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自由奔放な吸血鬼  作者: 望月すすき
第一章 アルレヴァ防衛戦
23/48

01-15(旧) 悪魔対策会議

17/01/16 オーギュストの名前が途中からガーランドに改名されていたのを修正 ひどいミスだ……

18/01/08 サブタイトルの変更(旧の追加)

 アルレヴァ。エガード王国の実質的な最南端の街にして、南に国境を接するグラント王国及びマイス聖王国と交易を成す陸上の交易の要である。首都のさらに北にある山脈から南南西に流下するロールス川に接することもあり、交易都市と呼んでも過言ではない。そして交易都市の御多分に漏れず、都市全体は直径2キロ程の円形の防壁に覆われており、街門は街道に貫かれるように北と南に存在する。

 そのアルレヴァ、さらに南の国境を含む領地を持つのがミグナール辺境伯=ウォルンタース・エガード・ロックバウト。32歳という若さで辺境伯を任命された男である。

 

 さて、そのアルレヴァであるが、現在未曾有の危機が迫っており、街の上層部は対応に追われていた。発端は冒険者組合からもたらされた情報であった。アルレヴァの西に位置するシェイムの森で悪魔(デーモン)の残滓を持つトロルが発見されたこと。

 報告を受けたミグナール辺境伯は、『ベイグラントの悪夢』を彷彿とさせる組み合わせに戦慄した。彼は直ぐに王都へとその旨を、関所へは加えて防衛戦力の半分を帰還させるよう文を送った。エガード王国は現在魔族と戦争中であり、さらに隣国とは良好な関係にあることからの判断であった。実際、各国から送られた人族連合軍と名付けられた戦力と戦費で魔族と代理戦争を行っている以上、人族側から攻められるとは考えづらい。


 それに加え、商人組合支部長であるレオール・アルフォンブラを通じて食料と武器の備蓄を始めた。シェイムの森の調査は冒険者組合支部長のオーギュストが既に準備をしている。



 そのような事情で何倍にも膨れ上がった書類を効率的に片づけるべく、私達はいつもの執務室ではなく元会議室の一室に部下を集めて作業に当たっている。

 室内には机は3台運び込まれており、書類作業をしているのも三人。私ことウォルンタース、補佐のクルテ・モーデスト子爵、魔術師団長のノエル・アーヌルス魔術師爵が書類の山を積み上げられている机に向かっている。

 その他には調度品だけ軽く置かれているだけのシンプルな状態ではあるが、執務をこなす上にはあまり不都合はない。


 そして部屋の中央付近には、軍備について聞いておこうと呼び出した軍務長官のオーフェン・ロックバウト子爵が立っている。


 「オーフェン卿、我が領地から事前に動員できる戦力は2,000程という認識で合っているな?」


 アルレヴァが他の街と決定的に違う点は、食料は殆どを王都からの購入で賄っており、農民がほぼ存在しないことである。そのため、今回のような事態が発生してしまった場合、常備兵以外の兵を集めづらいという問題がある。

 保有している戦力はほぼ騎士団と魔術師団のみである。国境の防衛戦力は騎士団内の国境防衛部隊が担当しており、アルレヴァの警備は騎士団の下部組織であるアルレヴァ防衛隊が行っている。


 「概ねその通りです。防壁の維持も問題ありません。物資が揃い、トロルだけが相手であれば、防衛戦の基本通り三倍の数を相手取れるでしょう」


 オーフェン卿が答える。ただしその口調はどこか歯切れが悪い。


 「オーフェン卿。悪魔(デーモン)のことを考慮するとどうなる?」


 「……はっきりと申し上げますが、見当がつきません。冒険者の動員を考慮に加えたとしても、相手戦力が不明である以上同様の答えです。ただし、確実に通常の戦争とは異なる戦闘になるとは断言できます」


 両眉を寄せながら答えるオーフェン卿に、思わずため息が零れそうになる。戦争の常識が通じない状況。王都に要請を出した援軍が来るまでの日数を持ちこたえることができるだろうか。


 「何にせよ情報待ちか。オーフェン卿、情報はできる限り早く回す。予算は……今年の軍務予算を使い切っても構わん。後で別計上扱いにする。予算を超えるようならば財務長官に相談しろ。卿の働きに期待している」


