事件は起きたが、誰も正確に覚えていない
朝。
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「パンがない」
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それが、事件の始まりだった。
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「昨日あったよね?」
ミナが言う。
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「あったはずです♡」
アリスも頷く。
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「確認した」
ユイが言う。
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「私も見ました」
エリナも言う。
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「絶対あったよ!」
ミルフィーナも言う。
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全員一致だった。
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「じゃあなんでないんだよ!!」
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焚き火の横。
確かに置いてあったはずのパンが、綺麗さっぱり消えている。
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「盗まれた?」
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「いや……」
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悠斗は首を振る。
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「それだけじゃない気がする」
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違和感があった。
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“なくなった”というより。
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「最初からなかったみたいな……」
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その瞬間。
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「なかったですよ?」
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シオンが言った。
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「え?」
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「パンなんて最初からありませんでした」
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「いやあっただろ!!」
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「見てない」
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「俺は見た!!」
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食い違いが起きていた。
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「……記憶がズレてる」
ユイが呟く。
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「なんでだよ!!」
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エリナが真剣に言う。
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「これは異常です」
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「もう分かってる!!」
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ミナが笑う。
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「じゃあさ!」
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「なんだ!」
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「犯人探そうよ!」
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「それっぽい流れやめろ!!」
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だが。
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「いいですね♡」
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「やるのかよ!!」
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結果。
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パン探しが始まった。
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「まずは聞き込み!」
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「普通の事件みたいにするな!!」
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近くを歩いていた人に声をかける。
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「すみません」
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「はい?」
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「パン見ませんでした?」
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「パンはありませんでした」
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「即否定!!」
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別の人。
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「パン見ました?」
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「パンはありませんでした」
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「同じ返答!!」
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さらに別の人。
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「パンはありませんでした」
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「もういい!!」
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全員同じ答えだった。
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「……揃えられてる」
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悠斗が呟く。
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シオンが頷く。
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「“なかったこと”にされてる」
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「怖いこと言うな!!」
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ミルフィーナが言う。
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「じゃあ作ろう!」
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「何を」
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「パン!」
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「解決方法が雑!!」
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だが。
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「それが早いですね♡」
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「乗るな!!」
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結果。
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パン作りが始まった。
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「材料は?」
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「ありません」
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「終わってる!!」
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ミナが言う。
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「じゃあ想像で作ろう!」
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「もっと終わってる!!」
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その時だった。
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「……あれ?」
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エリナが呟く。
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「どうした」
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「ありました」
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「どこに!?」
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エリナが指差す。
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焚き火の横。
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パンがあった。
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「戻ってる!!」
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全員が固まる。
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「……」
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「……」
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「……」
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沈黙。
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「……あったな」
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悠斗が言う。
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「ありましたね♡」
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アリスが言う。
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「最初からあった」
ユイが言う。
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「うん、あったね!」
ミナが言う。
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「ありました」
エリナが言う。
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「やったー!」
ミルフィーナが言う。
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全員の認識が揃った。
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「いや違うだろ!!」
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悠斗だけが叫ぶ。
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「消えてたろ!!」
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「消えてない」
ユイが言う。
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「ありました♡」
アリスが言う。
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「ずっとあったよ!」
ミナが言う。
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「……」
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揃えられている。
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現実ごと。
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「……」
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悠斗はパンを見る。
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確かに、そこにある。
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だが。
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さっきはなかった。
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「……やばいな」
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小さく呟く。
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シオンが静かに言う。
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「これが、この世界」
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「分かりたくねぇよ……」
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その日。
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パンは普通に食べられた。
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味も普通だった。
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それが、一番怖かった。
第12話を読んでいただきありがとうございます。
今回は「小さな事件」として、記憶や認識のズレをテーマにした回でした。
この世界では、現実そのものが揃えられてしまう可能性があります。
コメディの中で少しずつ不気味さも増えてきていますが、
引き続き気軽に楽しんでいただければ嬉しいです。




