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柴田とサッコ  作者: 名雲屋良内
23/27

反転


⑩反転


 戦局はソマリア軍が増援しても、膠着は続き、一週間が経った。

 一度、金澤がいなくなった。金澤は、国境に向かったのだ。塹壕掘りの服装をしていた。

 途中、軍の検問に止められると認識カードとミキに書いてもらった「シモン大尉」のメモを見せた。

 兵士が問い質しても、金澤は「シモン、シモン」と、言うだけだ。

 兵士は、困惑しながら通過を認めた。

 金澤は国境に向かった。前方に黒煙が見え、砲撃音が散発的に聞こえた。

 塹壕の手前に車を止めて外に出た。

 近くにいた兵士に「シモン大尉」と書かれたメモを見せた。

 兵士は金澤を近くの塹壕に連れて行き、地肌にもたれる男を指差した。

 男は顔を上げ、金澤を認めると両手を広げる。

「カナザワ」

 シモン大尉は塹壕に金澤を引きずり落とした。それから、呆れたように、笑い出した。

「タンク、タンク」

 金澤は頻りに繰り返した。

 やっと理解したシモンは、悲しげに首を横に振った。

「駄目か」

 金澤はうなだれた。

 シモンは金澤を連れて塹壕を移動した。途中で地上に上がると、近くに一輌の戦車がいた。

 シモンは金澤に耳をきつくふさぐ仕草をして見せて、そのまま戦車の後ろに回り込んだ。

 金澤は前方を見つめていた。しばらくすると、轟音とともに砲撃があった。砲筒の先に火炎が見えて巨体が揺れた。

 シモンが親指を立てると金澤も同様に返した。

 金澤は負傷兵を乗せて帰還した。

 戻った金澤にサッコたちが呆れたのは、言うまでもない。ギョーマンには、小言を食らったが金澤は嬉しそうだった。

 アリクイはフランス軍が怖くて、空軍機を出せなかった。

 そうしている間にソマリアの鉄道網は、首都から北の路線が寸断された。

 国民は、アリクイに怒りだした。人々には何故、戦争をしているのかが判らなかった。

 先日まで戦争していることさえ知らなかったのだ。次は何を攻撃されるのか判らなかった。

 軍にはアリクイの妄動を苦々しく思う者が当然いた。軍は北部に集められていた。戒厳令が出ていたが、首都の守りは手薄になっていた。街中は、北部からの避難民で溢れていた。

 陸軍中将ペトルスは避難民を眺めながら考えていた。

 ソマリアの大将はアリクイだけだから、ペトルスは実質、軍のトップと言えた。

(アリクイを逮捕するべきだ。もう、奴も十分だろう。下らん戦争ごっこは止めさせなければならない。罪状は、国家転覆罪だ)

 一人頷くと、子飼いのトレス大佐を部屋に呼んだ。

 トレス大佐の指揮する小隊が、官邸に車を横付けしたのは夜明けだった。

 警護の衛兵が挙手する。

「歩兵連隊トレス大佐だ。ペトルス中将の命令により元帥閣下を避難させる。敵国は首都を爆撃する模様である」

 二人の衛兵は、顔を見合わせた。

「お前たちも、俺達が官邸を出たら警護任務を解く。上官の所に行って、ここを離れる事だ」

 トレスはそう言って中に入った。

 部屋の前にいる衛兵にも同様に言って扉を開かせた。

 アリクイは物音に目を覚ました。

「何事だ」

「フランス軍のミラージュ爆撃機がソマリに到着した模様であります」

 アリクイは「フランス軍」と言う言葉に敏感に反応した。アリクイは慌てて、ベッドから飛び起きた。

「シェルターに行こうと云うのだな。分かった、官邸および最高司令部を移動する」

 アリクイは元帥服を着て、車に乗り込んだ。

「ご家族も別隊が保護致しますので、御安心されますよう」

「よろしく、頼む」

「午後には、各司令官もお出でになるでしょう。御側の者はすでにおりますので御用を言い付け下さい」

 トレスからの報告を受けて、ペトルスは衛星回線を使いソマリ軍令部に電話をした。

 電話はギョーマンに回って来た。

「あなたは」

「ギョーマン少佐であります」

「私はソマリア軍ペトルス中将だ。今朝、大統領を拘束した。司令官と話したいのだが」

 ギョーマンはフーリエ大将に変わった。

「先程本国大統領を拘束した。九時を以って停戦、撤退を開始する旨伝える。合意頂けると思うのだが」

 フーリエはソファーに座るギョーマンに親指を突き上げた。

「合意する。連絡に感謝する」

「国土を荒らした事は申し訳ない」

 電話会談はすぐに終わった。

 ペトロス中将は、直ちにテレビで会見を行った。

「これを見ている皆さんは、外にいる避難民も呼んで下さい」

 一度、席を外して三分後。

「本日早朝、戒厳軍令部は大統領を逮捕しました。罪状は国家転覆罪であります。司令官全員の総意であります。それにより大統領および最高司令官の職は解任されました。現在、継続している北国境での戦闘は九時を持って停止する。ソマリからの攻撃はありません。避難された方は、速やかに戻って下さい。なお、戒厳令は継続されます」


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