表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
寄生悪役令嬢は星間戦争の夢を見るか  作者: エシェリキア梱


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/47

第34話 鬼の里


 鬼の女性は(たくま)しい腕を組むと、鼻息を荒くする。


「ったく、短時間とはいえ街中に作るとか。次会ったらただじゃおかねぇ」


 怒りを吐き出してから、彼女はクラウディアへ向き直ると、太陽のような笑顔を見せた。


 座敷のふかふかした座布団の上にクラウディアをそっと下ろし、女は「アタシは紋女(あやめ)、で、こっちが愚息の石蕗(つわぶき)」と自己紹介してから、再度不手際(ふてぎわ)を詫びた。


「ごめんなぁ。息子の悪友がちょっとオイタやらかしちまったらしい。ちゃんと家に帰してやるから安心しな。……でも、ここからリァマに戻るにゃ徒歩で20日はかかる」

「え」

「ゲートは術者が戻らないと開かない。それまでここで待っててもらえないかな」


 逢魔が辻(おうまがつじ)のような自然発生の現象とは違い、ゲートは術者が任意で作れる空間通路らしい。

 ゲートを作るのは誰でも出来るわけではないため、術者の帰還(きかん)を待つ他ないとのこと。


 クラウディアは少し考え――(うなず)いた。


 紋女(あやめ)は満面の笑みになった。


「こいつ、モジャモジャでオタクで引きこもりだけど、根はいいやつだから仲良くしてやってな」


 石蕗(つわぶき)が顔を真っ赤にする。


 クラウディアは言った。


「はい。申し遅れました。私、クラ――」


 そこで言葉が止まった。


 真名(まな)


 イブリムの警告が頭をよぎる。

 真名(まな)を明かすのは危険な場合がある。


 クラウディアは言い直した。


「私は、クラと申します」

「おクラちゃんか」


 紋女は感心したように頷いた。


「はぁぁ、なんか品がいいね。どっかいいとこのお嬢さんだろ?今頃おうちの人が心配してるに違いないよ。とりあえず早馬で知らせを出すから、連絡先教えてくれるかい?」


 クラウディアは少し考えてから、答えた。


「……管理人事務所へお願いします」


 まだイアポニアに入植したばかり、という理由をつけて、連絡先にはイブリムを指定する。


 紋女(あやめ)は頷いた。


「ほんとごめん。迎えが来るかゲートが開くまで、むさ苦しい家だけどゆっくりしていってくんな」


 そう言うと、紋女(あやめ)は女中頭を呼び、クラウディアの世話を命じた。

 女中頭の老女の名は桔梗(ききょう)といい、背丈は紋女(あやめ)の半分ほどしかなかった。小さく、顔に(しわ)が深く刻まれてはいるが、背筋はシャンとして元気そうだ。


「かしこまりました」


 桔梗(ききょう)はクラウディアを見るや、カッと目を見開いた。


「この娘は……まさか、坊ちゃんの嫁御(よめご)では……?」

「いや、この子は訳あって一時預ってるお客様で……」

「なんと!」


 桔梗(ききょう)の目がぎらりと光った。


「この(ばば)安堵(あんど)いたしましてございまする!人間を嫁御(よめご)にとは、さすが坊ちゃま!ついに!ついにでございますなぁ!!」

「だから、いや、ちょっと待って」

「お任せくださいませ!」


 ぐい、とクラウディアの腕を(つか)む。


「この家に相応しい嫁御(よめご)として、きっちり教育いたしますゆえ!」

「ちょ、待っ、桔梗ぉ?!」

「おや、まぁ、なんと細いこと!」


 ずい、と顔を寄せ、クラウディアの腰回りをまじまじと見つめる。


「こんな細腰で元気な赤ん坊(ややこ)が産めるものかね!こっちゃおいでなさい!まずはたんと美味しいもの食べさせねば!」


 嵐のように現れた小柄な老女・桔梗(ききょう)。彼女の脳内では、すでに『石蕗(つわぶき)の結婚式』から『初夜』『懐妊(かいにん)』『安産』までの工程表が完成しているようだった。


