「…いや、あまり覚えてないんだよ。あまり話さなかったしね。他の奴とつるんでたからさ。それにああいう人は大学生の頃から忙しくて、大学にはあまりいないんだよ。それで、あまり昔の仲間って感じはしないんだ」

 

 「…そう」

 

 妻は残念そうに言った。画面は再び望月を映していた。また望月が司会者にいじられていた。望月が何か滑稽な事を言ったのだ。

 

 「…あなたは、望月さんの事を話したがらないのね。避けているように見えるわ。…何か嫌な事でもあったの?」

 

 僕は宙を見た。少し考えて、ゆっくり首を横に振った。妻の顔を見て「別に何も」と言った。妻が使っているシャンプーの香りがふと匂った。

 

 「ないよ。何も」

 

 「…そう」

 

 その後、妻は自室に戻ってドライヤーを使い出した。その音がここまで聞こえる。僕はリビングに向かったままテレビを見ていたが、ふとテレビを消した。

 

 部屋は静寂。僕は大学生の頃を思い出した。妻には言わなかったが、望月と一度だけ長く話し込んだ事がある。それは非常に不快な記憶だったので頭の奥底にしまい込んでいたが…それが鮮やかに思い出された。あの時の望月は今の望月とは全く違う……いや、あの頃も今も全く同じ望月だった。同じ人間だった。何も変わっていない。そう言った方が正しいだろう。僕は彼が話した言葉の一つ一つを思い出した。自分でも驚くほど、鮮明に覚えていた。

 

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