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異世界転生したら、ヒロインが全員ボケだった件  作者: 関澤諭


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12/14

事件は起きたが、誰も正確に覚えていない

 朝。


---


「パンがない」


---


 それが、事件の始まりだった。


---


「昨日あったよね?」


 ミナが言う。


---


「あったはずです♡」


 アリスも頷く。


---


「確認した」


 ユイが言う。


---


「私も見ました」


 エリナも言う。


---


「絶対あったよ!」


 ミルフィーナも言う。


---


 全員一致だった。


---


「じゃあなんでないんだよ!!」


---


 焚き火の横。


 確かに置いてあったはずのパンが、綺麗さっぱり消えている。


---


「盗まれた?」


---


「いや……」


---


 悠斗は首を振る。


---


「それだけじゃない気がする」


---


 違和感があった。


---


 “なくなった”というより。


---


「最初からなかったみたいな……」


---


 その瞬間。


---


「なかったですよ?」


---


 シオンが言った。


---


「え?」


---


「パンなんて最初からありませんでした」


---


「いやあっただろ!!」


---


「見てない」


---


「俺は見た!!」


---


 食い違いが起きていた。


---


「……記憶がズレてる」


 ユイが呟く。


---


「なんでだよ!!」


---


 エリナが真剣に言う。


---


「これは異常です」


---


「もう分かってる!!」


---


 ミナが笑う。


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「じゃあさ!」


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「なんだ!」


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「犯人探そうよ!」


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「それっぽい流れやめろ!!」


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 だが。


---


「いいですね♡」


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「やるのかよ!!」


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 結果。


---


 パン探しが始まった。


---


「まずは聞き込み!」


---


「普通の事件みたいにするな!!」


---


 近くを歩いていた人に声をかける。


---


「すみません」


---


「はい?」


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「パン見ませんでした?」


---


「パンはありませんでした」


---


「即否定!!」


---


 別の人。


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「パン見ました?」


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「パンはありませんでした」


---


「同じ返答!!」


---


 さらに別の人。


---


「パンはありませんでした」


---


「もういい!!」


---


 全員同じ答えだった。


---


「……揃えられてる」


---


 悠斗が呟く。


---


 シオンが頷く。


---


「“なかったこと”にされてる」


---


「怖いこと言うな!!」


---


 ミルフィーナが言う。


---


「じゃあ作ろう!」


---


「何を」


---


「パン!」


---


「解決方法が雑!!」


---


 だが。


---


「それが早いですね♡」


---


「乗るな!!」


---


 結果。


---


 パン作りが始まった。


---


「材料は?」


---


「ありません」


---


「終わってる!!」


---


 ミナが言う。


---


「じゃあ想像で作ろう!」


---


「もっと終わってる!!」


---


 その時だった。


---


「……あれ?」


---


 エリナが呟く。


---


「どうした」


---


「ありました」


---


「どこに!?」


---


 エリナが指差す。


---


 焚き火の横。


---


 パンがあった。


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「戻ってる!!」


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 全員が固まる。


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「……」


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「……」


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「……」


---


 沈黙。


---


「……あったな」


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 悠斗が言う。


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「ありましたね♡」


---


 アリスが言う。


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「最初からあった」


 ユイが言う。


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「うん、あったね!」


 ミナが言う。


---


「ありました」


 エリナが言う。


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「やったー!」


 ミルフィーナが言う。


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 全員の認識が揃った。


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「いや違うだろ!!」


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 悠斗だけが叫ぶ。


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「消えてたろ!!」


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「消えてない」


 ユイが言う。


---


「ありました♡」


 アリスが言う。


---


「ずっとあったよ!」


 ミナが言う。


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「……」


---


 揃えられている。


---


 現実ごと。


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「……」


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 悠斗はパンを見る。


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 確かに、そこにある。


---


 だが。


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 さっきはなかった。


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「……やばいな」


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 小さく呟く。


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 シオンが静かに言う。


---


「これが、この世界」


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「分かりたくねぇよ……」


---


 その日。


---


 パンは普通に食べられた。


---


 味も普通だった。


---


 それが、一番怖かった。

第12話を読んでいただきありがとうございます。

今回は「小さな事件」として、記憶や認識のズレをテーマにした回でした。

この世界では、現実そのものが揃えられてしまう可能性があります。

コメディの中で少しずつ不気味さも増えてきていますが、

引き続き気軽に楽しんでいただければ嬉しいです。

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