ムスコという言葉は妹に聞かせるものじゃない
ピピピと目覚ましの音が鳴る。
布団の中の俺は腕を伸ばしてそれを止める。
まだ少し肌寒い四月。
まだ、この布団の温かさに包まれていたい。
「時間だ」
という、俺の願いはいつの間にか布団のよこ立っていたムキムキの男によって叶わぬものとなった。
「……おはよう、親父」
「うむ。おはよう」
「普通、こういうのは妹とかが布団に乗っかって「お兄ちゃん! 朝だよ! 起きて!」って言うもんだと思ってたという俺の願望」
「七夕の姿に女装しろということか蓬よ。それはキツイぞ」
「それを見るこっちはもっとキツイわ!」
「おいおい、叫ぶなよ。朝から元気なのはお前のムスコだけでいいんだぞ」
「ヒュー、朝から親父に下ネタをふっかけられだぜ。どうしろってんだこの状況」
「二人とも何してるの」
いつまでもこない俺たちのことを呼びに来たのか、いつの間にか妹の七夕が部屋の入り口に立っていた。
というか、扉開けっ放しかよ親父。俺のプライベート空間ですよ、ココ。
「いやなに、息子のムスコについて話していたところだ」
「最低」
「まてまてまて! 話し始めたのは親父だぞ!」
「? 七夕に布団の上に乗っかって「お兄ちゃん! 朝だよ! 起きて! お兄ちゃんのムスコはもう起きてるよ!」って言って欲しいんだろ?」
「俺のムスコについては言ってねえよ!」
「最低。お兄ちゃんのバカ」
そう言って、七夕は下の階へ行ってしまった。
「お兄ちゃん最低だな」
「親父覚えてろよ」
「一歩進むと忘れちゃうんだよね。よいしょ。ハイ忘れたー!」
鳥以下かよ。
ふと、時計に目を向けるとアラームが鳴ってから10分も経っていた。
今日から俺は高校2年生になる。
そのため遅刻しないようにと、いつもより10分早くアラームをセットしていたが、どうやら無駄だったようだ。
「着替えるから出てってくれ」
「うむ。皆待ってるから素早く済ませろよ」
「あいよ」
この家のルールで、食事はみんな揃ってからとるという決まりがある。
俺を除く家族は既に準備が終わってるのだろう。さっき来た七夕も制服だったし。
ワイシャツをきてネクタイを締める。ブレザーは……食事で汚すかもしれないので着なくていいか。
今日の学校は顔合わせみたいなもので授業はない。持っていくものは特に無いだろう。
一階のリビングに向かう前に洗面所で顔を洗い、寝癖を直す。うん。今日も笑顔が気持ち悪い。
「よし」
ある程度、身嗜みを整えた俺は家族のいるリビングへ向かう。
腕時計を見ると5分も経ってた。
ヤバい。織姫姉さんがお腹を鳴らしてるかもしれん。
これから朝食だというのに、俺の気持ちは腹ぺこで待っている姉の事を考えると少し罪悪感があった。