 「はっ。ミグナール卿はくれぐれも無理をなさらないように」


 「分かっている。お互い、休めるうちに休んでおかねばな」


 立場の違いを感じられない様子で軽く笑い合った後、オーフェン卿が退室した。


 オーフェン卿が退出したタイミングで、クルテ卿が尋ねてくる。


 「ウォルンタース卿。避難民に関してですが、本当に希望者のみということでよろしいのでしょうか」


 「ああ。クルテ卿、民を守るのが我々の義務だろう? 民の決断ならば、それに応えてやらねばなるまい。たとえ杞憂であろうとも支援の準備を行え」


 「はっ、出過ぎた真似を」


 「構わん。下らぬ提言以外なら積極的に出してくれ」


 再三言っていることを口にする。人を集め、意見を募る理由は様々な立場からの言を聞き、あわよくば閃きを得ようとするためである。税収入が安定し、利権争いは多少あるが派閥間の大きな対立がなく、そして私が中枢を担っている我が領だからこそこうして自由にできるのだろうな、と口元を緩める。このような家風にした先祖には感謝してもしきれないだろう。


 「……あの、ウォルンタース様。なぜ僕は魔術師団の訓練中に連行され、ここにいるのでしょうか」


 そこでひたすら影の様に徹していたノエル卿がおずおず口を開いた。

 ノエル・アーヌルス魔術師爵。彼は17歳という若さながら魔術師団の団長に抜擢された高度な魔術の使い手である。……どちらかというと女性比率の高い魔術師団のマスコットポジションのような気もするが。

 彼の体格は平均的な身長よりはかなり低く、体の線も細く、そしてどこか幼さを残しているような顔のつくりをしている。そんな彼の言葉に、小動物から目を向けられているような感覚を覚えながら私は笑顔を作ると、


 「当然、書類作業に人手が足りないからだ。クルテ卿以外の補佐には別の場所で動いてもらっているからな。ほら、手を止めている間に他の長官からまた書類がどっさりと持ち込まれるぞ?」


 と彼を追い立ててやった。ノエル卿ははっとしたような表情を浮かべると、再び書類の山に手を付け始めた。彼は魔術の才能以外にも文官の才能もあり、緊急時にはこうして手を貸してもらっている。


 「さて、と。遊んでないで私も仕事に戻るか」


 気が進まない身に背を押すように呟くと、承認待ち、要確認の箱に積まれた書類の山から一枚を取り出した。




 ―――――




 事態が大きく動いたのは三日後。オーギュストからもたらされた情報にすぐさま商人組合の一室を借り、街の有識者を集めて会議を開いた。



 「では、早速悪魔(デーモン)対策会議を行う。クルテ卿、皆に今までの経緯を説明してほしい」


 長机に座る面々を見渡しながら宣言し、クルテ卿へと目線を向ける。クルテ卿は頷くと、簡潔にまとめながらも漏れのないように報告を話した。


 「事の始まりは1月26日に、冒険者からシェイムの森でトロルの発見報告があったことです。持ち帰られた魔力結晶から悪魔(デーモン)の残滓が検知され、悪魔(デーモン)の存在が推測されました。

 その情報を元に、翌々日の1月28日にシェイムの森への調査隊が編成、調査を開始。初日の報告によると、三体一組のトロル、トロル二体ハイトロル一体で一組のトロルが合計21組、計63体の討伐が確認されました。

 そして翌日の1月29日、つまり本日、先ほど届いたばかりの情報です。調査隊が悪魔(デーモン)と遭遇。男爵(バロン)の爵位持ちであること、そして主がいることを悪魔(デーモン)自身が語った模様。そしてトロル、ハイトロルの数は5,000以上との報告です」

 

 悪魔(デーモン)の爵位とはの強さを示しているようなものである。男爵(バロン)は爵位持ちの中で最下位の五位。下から数えた方が早いとは言えど、そもそも爵位持ちは何も持たない数多の悪魔(デーモン)と実力に大きな差があると言われている。


 皆真剣な面持ちのまま聞き、そして今日もたらされた情報に目を見張った。場が一時騒然となり、皆口々に言葉を捲し立てる。


 「爵位持ち……しかも、悪魔(デーモン)自身からの情報だと?」

 「悪魔(デーモン)に主……! どういうことだ!?」

 「防衛の準備を急がねば……! 今日にでも攻め入られる可能性があるぞ!」

 「トロルが5,000だと…! 防衛戦力はどうなっている!?」

 「ここを攻め入られるのは確実なのですか!?」



 開始早々に会議が荒れる中、Sランク冒険者であるファルクス・クレシオン騎士爵は落ち着いた雰囲気でその様相をただ見ていた。事前に情報を得ていたオーギュスト冒険者組合支部長も、落ち着かない様子ながら静観に徹している。


