8月26日
目の前には、20体のコボルトという犬顔の獣人の群れと、それを束ねる一回り大きな個体がいる。
ヘイヴさんに敗れてから領地にプレイヤーが来ていない間は、ここ【修練の館】というプレイヤーメイドのダンジョンにてスキル上げとプレイヤースキルの向上を目指して連日通っていた。
各層が、大部屋にボスが指揮するモンスターの集団を倒すと、宝箱と次の階層への階段が出現する構成になっており、1層目のウルフ・2層目の飛行系・3層目の水棲系を何とかクリアして、現在4層目でつまずいている。
3層までは、なんだかんだ言って動物の延長だったので、ボスの指揮があっても力押しで何とかなっていたのだが、4層目を迎えてヒト型のモンスターになり、武器ごとに編成を組んで仕掛けてくるようになったためだ。
しかも作者もこの辺から遊び出したのか、コボルトがチワワやプードルなどの小型犬の顔をしていて、やたら大きな黒丸の目で見つめてくるため、モンスターを相手に妙な罪悪感がある。
弓を構えたチワワが山なりで矢を放ってきて、その下をダックスフンドたちが剣と盾を構えて駆けてくる。
矢を避けて迫ってきたダックスフンドを相手していると、死角からポメラニアンがナイフで首を狙いに来る。
それを指揮するプードルが魔法による遠距離攻撃を仕掛けるという、まさにカオスな状況を打開すべく、一体ずつ確実に仕留めていくために刀の切っ先まで意識を集中する。
ヘイヴさんから教えられたのだが、生産だけではなく攻撃の面でもイメージというのは重要なようで、ただ剣を振るのではなく、軌道や速度などを明確にイメージして攻撃することでアーツのような追加効果が生まれるそうだ。
曰く、アーツとは補助輪のようなもので、そういったイメージや動きを自動で補完することが目的なようで、実際に同じように意識して攻撃することで同じ効果が得られるそうなのだ。
ということは、現実で何らかの技能を習得していた場合は、アーツに関係なくこちらでも繰り出せるということなのだろう。
自分は特にそういった技能の習得はしていないので、こちらでのイメージを明確にするために、刀の素振りなどをログインしたら一時間ほど領地内でするようになった。
スキルレベルの向上などはないのだが、明らかに以前より威力が上がり、動きがスムーズになったのがわかる。
まぁそんなことは、目の前のコボルトたちを倒してしまってからだなと、ポメラニアンを切り伏せ、ハンマーでダックスフンドを盾ごと潰し、矢を切り払いチワワを蹂躙することでプードルとの1対1に持っていくことに成功した。
プードルは指揮しているときは魔法による攻撃だったので、てっきり後衛なのかと思っていたら、大きな斧を取り出してそこへ炎の付加魔法をかけてこちらに駆け出した。
燃え上がる斧を振りかざし、先ほどまでの可愛い印象とは程遠い鬼のような形相で迫ってくるプードルに、ちょっと引きつつ、こちらも刀を鞘に納めて構える。
流石に斧を刀で受け止めるなんてできそうにないので、振り下ろされる斧を右に前進するように避けて、左の腹を抜刀による一撃で斬る。
斧は避けたがギリギリで躱したため、纏っていた炎でHPが少し削られる。
プードルはたたらを踏みながらも振り向きざまに横薙ぎに攻撃を繰り出してきた。
とっさに後ろへ飛び、着地と同時に前方に駆け出し、斧を振って無防備な右の腹から胸にかけて大きく切り開くと同時に右腕の切断に成功した。
最後の力を振り絞り、左腕1本で斧を振り回して突進してくるプードルを【バインド】で拘束して首を切り落とすことで、何とか4層のクリアを果たすことができた。
目の前には、お決まりの宝箱と階段が出現する。
このダンジョンではモンスターはアイテムドロップしないので、宝箱でのみアイテムを入手できる。
宝箱の中身はダンジョンマスターが指定したアイテムの中からランダムで1つ入手できるようで、階層によって違うようだった。
大体傷薬などの消耗品が入っていることが多かったが、今回は宝石系のアイテムを取得した。
今までにも採掘ポイントで何種類かゲットしているが、ずっとアイテムボックスの肥やしと化しているため、何かに使えないかとは思っているのだが、いまいち実用例が思いつかない。
それはそうと、ついに第5層に到達だ。
階段を上り真ん中の魔法陣に触れると、「戦闘を開始しますか?」と案内が表示される。
YESを選択して敵の出現を待つ間に、属性付加で武器と防具に闇属性を付加していく。
モンスターは4階層までの複合集団のようで、ウルフ、コウモリ、クラゲが各5体とコボルトが15体、そしてボスと思われる大きなヘビの計31体といったところだ。