「ちょ、待っ……桔梗(ききょう)ってば!」


 紋女(あやめ)の制止も虚しく、クラウディアは『将来の安産』のために美味しいものを食べさせるという名目で、奥座敷(おくざしき)へと拉致(エスコート)された。


 着物なのにスキップのような弾んだ足取りで駆けて行く桔梗(ききょう)を止められる者はいない。


「え、待てって、ききょ……ぉぅ……」


 紋女(あやめ)の悲鳴は虚しく響いた。


「……もぅ……石蕗(つわぶき)ぃ……」


 気の強そうな眉を八の字に曲げて、紋女(あやめ)が困り切った声で息子に顔を向けると、お手上げとばかりに石蕗(つわぶき)が首を振る。


 長年この家に仕え、石蕗(つわぶき)を実の孫のように可愛がっていた桔梗(ききょう)にとって、気が弱く引きこもりの石蕗(つわぶき)は心配の種であった。そんな石蕗(つわぶき)が急に妙齢の女性を連れて来たイコール嫁取りヒャッハーという図式が、桔梗(ききょう)の中で出来上がってしまったらしい。


「今は興奮して耳に入らないだろうから、落ち着いてから訂正しよう」

「分かった……。あ、でも、誤解を事実にしちゃってもいいかもね」


 紋女(あやめ)がおどけて「あの子の布団、お前の部屋に敷いちゃう?」と聞くと、石蕗(つわぶき)は赤くなったり青くなったりしながら、


「もう!だから嫌いなんだよ、鬼族の女は!」


 と怒りながら、足音を立てて母屋から出ていく。


 うちの息子の方は満更(まんざら)でもねぇ感じだなぁとニヤニヤしながら、紋女(あやめ)は目の前の湯飲みを(あお)った。


   ◇


 奥座敷は(くりや)を二間挟んだ場所にある。


 差し出されたのは、(かまど)で炊き上げられ、お(ひつ)で絶妙に水分を調整された白米。そして、煮魚と香の物、湯気を立てる具沢山(ぐだくさん)の味噌汁。


 一度夕食を済ませたはずなのに、その匂いでクラウディアの食欲が刺激された。


「鬼の食事は人間と全く変わりませぬゆえ、安心してたぁんとおあがり下さいませ」

「ありがとうございます。いただきます」


 クラウディアはイアポニア式に手を合わせ、食事開始の挨拶をした。

 イアポニアに来てすぐに箸の練習を始めたため、今は上手に使いこなすことができる。


《β化からα化へ転移したデンプンの再結晶化。冷やした飯の食感は炊き立てとはまた違う旨さだな!》


 (かまど)で炊いた米を熱いうちにお(ひつ)に入れて冷ますと、炊き立てよりも粒が立って確かな歯ごたえを感じるようになるという。

 お米自体がおいしいのもあって、冷えてもモチモチ感の強いご飯。塩気の強いおかずも手伝って、てんこ盛りのどんぶり飯があっという間になくなった。


「まぁ、まぁ!なんと気持ちの良い食べっぷりでしょう!」


 桔梗(ききょう)は満足そうに頷く。


「かわいそうに、お腹が空いておられたのですねぇ。今日はゆっくりお休みくださいませ」


 品よく美味しそうにたくさん食べるクラウディアを気に入ったのだろう。

 嫁の教育だなんだと息巻いていたのはどこへやら、優しい目でクラウディアの食べっぷりを観察していた桔梗(ききょう)は、母屋(おもや)の北側にある離れの部屋へ案内した。


 ふかふかの布団。

 スルスルの肌触りの良い絹の寝巻き。

 布団に入ると、あっという間に眠気がクラウディアの意識をさらった。


《ところでヨメゴとかヤヤコってなんだろうな?》


 そんな一抹(いちまつ)の疑問を抱いたまま――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