六十三話 好きな花
両親……いえ、レインフォード伯爵夫妻が連行されてからのこと。
私達は兵士達と一緒に地下牢に捕らえられていた女性や子供たち……そして、ベラを無事に助け出すことが出来た。
捕らえられている者達は皆どこか怪我をしていて、心が痛んだけれど……。
ベラ以外の方々はちゃんと、王家の方で責任を持って治療してくれるとのことだった。
ベラはというと……本人の意思で、公爵邸に残ってくれることが決まった。
私は「こんな目に遭ったのに、本当にいいの?」と聞いたけれど……。
ベラは涙を流しながら笑って、「公爵夫妻にお仕えすることが、私にとって一番の幸せですから」と言ってくれた。
その言葉に、思わず私も涙ぐんでしまったのはここだけの話。
……ちなみに、セーラは声を上げて泣いていた。
それから……馬車で公爵邸に戻っている最中、ベラが不思議そうに私に問いかけた。
「奥様は、どうして私の偽物を見破ることが出来たのですか?」
「あら、すぐにわかったわよ。だって……彼女の手袋は、アイリスの刺繍が入っていない無地の新品だったんだもの」
「あ…………!」
ベラが目を見開く。
私は微笑みながら、ベラに語りかけた。
「クラウド様が記憶を失って落ち込んでいる時、私を少しでも元気づけようと、あなたはアイリスの刺繍が入ったハンカチをくれたわよね。……すごく、嬉しかった」
「そんな……奥様を支えるのは、使用人として当然のことです。それに……その後に奥様からアイリスの刺繍が入った手袋をプレゼントしてくれた時から、私は奥様に一生お仕えすると決めたんです」
「ふふ、ありがとう……本当に」
ベラが涙を流しながら、手袋を握りしめる。
私はそんな彼女の手を優しく包み込んで、静かにお礼を言って……それから問いかけた。
「ベラ、あなたの好きな花は何?」
ベラは一瞬ぽかんと口を開けてから、すぐに笑顔で答えてくれたのだった。
「もちろん、白いアイリスに決まってます」
……窓から差し込む朝日に照らされる彼女は、とても綺麗だった。
長い夜が、ようやく明けようとしている。
何にも縛られることのない自由な朝が、これからようやくやって来るのだ。