コウモリが上空から超音波で、攻撃してきて平行感覚を狂わされたところにウルフとダックスフントとポメラニアンが駆けてくる。
後方からチワワが矢を放ちクラゲがマヒ効果のある粘液を飛ばしてくる。
痛む頭を押さえつつコウモリに、【ダーク】を放ちウルフたちを相手に剣を交わす。
クラゲの粘液だけは、当たったら即詰みになってしまうので必死に避け時には、敵を盾にして痺れた相手にとどめを刺して数を減らしていく。
半分くらいに減らしたところで、ヘビが見当たらなくなっている。
どうやらステルスヴァイパーと同じ特性を持っているようで、認識出来なくなっているようだ。
背後に警戒しつつ厄介なクラゲをターゲットにして駆けていく。
後衛組を何とか蹴散らしたところで、太ももに痛みが走り確認するととヘビの頭がそこにあった。
毒を喰らい強引に引きずられていく先には、残っていた前衛組が待っている。
何とか右目に刀を突きさして難を逃れ、毒消しを噛まれたところに使用して、迫ってくる前衛との交戦とふいに襲ってくるヘビからの毒液や噛みつきを避けつつコボルトたちを切る伏せる。
こちらのHPも気づけば3割くらいに減っていて動きに支障をきたしていた。
回復薬を頭からかぶり、5割くらいまで回復させながらコボルトの処理を済ませてヘビとの対決に集中する。
1対1になってからは、尾を鞭のように使い中距離からの攻撃を毒液を交えながら加えてくるので、尾に目掛けて【ダークスラッシュ】を放ち切断に成功したので、頭を目指して駆け寄り斬りかかると、腹に衝撃が走り後方へ飛ばされた。
見ると傷口から新しい尾が生えたようだ。
なんという生命力してんだと悪態を突きつつ、再度【ダークスラッシュ】で切断を図るが、先ほどのことで学習したようで当たらない。
このままでは埒があかないので、一旦距離を取って刀を鞘に納める。
相手を見据えつつ大きく息を吸い精神統一を始める。
抜刀の構えをして切っ先まで意識を集中し、相手の頭を切り落とすイメージを高めていく。
ヘビは鎌首をもたげて近付いたところで、少し後ろへ引き一気に噛みつくために大きな口を開けて迫ってくる。
それと同時に、こちらも駆けだして上顎と下顎の間に目がけて刀を振り切る。
ヘビは、自身の勢いも相まって上下2枚に分かれて絶命した。
先程はなったのは、一閃」と名付けたオリジナルのアーツみたいなものだ。
素振りをしていた時に、出来心でいろいろ試していると偶然出来たものだが、繰り返し練習して何とかいつでも発動させることが出来るようになった。
やることは、ただの抜刀からの横薙ぎの斬撃なのだが、相手のの動きに合わせた攻撃の軌道、身体の細部の動きなどその攻撃に関するイメージを最大限まで高めそれを実際にトレースすることにより高威力を叩き出すのだが、まだまだ修練不足で発動するには、精神統一などに時間がかかってしまい対人戦で使うレベルには至っていない。
ともかくこれで、5層をクリアでいいのだろう。
何時もより大きめな宝箱と階段が出現した。
宝箱を開けてみると
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第5層クリアの証
「修練の館」の第5層クリアの証
ダンジョン内移動アイテム 使用回数:制限なし 譲渡不可
「第5層クリアおめでとうございます。
このアイテムをダンジョン内で使うことで第6層から挑戦することが出来ます
今後とも「修練の館」をよろしくお願いいたします。
by 太郎坊」
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というひし形の木に紐を通す穴の開いた絵馬のような形のアイテムを手に入れた。
表側には修練の館とデカデカと書いてあり裏側には左上に5階層クリアと表示されていた。
「第5層クリアの証」はここに通うならかなり便利なアイテムのようだ。
今までは1層から順に進んでいた為に4層のクリアまでに何度も1〜3層に挑戦していたので、次回からは楽できそうである。
5層クリアで満足したので今日はこの辺でログアウトすることにした。
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ヨウ
装備スキル
≪魔王9≫≪属性付加12≫≪孤軍奮闘24≫≪幸運99≫
控えスキル
≪中級採掘22≫≪中級鍛冶15≫≪初級革加工42≫
お読み頂きありがとうございました。
更新が不定期で申し訳ないです。
今後ともつたない文章ではありますが、読んでいただけると幸いです。




