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初めての約束


なんでなんだろう。


私は心の中で困惑していた。


わからない。


どうして私が、遊びに誘われたのか。


まさか――私に好意がある?


そんな馬鹿げた妄想を、意識的にかき消す。


人とうまく話すこともできない私が、誰かに好かれるはずがない。


好きになるなら、私なんかよりもっといい人がいるに決まっている。


……そう、分かっている。


それでも。


この少しの期待と、巨大な恐怖を、どうしても抑えられない。


私は人と遊びに出かけたことがない。


それだけでもどうすればいいのか分からないのに。


初めてが、男の子とだなんて。


どうすれば楽しんでもらえるだろうか。


何をすれば、嫌われずにいられるだろうか。


……どうすれば、好きになってもらえるだろうか。


考えたところで、経験のない私に答えが出せるはずもなかった。


こんな時に、相談できる友達がいればな。


そう思うと、小さくため息が漏れる。


……こんなことじゃだめだ。


残り一年、楽しんで生きるって決めたんだから。


それに、暗い顔をしていたら嫌われてしまうかもしれない。


私は無理やり気持ちを切り替える。


少しでも明るくなれるように。


放課後への期待を、必死に膨らませる。




そして迎えた、放課後。


キーンコーンカーンコーン。


一日の終わりを告げるチャイムが鳴る。


いつもなら、これで終わり。


でも今日は――


まだ終わらない。




放課後になった。


俺は校門の前で、時雨のことを待っている。


……なんか、あいつのこと追い詰めちまったかな。


教室での様子を思い出す。


かなり悩んでたみたいだった。


――私のことが好きなのかって。


……まあ、それは間違ってないかもしれないけどな。


そう思うと、少しだけ笑みがこぼれる。


……って、何考えてんだ俺。


ふと、その時だった。


記憶に引っかかるものがあった。


――残り一年。


あいつ、そんなこと考えてなかったか?


なんだそれ。


何が、残り一年なんだ。


……まさか。


余命宣告でもされてるのか?


急に不安が押し寄せる。


その時だった。


「時也君、お待たせ」


振り向くと、時雨が立っていた。


その一言で、さっきまでの不安が嘘みたいに消える。


「いや、別に待ってねぇよ」


「……そっか」


「じゃあ、行こうか」


そう言って、俺たちは歩き出した。




「見て、時雨さんが男と歩いてる」


――結局あいつも男好きなんじゃねえか。


――高嶺の花気取りやがって。


周りの声が聞こえてくる。


……やっぱりな。


でも。


お前らには分からねえよ。


こいつが何を考えてるのか。


何に悩んでるのか。


だから、お前らには無理なんだ。


……こいつと一緒にいられるのは、俺だけだ。




――どうしよう。


――やっぱり、何をしたらいいのか分からない。


時雨の不安が、そのまま流れ込んでくる。


……こういう時は、俺が動くしかないか。


「なあ、時雨」


「……どうしたの?」


相変わらず、素っ気ない返事。


でも――


――どうしよう。


――時也君が話しかけてきた。


――なんて返せばいいんだろう。


……中身と全然違うじゃねえか。


思わず、少し笑ってしまう。


「……?」


時雨が不思議そうにこっちを見る。


「時雨ってさ、どっか行きたいとことかある?」


俺は続けた。


「今日は時雨と二人で出かけられたら、どこでもいいからさ」


――えっ、今のって……もしかして。


――本当に、私のことが?


その心の声を聞いて、俺はハッとする。


……しまった。


これ、完全に告白みたいじゃねえか。


「いや、別に深い意味はなくて」


慌てて言い直す。


「時雨が行きたいところ、教えてくれたら嬉しいってだけで」


――やっぱり、恋愛じゃないよね。


――でも、私の行きたいところに行ってくれるんだ。


少しの間のあと。


「……じゃあ、〇〇に行きたい」


「おう、分かった」


俺は頷く。


そうして俺たちは、並んで歩き出した。




少しずつ。


周りが知らない、本当の時雨を知っていく。


それが――


今はただ、嬉しかった。

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