 「落ち着け! そして最悪を想定しろ! 王都へは既に文を飛ばしている。トロルの大軍が攻めて来ようが援軍が来るまでの五日持ちこたえればいいのだ!」 


 トロルの大群が発見された以上、王都からは確実に兵が派遣される手筈となっている。アルレヴァが攻められるにしろそうでないにしろ、そのような魔物の大群は対処する必要がある。

 そう、この場は会議と名を冠してはいるが、ただの情報と意識のすり合わせの場なのである。


 ざわめきが小さくなったことを確認すると、再び口を開く。


 「オーフェン卿。騎士団、魔術師団、防衛隊、既にこちらに合流している国境防衛部隊の合計は2,000で相違ないな?」


 「はっ。相違ありません」


 「オーギュスト殿。召集可能な冒険者はどの程度の見込みだ?」


 「Dランクが300、Cランクが200、Bランクが30、Aランクが5、そしてそこのSランクが一人だ」


 オーギュストがファルクス卿へちらりと目を向ける。その目線にファルクス卿は軽く肩をすくめ、オーギュストの言葉に付け加えるように口を開いた。


 「参考程度だが、トロルは冒険者ランクでいえばCランク相当、ハイトロルはBランク相当だ。トロル相手ならばこの街には5,000と言わず、その倍を相手取れる戦力がある。通常であるならば、ね」


 その言葉の意味を察した者が険しい表情になる。意味を汲み取れなかった者に対して、オーフェン卿が説明する。


 「相手には規格外の存在、生物の精神を犯すと言われる悪魔(デーモン)、それも爵位持ちがいます。通常の戦争の防衛戦の様にはならないでしょう」


 その言葉で内容を理解した者が同様に険しい表情を浮かべ、場が重くなる。思った通りの成果を上げたことに内心安堵すると、会議室の扉がノックされた。当事者の丁度いいタイミングの到着だ。


 「ユッカ様をお連れしました」


 おそらく商人組合の職員の声だろう。声がかすかに震え、緊張しているようだ。クルテ卿へ目線を向け、言葉を促す。


 「ユッカ嬢。入室を許可する」


 その言葉と共に二人の職員らしき女性により両開きの扉が開かれ、藍色の髪の少女が姿を現した。彼女はそのまま室内へ足を踏み入れる。


 「ユッカ・スノウラインと申します。今回の調査隊に参加したAランク冒険者です」


 そして冒険者らしいとも言える、シンプルなくすんだ黄緑のローブの裾をつまむと、その身なりからは想像もできなかった優雅な礼が行われた。流石はペルフェクシオン王国スノウライン魔術師爵家の次期当主。その淀みのない動きに、周りからも感嘆の息が洩れる。


 「彼女は実際に悪魔(デーモン)と遭遇した冒険者の一人だ。率直に聞かせて欲しい。奴をどのように感じた?」


 「……対策をした上で、実力者を集めれば討伐の望みはあると感じました。ただし、並の者では魔力と存在に当てられ近づけすらできず意識を失うでしょう。相対する方には、精神保護系統の魔術による防護が必須です」


 ユッカ嬢がここで一息いれ、話を少しだけ区切った。団長、隊長、そして冒険者達はそんな彼女の言葉に集中し、静かに次の言葉を待っている。もしかしたら、悪魔(デーモン)とは自身が戦うことになるかもしれないのだから。


 「私達が悪魔(デーモン)から直接受けた攻撃は一回だけ。精神系の効果で未だ詳しいことは判明しておりませんが、単体を対象とした『魔法』です」


 その言葉に目を見開く面々。古代魔道文明時代に人の手から失われた技能。人族の中で最高峰の魔術師を輩出する血筋、スノウライン家次期当主にそれが行使されたと断言されることは、確実な情報であることを意味する。


 再び室内が騒がしくなる中、オーギュストがユッカ嬢に尋ねる。


 「それで、その魔法を受けたアヤ殿は今どうしている?」


 初めて聞く名前に、つい会話に耳を傾けてしまう。


 「憔悴した彼女の()と共に宿で休息を取っています。今のところ命に係わる類の効果ではないとみていますが、効果が切れる気配がありません」


 「信教上の理由でこの町の神殿では診てもらえない、とのことだったな。たしか調和神、だったか。アヤ殿も珍しい信教をしている。一応こちらで手を打っておく。アレを失うのは組合にとっても、人族にとっても大きな損失だ」


 「……お願いいたします」


 その言葉に、ユッカ嬢は無表情ながら微小に苦々しい雰囲気を発していた。『アヤ』という者に対して、魔法以外に何かトラブルでもあったのだろう。……ふむ、知らない相手だけにいまいち状況がつかめない。率直に聞いてみるか。


