塹壕、侵攻
⑥塹壕
金澤はどんどん掘り進んだ。
幅二メートル、深さ二メートルの塹壕だった。掘削機は堀江の手足となっていた。
掘り出した土は土塁にした。
日本のように埋設物はないから、気兼ねなくバケットを地面に突き刺した。
総延長十五キロメートルの塹壕が完成した日、シモン大尉は満面の笑みで現場を上がった金澤を迎えた。
金澤はシモン大尉が何を話しているか理解できなかったが握手をして帰って来た。
⑦侵攻
ソマリアの大統領選は、塹壕ができた三日後に行われた。結果は二日後に、アリクイが約七割の票を得たと発表された。
今回は改革派とされる大学教授の立候補を容認して、公正な選挙をアピールした。
不正の声は当初から上がったが、当然、無視された。
アリクイが夕刻、議会で就任演説をしている最中、ソマリア軍は北の国境から、ソマリに進攻を開始した。
戦車三十輌と支援車輌、歩兵五百の地上部隊のみで国境を越えようとしていた。
アリクイは空軍機を出さなかった。
ソマリ軍は、戦車十輌と自走砲三輌、重機関銃、対戦車ミサイルと歩兵三百が塹壕、土塁から抵抗する。
ソマリア軍の戦車は国境に並び、一斉に火を吹いた。迫撃砲の砲弾は塹壕に土煙を上げた。
ソマリ軍の兵士は塹壕で身を屈めた。ソマリア軍の戦車群は鉄条網を踏み潰し、進撃した。
ソマリ軍から煙幕弾が放たれ撃ち方が止んだ。と同時に、ソマリ軍の背後から、ジェット音が響いた。二機のミステールが飛来した。アメリカのF86に相当する中古品だった。ミステールはソマリア軍に低空から爆撃を加えると、急旋回して戻って行った。古くても、小回りが利く。
爆弾は陣形中央で炸裂した。相手塹壕を確保すべく、遮蔽がないサバンナを強引に進軍するソマリア軍への打撃は少なくなかった。
戦車が二輌止まり、兵員に負傷者が出ていた。隊列は止まった。
これを機に、ソマリ軍も本格的に応戦を開始した。戦車は土塁から姿を現し、自走砲がサバンナを走り回った。歩兵は対戦車砲を担いで土塁を走り、機関銃音が鳴りつづけた。
日が沈み、闇が訪れる。
ソマリア軍は、国境まで退却し両軍は、対峙したまま膠着した。翌朝、アリクイは部隊を増援したが、やはり空軍機を出せないでいた。
今日は新月、ギョーマンに内通者から連絡がきたのは昼だった。
『作戦開始は二三〇〇、爆破は〇〇〇〇』
夕方、サッコたちはギョーマンから、それを告げられた。
戦闘はソマリのニュースに流され、砲撃砲音も聞こえたが、ホテルの客に騒ぎはなく不思議な事に、どの国からも退去指示は出なかった。
百キロ先では戦闘が行われていた。
中には、車で見物に行った老夫婦もいた。夫はインドシナから、コンゴと紛争を渡り歩いた退役兵士だった。
血が騒いだらしい。当然、途中で追い返されたのだが、交戦の音を聞き、さらに勢いづく夫のおかげで妻も喜んだ。
サッコたちは、今夜の爆破でチームの任務が完了する。一度きりしか通用しない作戦なのは誰もが知っていた。
成功は、祈ってもしかたがない。出来うるならば死傷者がでないことを願うだけだった。夕飯を済ますと各々、部屋で帰国後を思い浮かべていた。




