稚拙なバッドエンド(25-26、もしも)
安易なハッピーエンドを壊す
稚拙なバッドエンド
学園を走り回った
夜は更けて視界は最悪
ゾンビもメダマも何とか蹴散らせているが
学園の施設から少し離れた木々が生えているエリアに着いた
生い茂っている、という訳では無いが、草木で校舎や寮の明かりは見えない
道から外れた、暗くなった今だと近寄ろうとも思わないところ
何となく、来ていたら嫌だな、そんな感覚で様子を見に来た
「…」
あぁ、そして、そういう予感というのは当たるもんなんだと
まるでそれが必然かのように
こうなる運命のレールだったかのように
瀕死状態のヘラに今まさにトドメをさそうとしているゾンビを突き刺す
ヘラは地べたに這うように倒れていた
自身の血に、泥のようなゾンビの残骸などでその体は汚れていた
一見汚れているだけに見えるが、その背中に大きく裂かれた傷が見えている
服を貫通してヘラの背中をバッサリと
「…ヘラ」
呼びかけるが返事はない
触れれば体は冷たく、ピクリとも動く気配がない
息の確認をしようと顔を近づけるとヘラは目を開けて、固まっていた
もはや亡骸に見えるその姿
口元がうっすら笑みを浮かべたように見えたのは幻か
「…誰か、アルス、アルス!」
あの転移、すぐに移動できる手段を持つアルスなら医療機関への移動が間に合うかもしれない
声はしんと静まる木々のエリアを虚しくすり抜ける
まもなく、間も無くヘラが死ぬ
冒険者ならモンスター、魔物に殺されるのは覚悟の上だろう
ましてやこの学園ではその冒険者を育てる学校、こんなこともあるかもしれない
だから自分の知人が死ぬ時だけ世界を恨んで運命を憎むのは間違っているのかもしれない
宝くじに当たった、人の一生何回分、そんな額を手にした
そんな額があっても、使えなければ意味も価値も無い
あまりに無力だ
「…」
ヘラが笑ったような気がした
ドロドロの体を抱きしめる
無理に起こして抱きしめたのは傷口に響くかもしれない
抱きしめ返されたような気がした
これが最後かと思うと、ヘラの体の心配よりも自分のヘラを抱きしめたいという欲が勝ってしまった
視界が歪む、思考がぐちゃぐちゃだ
ヘラを助けたかった
意識が朦朧としていく
最後に見えた気がしたのは
紫の月だった
◇
「…あら、ぼうっとしていましたね」
宿屋に備え付けられた鏡の前で座っている
親に勘当されて学園を辞めて
訳あって冒険者になった気もしますが
「…記憶が曖昧ですね」
鏡の前に写るのは白い髪
わたし的にコンプレックスな大きくない胸、服装のセンスはあると思うのですが…誰かにコートでおおってろと言われた気もしますね
……「スレンダーで好みだなんて言われた気もしますね」
まるでモヤがかかったように思い出すことの出来ない彼
スターダスト家…から勘当されたラッセルはぼうっと鏡を見ていた
「だいたいネビュラのせいな気もしますが」
どうしてか存在する、ネビュラに負けた記憶
もしかしたら負けたのかもしれませんが、記憶の捏造から操作消去までやれかねないネビュラが
あえてここまで情報を残しているのは何かあると考えます
わりかし、お嬢様だったラッセルが、ネビュラ探しを目標に冒険者の一人暮らしをするのは、また別の話
◇
「彼がチェリーという機械世界の人物ですか」
「うん、シロさん」
モニター…?画面に映るのはまるで、いや、普通に独房だ
そんな部屋に中央で寝ころんだまま微動だにしない人物、チェリー
鍵はかかってない
あの夜、ヘラとともに回収したけれど
何かが欠落してしまっていた
焦点のあってないような目はまるで魂ここに在らずといったような
ヘラの傷は私を拾ったシロ先生のところに連れていったことでなんとかなるとの事だった
ヘラにいくつもの管を付けて青い液体の中に浸して…浸したまま、今もヘラは眠っている
「アルスは右足が無かったんですが、そうやって元気に動けるように、この子も元気になりますよ」
白い白衣の背中越しにとんでもないことをポロポロこぼすシロ先生
…私の命の恩人とは思っていたけど
私の足無かったの?言葉通りの命の恩人だったの?
実は蘇生だったりしてない?
チェリーはシロ先生と色々と契約したらしい
その内容までは教えてくれなかったけど
濁しながら答えてくれたのはヘラの医療費やらと粗末でいいから部屋を貸してくれ…
との事、目の前にいた私はあなたの目にウツッテいましたか?
それから独房に篭ってしまった
殻に閉じこもっている、という訳ではなくシロ先生の施設は行き来しているらしいけど
だいたいいる場所はヘラの回復施設だけど
…だから、私は見えてないかもしれない
学園は辞めることになるだろう
もとよりチェリーとヘラは必要なさそうだし、ラッセルは勘当されてるから学費などが払えず、私もチェリー達といたいとシロ先生に伝えたら構わないと言われた
…ラッセルは邪魔だから精一杯の記憶混濁を掛けておいたけど
あれでなまじ優秀だからタチが悪い
…私たちの学園生活はここまでだ
ラッセルに場所を突き止められないように気をつけるのは前提に
……なにか、趣味でも探そうかな
◇
カチッ…カチッ…
「あら?火がつきません…機械世界のコンロというのは魔法はいらないと言いますが…むぅ、よく分かりませんね」
ボウっ
ラッセルの手に現れた赤い球体、生き物のようにも見える球体が発火する
「…この使い魔、もしかして全属性だったりしますか?」
そんなことを呟きながらラッセルがコンロに発火した球体を近づけ……
ーーッバ!!っっごぉおん!!
「…つぅ、敵ですか?使い魔がいなければ即死でした、あら?………部屋が吹き飛んでますね」
その日爆発事件が起きた、犯人は見つからず重傷者多数…無差別テロと機械世界の冒険者は言っているが街の治安維持組織はそれを否定、これで…………
ラッセルの一人暮らしは宿探しから始まっていたり…
我ながらしょうもないハッピーエンドで終わらせたと虫酸が走ったので、蛇足な駄足なバッドエンドをコチラに
魔法のある世界で表現が正しいかは別として、植物状態、まさに心ここに在らず、燃え尽き症候群…的な
あとラッセルは多分ポンコツ