 「会話中済まない。オーギュスト殿が気をかけているのが気になってな、その『アヤ』という者について聞かせてくれないだろうか」


 「ああ、いいぜ。彼女――アヤ・ヒシタニはつい先日組合に登録した新人なんだが、登録して三日後にDランクに上がった。何せ、シェイムの森で最初にトロルを発見・討伐した張本人だからな」


 その言葉に、面々の興味がこちらへ向けられる。特にファルクス卿はその話に興味津々の様子で、それに対して防衛隊長のターラル・ガルバート騎士爵は大きく口を開けたまま固まっている。


 「なるほど、それは興味深い人物だ」


 「…悪魔に出会い、数百ものトロルに囲まれた絶体絶命の状況を、…アヤさんとキャロちゃ……キャロットに救われました。彼女たちは命の恩人です」


 ユッカ嬢は慎重に言葉を選んで話しているように感じる。何かを隠している予感があるが、ここで聞き出すのは無粋だろう。


 「Aランク二人とBランク二人のパーティがDランクに助けられただと? うはははは、やはり俺の目に狂いはなかったようだな! それとキャロット、っていうのは初めて聞くな。誰だ?」


 「アヤさんの()です。アヤさんと一緒にシェイムの森に行っていたらしいです」


 「ほう……その子も将来有望かもしれないな」


 怪しげな目つきをするオーギュスト。あれは得物を狙う獣の目だ。


 「参考までに、包囲された状態からどうやって逃げられたのか、聞かせてくれないか?」


 そこでファルクス卿が直接会話に加わってきた。伝承で聞く恐ろしい存在からどうやって逃げられたのか。それは私も気になる話だ。


 「……悪魔(デーモン)に遭遇する前に、私達は既にトロルの大群に包囲されていたのです。そして私が包囲を一点突破するために氷乱舞(アイスダンス)を思い切り放って逃走路を開きました。……その後悪魔(デーモン)が現れて、再度包囲されたのですが」


 ふう、と話し疲れたようにユッカ嬢が息を吐く。言葉を選びながら話しているのもそうだが、そもそも彼女は話すことにあまり慣れていないようだ。


 「そしてそのまま戦い、トロルに剣を突き立てられ、死を覚悟したときに、アヤさんがキャロットを抱えて飛んできたんです」


 「……は?」「……え?」


 意味の分からない展開に素の声が洩れたオーギュストとファルクス卿。私ももう少しで声を上げるところだった。その声を飲み込み、何があったのかを尋ねる。


 「飛んできた……というのは?」

 

 「キャロットから聞いた話では、傾斜の付いた台みたいなものを魔術で作って、そこで助走をつけてジャンプして飛び込んだらしいです」


 「……な、なんと破天荒な」

 「うはははは、あの嬢ちゃんの見た目からは想像できないな!」


 驚くファルクス卿と笑い声を上げるオーギュスト。


 「そして近くのトロルを蹴散らし、私たちが態勢を立て直すまで周囲のトロルを受け持ってくれました」


 トロルに包囲された状況でそれを受け持ち、時間を稼ぐ。トロルがどれだけの強さがあるのかは分からないが、これは実力差がないとできないことだ。

 私の考えを裏付けるかのように、ファルクス卿が口を開いた。


 「話を聞く限り、彼女はB――いや、Aランク相当の腕前はあるのではないか?」


 「――私の見立てでもその通りかと。そしてしばらくアヤさんがトロルを蹴散らしていると、悪魔(デーモン)が語りかけてきたのです。どうも彼女を誰かと勘違いしていたようで、爵位持ち、主がいるという情報はその時に得られたものです」


 「なるほど、悪魔(デーモン)自身が口にした、というのはこういう経緯だったのか。」


 納得したかのように騎士団長であるチェリベ・アルノート騎士爵が頷く。私は事前に報告書で詳細を知ってはいたが、こうして当事者から話を聞くのとでは得られる印象ががらっと変わる。


 「しかし解せませんな。こうも悪魔(デーモン)が簡単に情報を渡した事が引っかかる」

 

