六十四話 愛してる
公爵邸に帰ってきた頃には、夜が明けてとっくに朝になっていた。
私は重圧から解放されたということもあって、とにかく眠くて……。
ふらりとした足取りで馬車を降りようとした時、フワッ……と身体が浮いた。
クラウド様に抱きかかえられたのである。
「ク、クラウド様!?」
「はは、言っただろう? 帰りは俺にエスコートされてくれと」
「た、確かに仰っていましたが……! これは流石に恥ずかしいですわ……」
真っ赤になって抵抗すると、クラウド様が愛おしそうな目で見つめてくるものだから……私はすっかり降参してしまった。
……うぅ、侍女や門番達の温かい目が気恥ずかしいわ……。
クラウド様はそのまま、なんと私の自室まで私を運んでくださった。
ゆっくりと、ベッドに下ろされる。
それから……優しく口付けをされたかと思ったら、クラウド様が慣れた手付きでドレスを脱がせていることに気付いた。
「な、なにを……んっ……!」
「……そろそろ、俺達も次のステップに進んでもいいと思わないか?」
「それは……で、でも、私汗かいてますし……、そもそもまだ朝ですわよ?」
「そんなの気にしない。それに……この汗は、君が頑張った証だから、俺はとても綺麗だと思う」
「ま、またそんなこと言って……。ふふ、もう……仕方ないですわね」
クラウド様が私を優しく押し倒す。
私は、それに応えるようにクラウド様の背に腕を回した。
「リリー……愛してる」
「私もです、クラウド様……大好き」
ギシッ……とベッドがしなる音がした。
____こうして自由になった私達は、ようやく身も心も結ばれることとなったのである。
***
……ゆっくりと、瞼を開く。
どうやら疲れて寝てしまっていたみたい。
まぁ、徹夜明けであんなことしたら、疲れて当然よね。
……思い出すと、ちょっと恥ずかしいけれど……でも、すごかったな……。
「身体は大丈夫か?」
私が目を覚ましたことに気付いたクラウド様が、労わるように声をかけてくれた。
「……はい、少し違和感はありますが……それよりも、とても幸せなので」
「……そんな可愛いことを言わないでくれ」
そう言ったクラウド様のお顔は真っ赤で可愛らしくて……。
さっきまでとのギャップに、ズキュンと心が撃ち抜かれる。
そんなことを考えながら……私はふと、疑問に思っていたことを問いかけた。
「そういえば……あの兵士達は、クラウド様が呼んでくださったのですか?」
「あぁ、君が昨晩伯爵邸に向かうと聞いて、急いで指示を出したんだ。俺達の少し後に出発してもらったんだが……結果的に良いタイミングだったな」
「えぇ、これ以上ないくらい最高のタイミングでしたわ。それに、書状も……。私のお願いを叶えてくれて、ありがとうございました」
私が笑ってそう告げると、クラウド様は優しく笑いながら私の頬を撫でた。
「他でもないリリーの願いだからな。証拠を掴むのには少々時間がかかってしまったが……間に合ってよかったよ。それに公爵家の力があれば、王家にコンタクトをとることだってそこまで難しくはないしな」
……本当に、すごい方だわ。
クラウド様がいなければ、あの二人を追い詰めることなんて絶対にできなかった。
私、こんな素敵な人と結婚できて、本当に良かった。
「……愛しています、クラウド様」
私がそう言うと、クラウド様は目を細めてから「俺の方が愛しているよ」と言って、優しく口付けをしてくれたのだった。
***
それからの話。
あの二人……レインフォード伯爵夫妻は、公開処刑されることが正式に決まったそうだ。
けれど、私はその光景を見にいくつもりはない。
だって、もう私には関係ないことだもの。
私は、私の人生を歩んでいくわ。
____これからの私には……クラウド様や屋敷の皆との、自由で幸せな人生が待っているのだから。




