機体の差を魔法の力で埋めてしまう件
トーマ機がスミト大尉が乗っている事で狙われている現状で、何故か敵はスミト大尉を感知できるらしい。
「青島スミト、仇打ち等に興味は無いがやらせてもらう」
「この状況でお前が来ると本当に笑えないのだが」
スミト大尉はトーマと操縦を交代するが、スパークでこれ程の高機動機体を相手取ることは不可能である。
「アオイ、すまないがトーマを助けたい」
「大丈夫、私に構わず行って。この場を打開出来るのはユーゴ君しかいない」
「ユーゴ、俺達も行く」
アサヒ、マイ、ゴウが駆け寄って来る。
「待て、この敵が1人な訳が無い。お前達まで来たら残った連中が危険だ、まずお前達がみんなを安全圏に逃がす時間を稼ぎに行く」
「……無理はするなよ」
本来はアオイを誰かに預けたい所だがこんな所でコクピットを開ける方が自殺行為だ。やむ無しにアオイを連れて行く事にした。
アサヒからレーザーマシンガン、マイからレーザーシールドを受け取り、ゴウからレーザーソードを貰い受ける。
そして、トーマ機の援護に向かった。
やはり一方的な展開である。いくらスミトが操縦しても、スパークの最大武器であるロングレーザーライフルの破壊力を数倍にしたレーザーライフルで反撃されると迂闊に仕掛ける事も出来ない。
隙を晒せば即撃墜である。
そこに俺は割入る。
「ユーゴくん、何故戻ってきた」
「あなたを助ける必要があるかは置いておいて、大事なルームメイトを置いて逃げられませんので」
「逃げるんだユーゴ、この敵は強すぎる」
「だから置いていけないんだ」
「ユーゴくん、撃墜は考えるなよ」
「出来ない未来は見えてます」
「最高の回答だ」
謎の敵機は俺を無視してスミト大尉を狙う。
まだ油断して貰えるうちに接近する事も考えたが、どんな予測にも敵機の超反応が勝る。
相手はブースターを用いて、空中で姿勢制御ができる点から機動力のアドバンテージもない。機体出力差で圧倒的に不利。
絶望的な状況を打開するにはスミト大尉が自分の機体を受け取る事にかけるしかない。
「大尉、機体が届くのは?」
「よく機体を手配している事に気づいたな。本来は味方の合流点で乗り換えるつもりだったからな……5分後に合流地点にあればラッキーだな」
「後3分後に取りに行ってください。その間は俺が持たせます」
「無理だ、君とて1人では」
「1番勝率の高い未来を選べないとミラージュの意味がないのでは?」
「言ってくれるねぇ」
「さっきのアオイを殺し掛けて俺を怒らせたの、多分スミト大尉もやられた事あるのでは?」
「鋭いな」
「多分、貴方も本気が出せないタイプで、人を置いていくなら置いて行かれたい方でしょ」
「反論出来ないなぁ、そう言う所はあんまり好きになれないよ」
「俺の大事なルームメイトをしっかり逃してさっさと助けに来てくださいね」
「最善を尽くす」
俺はレーザーマシンガンで牽制してみるが、敵機はレーザーシールドを展開した。レーザーシールドは実体盾の周りにレーザーフィールドを展開して防御力を高めただけでなく、自分のレーザーシールド内部から外に向けた射撃を通す事が出来る。
攻撃が読めて居たのであれば、しっかりとガードして反撃に出た方が確実なダメージが取れる。
俺も念の為に、シールドを展開するが訓練機のシールドでは、バーストのフィールドとコクピットのフィールドを同時に貫く様なライフルを防げるとは思えない。
マシンガンを周囲に撃ち、近くの岩を砕く。そこに更にマシンガンを打ち込み、【ディストーション】を用いてマシンガンの弾を方向転換させて敵機の背部を狙う。
僅かだがダメージを取れる。
「馬鹿な、こんな射撃……思念誘導兵器か?」
隙を見つけて、スミト大尉を逃がす事に成功した。