 「それは一理ありますね。ユッカ嬢、その時の会話、記憶している限り詳細にお伝え願えませんか?」


 ファルクス卿の問いにユッカ嬢は「ええ」と頷いて、距離があったのでどこまで正しいか分かりませんが、と頭に言葉を置いた上で話し始めた。


 悪魔(デーモン)はアヤ嬢のことをヴルダーラ(・・・・・)の一族とやらと勘違いしたこと。

 アヤ嬢はそれに便乗する形で情報を引き出そうとしたこと。

 悪魔(デーモン)ヴルダーラ(・・・・・)については関わるな、と主に念を押されていることとお互いに引くことを提案。

 アヤ嬢はそれを断り、挑発したこと。

 悪魔(デーモン)はそれを受け流し、男爵(バロン)であること、そして自身を滅ぼせるのかと逆に挑発したこと。

 アヤ嬢はそれを受けて、さらに隠し玉があるのではないかとカマをかけたこと。

 悪魔(デーモン)は曖昧に誤魔化し、ヴルダーラ(・・・・・)の一族とやらを葬り去ることを楽しそうに語ったこと。


 会話を再現したユッカ嬢は会話内容は以上です、と一息いれた。聞けばアヤ嬢はまだ十歳程度の身でこれほどのやり取りを行ったらしい。Aランク相当の腕前と言い、彼女の将来が恐ろしく思える。


 「悪魔(デーモン)相手にそのようなことをやるとは。豪気な者だな」

 「しかし情報を聞き出せたのは大きい。大したものだ」

 「悪魔(デーモン)とここまで情報をやり取りできたのは怪しくないか? 彼女自身悪魔(デーモン)と関わっている可能性は?」


 好き勝手に口を開く面々に対し議論はユッカ嬢の話が終わってからにしろ、と声を上げると、彼女に目で続きをと促す。


 「……その後、キャロットが氷乱舞(アイスダンス)跡の両脇に壁を魔術で作成。残ったトロルをアヤさんが怒涛の勢いで殲滅して、なんとか逃げることができました。ちなみにアヤさんが悪魔(デーモン)から魔法を行使されたのは、壁の魔術の完成直前。その後私たちに魔法が放たれることはありませんでした」


 「精神に作用する魔法ということは闇属性だと思いますが、闇魔術と同じく目線が通ってないと効果を発揮できないのかもしれません」


 「ならばできるだけ目線の通らないようにする必要がありますな。こちらの方は早急に手配します」


 ノエル卿の意見をオーフェン卿が取り入れる。たしか報告書にはここまで詳しい状況は書かれていなかったはずだ。やはりユッカ嬢を呼び出して正解だったか。


 「そういえば、ヴルダーラ(・・・・・)という言葉に聞き覚えのある者はいるか? 冒険者組合でも探ってもらってはいるが、まだわかっていない状態だ」


 私の質問に、皆聞いたことがないと答える。元々期待していなかった回答だ。


 改めて会議に参加している面々の顔を見回す。皆緊張感に包まれており、情報の伝達と危機感を持たせるという目的は達成できたようだ。


 「他、何か聞いておきたいことがある者はいるか? 居なければこの場は解散とし、防衛について詰めたいと思う」


 数点の質問の後、会議が締められた。想定していたより時間がかかってしまったとはいえ、それだけの成果はあったように思える。既に軍関連の者は何やら話を詰めているようだ。

 私は彼らを尻目に、先に館へと戻ることにした。

次話は16/10/23 18:00予定です。


 領主へ視点がいくと一気に登場人物や固有名詞が増えますね。

 ちなみに私は戦争と平和を読んでうがーってなった人の一人です。


人物まとめ:

・ミグナール辺境伯=ウォルンタース・エガード・ロックバウト

 ミグナール領の領主。

 分かりにくいけどウォルンタースが名前。ロックバウトが家名。

・クルテ・モーデスト子爵(補佐)

 文官。ひょろい体格。

・オーフェン・ロックバウト子爵(軍務長官)

 文官。ひょろい体格。

・チェリベ・アルノート騎士爵(騎士団長)

 武官。ごつい体格。

・ノエル・アーヌルス魔術師爵(魔術師団長)

 武官・文官。ショタ。

・ターラル・ガルバート騎士爵(防衛隊隊長)

 初出01-01。門番をしていた人。01-04で実は偉い人?疑惑があった。

・レオール・アルフォンブラ(商人組合支部長)

 お腹が気になるおっさん。

・オーギュスト(冒険者組合支部長)

 初出01-10。トロルを報告した際に色々聞かれた。対応したのはティア。

・ファルクス・クレシオン騎士爵(Sランク冒険者)

 がっしりした体格。

・ユッカ・スノウライン(Aランク冒険者)

 初出01-05。芋仲間。二つ名『氷雪』

 ペルフェクシオン王国スノウライン魔術師爵家の次期当主らしい。

 今回は頑張って話しました。誤魔化すのも頑張りました。


補足説明(1):

 魔術師爵は騎士爵の魔術師版のようなもので、爵位の中では騎士爵と同等の階級です。

 各国や各領主は騎士団と同様に魔術師団も保有しています。

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