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寄生悪役令嬢は星間戦争の夢を見るか  作者: エシェリキア梱


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プロローグ


 機体は(つんざ)くような轟音を立てながら、振動と蛇行を繰り返す。

 外殻に走った亀裂からは火花が散り、制御翼はすでに半ば機能を失っている。

 追手の包囲網を突破するため、損傷したまま強制ワープを敢行した代償はあまりにも大きかった。


 目標地点からはるか手前でドロップ。

 恒星間航行用の計器は沈黙し、外部センサーもノイズだらけ。

 ここがどの銀河かすら判別できない。

 それでも──一定方向へと引かれている。


 計算ではなく、感覚。

 核の奥にある重力感応層が微弱な勾配を捉えている。


 この落下感が正しいならば、転移先はどこかの惑星。

 しかも重力定数から推測するに、そこそこの質量を持つ天体だ。高温ガス巨星でもなければ、極低温の死星でもない。

 生存確率は上方修正された。


 だが問題は着地だ。

 高度が下がるにつれ、速度が指数関数的に増していく。

 大気が牙を剥き、外殻を削り取っていく。

 断熱タイルの剥離した箇所から、摂氏数千度のプラズマが内部回路を焼き、警報(アラート)が意味を成さない悲鳴となって思考領域を埋め尽くした。

 摩擦熱が赤く視界を染める。

 厚い雲を突き抜けた瞬間、視界が開けた。


 青。

 そして緑。


 水面が光を反射している。雲の影がゆっくりと流れ、地表には濃淡のある色彩が広がる。


 水がある星。


 訓練課程で映像として見たことはある。だが実物は初めてだ。

 柔らかそうな地帯を狙う。

 前方噴射で減速。姿勢制御。衝撃に備え、核の出力を最低限まで落とす。


 轟音。

 熱。

 閃光。


 ──暗転。


 意識を失っていたらしい。どのくらいの時間が経ったのか、機体が帯びた熱は冷えた。

 さすがに修理は難しそうだ。通信も不可能だった。


 破断したハッチをこじ開け、どうにか外へと這い出る。

 触れた地面は、しっとりと水分を含んだ緑。


【分析:元素構成C5%O80%H9%N3%P2%K1%…】


 植物。

 一定の割合で混成された大気、毒素を含まない水、多種の養分が含まれた土壌、全てが揃ってないと育たない生命。

 どこか遠い銀河の惑星で発見されたと軍の座学の授業で学んではいたが、実際に遭遇するのは初めてだ。


 これがそうなのか。

 柔らかい。


 感触を確かめながら、するすると前へ進む。

 まずは周りの環境を確かめよう。

 植物体が存在しているということは、他にも多種多様な生命が生息していることを示唆していた。

 直径5km以内の地形、生物を探知する。平地、樹木、点在して動く点はなんらかの小動物だろう。

 草、木、虫、石、土、草、虫、草、枯葉


 岩しか無い母星と違い、何という色彩の多さか。

 視覚素子が捉える情報量が飽和する。

 ただの“緑”ではない。深緑、若草色、濡れた苔の暗色。それらすべてが、生命の燃焼という名のノイズを撒き散らしていた。


 これまでに任務で赴いたどの星とも違う風景を持つ、青と緑の星。


 墜落地点から進むこと1.125km、背の高い建造物の下に、一つの生命反応があった。

 身を包む白い布を真っ赤に染める液体はじわりじわりと大地を潤していた。

 柔らかい土と草がクッションとなり、かろうじて息を続けていたが、もうすぐこの生命体は死ぬのだろう。

 翠の双つの水晶体の先に偶然いる自分に、どういうわけだか、助けてほしいと言っているように感じた。


 真偽はどうでもいい。正直なところ既に限界が近かった。

 墜落の衝撃で核細胞に傷が入っているうえ、慣れない元素構成の中にいるのだ。

 何か、この星の生命に寄生しなければ、溶け落ちるかもしれない。


 そうなると、目の前でまさに今朽ちようとしているこの体は、絶好の宿主に思えた。

 適度な大きさがありつつ、死にかけで免疫系が満足に働く余力の無い、新鮮な肉体。

 水晶体の横に開いた小さな穴から侵入する。

 死んでしまっては、宿主にならない。

 この生命体への理解を早急に行わなければ。


 耳から侵入、渦巻く細長い管を這い進み、血液の海へとダイブする。

 HLA抗原を合わせて、宿主の細胞に擬態。免疫系を騙す。

 外皮に空いた傷から、赤い液体に塗れた内容物が出ている。おそらくこれは生命の維持に必要なものだろう。外皮の細胞を模した細胞を作り、傷を塞ぐ。

 流れ出した体液が足りないので、それも自分の組織を使って補充する。そして体液を送り出すポンプの役割をしている臓器の動きを強める。


 多種多様な小さな細胞を連結した集合体。

 ……この粘土細工のような肉体は、あまりに脆く、そして、温かい。


 ぺっ


 彼女の消化器を焼いていた毒を、粘膜で包み込み、異物として体外へ排出する。

 侵入のため水よりも僅かに粘度がある状態に調整した自身の細胞は、想定通り素早く体に馴染み、損傷した細胞と入れ替わった。

 毛細血管を逆流し、全身の細胞へと同期(シンクロ)していく。

 早鐘の如く脈打っていた心臓は、寄生生物の制御下で、機械的なまでに正確なリズムを取り戻し始めた。

 肺胞が酸素を吸い込み、赤血球がそれを運ぶ。


 修復を終え、試しに四肢を持ち上げてみた。

 問題なく動く。が……ひどいものだ。骨は粉砕され、関節はあらぬ方向へプランと折れ曲がっている。

 欠落した骨の代わりに、自身の細胞を瞬時に固化させ、継ぎ木のように補強した。


 まだ操縦は覚束ない。

 バラバラになった骨を自身の細胞で継いでいるが、これだけの数の個所を固化するのは時間がかかるので、仕方なくそのままグニャグニャと動かしてみる。

 しかし立ち上がろうとすれば、泥人形のように形が崩れた。

 この状態で安定するのは四つ這いだろうが、体に纏わりつく動きにくい衣服を考慮すると、二足歩行で移動するのが妥当だろう。


「少し、調整(レッスン)が必要だな」


 喉を震わせてみたが、出たのは掠れた空気の音だけだった。


 体液として全身を巡る過程で、上のパーツの中にある柔らかいものが、この集合体の司令部に当たることが分かった。


 想定以上に複雑な生き物だったようだ。

 記憶を司る領域から大量の情報がとめどなく流れ込む。

 それ以上に迸るのは、感情の熱。


 濡れ衣。

 断罪。

 婚約破棄。

 毒。

 怒り。

 哀しみ。

 絶望。

 そして塔からの投身。

 最後に見た光景。

 落下。

 恐怖。


 あのとき、双眸で訴えてきたと思った言葉は、「助けて」で間違いはなかったのだ。


 幾多の戦場で鍛えた頭脳(に当たる部分)が、瞬時に戦略という名の一つのシナリオを書き上げる。

 この、文字通り“死の淵からの逆転劇”には、どのようなタイトルが相応しいものか。

 寄生生物は、血に濡れた頬の筋肉を引き攣らせる。


 それは笑顔と呼ぶには、あまりに禍々しかった。

ご覧いただきありがとうございます!

完結まで書き溜めておりますので、順々に投下していきます。

お楽しみいただければ幸いです。

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