ここから訓練用スレイブで何処までやれるのか……
「アオイ……本当にすまない」
「戦う前からそんな弱気にならないで」
「いや、負けるつもりはない……だが、恐らく訓練では味わった事のないGを体験する事になる」
「確かに……ユーゴくんの動きは速すぎるね」
「そしてもう1つ」
俺は【ミラージュ・トレース】を起動する。
瞳が発光し魔法が発動する。
「ユーゴくん……目が……」
「あぁこの力を使うと目が発光する特異体質なんだ……でも出来ればあまり知られたくない力なんだ」
「特異体質……知られたくない力……あっ!」
「この戦いに生き残れても……この事は出来れば内密に頼む」
「そうか、記憶喪失なんだよね……」
「何かあったか?」
「いいよ、今は2人で生き残る事に集中しよう」
「あぁ」
確かに……アオイが何かを言いかけた様だが、今は確認している場合ではない。
だが今はこの絶望的状況を突破するのが先だ。
敵機がレーザーソードで切りかかって来る未来が見えるが、俺のレーザーソードでは出力負けをしてしまう。
ソードを機体を回転させながら受ける。当然俺のソードは突き破られるが回転しつつ反対のシールドをぶつける。
ギリギリの出力で相手のソードを逸らす事が出来たので蹴りをボディに入れる。
そのまま【コンプレッション】を発動して相手の上にジャンプするとレーザーソードで唐竹割りに移行するが、モーションが長すぎて離脱された。
少し間合いを取られたことで一連のフェイントが無駄に終わった。
「完全には釣れないか」
「でもすごくいい動き、押し切れるよ」
「いや、今のが最大のコンビネーションだ……これ以上の動きはアサルトスレイブでは無理だ」
「機体の限界……最新鋭機体を持ってしてもユーゴくんの動きにはついていけないのね」
「近接攻撃に長けたスラッシュの装甲バランスならばもう少しトリッキーな動きも可能だが、アサルトは動きを絞る事でシンプルな機動力を確保している」
「でもまだ一撃も貰ってないんだから頑張って」
「あぁ、多少の脅威は与えられたかも知れない。スミト大尉が来るのが先か、俺の力量がバレるのが先かだな」
「訓練機1機に何を手間取っている」
「これは私見だが……奴は青島スミトよりも速い」
「なんだと」
「訓練機でここまでの速度と動きをできる人間はそうはいない」
「それは本当か」
「ああ、本気で殺らねばこちらがやられるレベルだ」
「ZEROの性能を持ってしてもか」
「機体性能が高くとも弱点はある。今はそこをつかれかけた」
「ならば奴が実機に乗り換える前にやっておくべきだな」
「了解した。それも正論だ」
敵機はレーザーライフルを構え、その場で連射する。
まるでこちらを試すかの様な連射だが、狙いが正確すぎる為、回避できる。
「やはり、訓練生レベルではないな」
向こうの出方が変わったのを感じたが、こちらの武装は限られており、単発で勝負を決めるものは無い。
そこで幾つかの深刻な問題が重なる。
1つは関節系へのダメージ。本来スレイブに予定されていない動きを連発している為、自らの動きのダメージが蓄積され、危機的状況にある。
2つ目はエネルギーの問題。武装は分けて貰った為まだ使える状態だが、エネルギーを供給する本体のエネルギーが尽きかけている。演習からぶっ続けで無理な戦闘を続けている為、エネルギーにゆとりなど無い。
3つ目はアオイへの負荷である。俺自身は自分のイメージで動いているので良いが、ただ乗せられている人間は動きのイメージがない為、乗っているだけでも下手すれば命に関わる衝撃が続いている。
「もぅ長くは持たないな」
「諦めないで、もうすぐスミトさんが来てくれる」
色々限界の筈のアオイが歯を食いしばって俺を励ましてくれている。何としても彼女だけでも守り抜かねばならない。
そして俺のミラージュの予知にもスミト大尉の到着が見え始めた。
後1連撃……乗り切る事が出来れば……
「やるしかない」
「悪いが消えてもらうぞ」
ただでさえ威力の高いレーザーソードを収束して貫通力を最大にして来た。アサルトスレイブの数段上の性能の機体で、ソードの出力もスラッシュよりも上。
受ける事は不可能である。
凄まじいスピードで迫る敵機の斬撃を避けるが振られた手と逆の左手からワイヤー状のものが機体の関節部を狙ってきた。
幸いこちらはソードで対処出来たが、これは俺のソードを下段に構えさせる為の布石だった。再び上段に敵機のソードが迫る。
「させるか」
ソード同士が鍔迫り合いになると圧倒的に不利な為、敵機の手首を狙う。
奥義・堕天虚空斬である。
アサヒの必殺技を模倣し、敵機の手首を切り落としギリギリのタイミングで斬撃を防いだが予知は更に広がる。
レーザーソードを空中で反対の手で拾い、斬撃がくる。
【コンプレッション】を発動してもう1弾加速して体当たりを浴びせ、相手のレーザーソードを奪った。
「装甲への直接打撃……やるな」
「大丈夫か?アオイ」
「大丈夫だよ、私の事は気にしないで」
警報音が強くなりコンデションモニターに目をやると機体ダメージが許容範囲を超えた。エネルギーも逃げに徹する事さえ出来るか危うくなってきた。
「戦闘継続困難……」
「でも敵のレーザーソードを使えば……」
「出力計算……ダメだな今これを振ったら一撃でパワーダウンしてエネルギーは底を尽く」
「そんな」
敵機は予備のソードを抜くが、右の腕を破壊した事でかなりの手数を奪えたと見れる。
「右腕部損傷、戦闘継続に支障あり」
「なんだと、お前がそこまで……そっちが蒼い雷ではないのか」
「あぁ、青島スミトは先程逃がした」
「あんな化け物がもう1人いたとは関東帝国は」
「そちらの手筈はどうなっている」
「リクトとライルが無事コアクリスタルの回収に成功した、そちらに合流させる」
「了解した。後は引き際か」
「無事かユーゴくん」
そこに飛行する蒼い機体が現れる。
スミト大尉のブルーブレイバーである。飛行ユニットを装備した機体で、アサルトスレイブをそのまま実戦配備用にしたスミト大尉専用機動兵器である。
「生存こそしていますが機体はもう限界ですね」
「よく頑張った、援軍も来る。もう少しの辛抱だ」
だが、援軍は敵の方が早かった。
飛行型の機体に乗った機動兵器がやって来る。
「思ったより早かったな」
「本当にアヴューが被弾しているとはな」
「あぁ油断ならない相手の様だね」
「2人はあの訓練機を頼む」
「訓練機相手に2人は必要ないだろ」
「侮るな、奴は出来るぞ」
「ライル、君は先にコアクリスタルを本部に、アヴューを逃がすタイミングは僕が援護する」
「了解」
飛行機から機動兵器が飛び降りるとそのまま海岸方面に走り去る。
そして飛行機が変形して、機動兵器に変形した。
「可変機動兵器だと」
「スミト大尉、飛行機から機動兵器に変形するタイプと言うのは?」
「我が軍では設計段階だ……かなり精度の良い機動兵器と見える」
「いざとなったら何時でも離脱出来る機動力を有した機動兵器……ゲリラ戦では重宝しそうですね」
「相手の力量が分かり兼ねるが、先に出てきた機動兵器のパイロットは凄腕のパイロットだ……消耗した君が生き残れたのは殆ど奇跡だ」
「はい。相手の油断が無ければやられていたと思います」
機体コンデションからして増援が現れたのは非常に苦しい展開である。
この場を凌げるかは右手を切り落としたアヴュー・ウィン機をスミト大尉が抑えられるかにかかっていそうだ。