20 ガリウムの飛沫・飛礫
(3)
まるでボスのステージのような雰囲気の、がらんとした廃屋のとした間にて、パク・ソユンとドン・ヨンファのふたりは、おそらく妖魔と思しき三人と対峙していた。
「不法侵入――? 警察でも、呼ぼうかしら?」
鉄芭蕉扇の女が、ふたりに聞く。
横から、
「何もんなんだ!! てめぇ、らぁ!!」
と、黒豹の妖魔が、うるさくキレてみせる。
「い、いや……、その、僕らは、」
ドン・ヨンファが、「僕らは怪しい者ではないですよ」とお決まりのセリフを言おうとした、その傍から、
「ぽよ」
と、パク・ソユンが言った。
「「「ぽよ――!?」」」
妖魔たち三人は、驚愕した。
…………、…………
沈黙が、漂う。
「う、わ……」
ドン・ヨンファが、「また、こいつは……」と、苦虫を潰したような顔をする。
対する相手のほうも、
「……」
と、鉄芭蕉扇の女も、ポカン……としており、また、
「何だ、『ぽよ』って!! ちゃんと答えろよ”ぉ!! ああ”!!」
と、黒豹がキレる。
なお、
「シュー……」
と、牛魔王のほうは、マスクの下の顔が見えないから分からない。
「まあ、いいわ……」
鉄芭蕉の女が、「やれやれ」と呆れた表情を見せる。
次の瞬間、
「――排除するわ。その、ゴーヤごと」
と、切り変えたように表情を変えるや、
――ブ、ォォッ……!!
と、先ほどより、大きく振りかぶろうとした!!
ふたたび、強烈な、竜巻のような旋風を見まわんとする!! まさに、その刹那――!!
すでに動いていたパク・ソユンが、
「……」
と、ジッ――と、妖魔たちのほうを見ながら構え、
――パッ、シャァッ――!!
と、懐から出した手のひらから、何か液体の飛沫を放つ!!
金属色の、大小の液体の飛沫が、妖魔たちに襲いかかる!!
「なッ――!?」
「う、うぉぉ”ッ!?」
女と黒豹が、驚きの声をあげる。
同時に、彼らは防御姿勢と回避動作をとる。
女は鉄芭蕉扇を盾にし、牛魔王風の妖魔は、半身引いて受け身の態勢をとっていた。
だが、
――ジュワ、ワァァ……
と、金属色の、“謎の飛沫”というか飛礫は、彼らの鉄器もしくは合金製の武具へと浸透していく。
次の瞬間、
――ピ、キッ……
と、それらに亀裂が入り、
――ボロ、ボロ……
と、もろくなって崩れ、“形”を失っていた。
信じがたい光景に、
「えっ……? な、何が起きてる、の……?」
と、ドン・ヨンファも、すぐには理解が及ばなかったが、
「も、もしかして……、この、金属を、ボロボロにする液体金属、って――」
と、“あるもの”が思い浮かんだ。
「ぽよ。その、もしかして、よ――」
パク・ソユンが、あわせるようにして言うと、
「ガリウム、かい……?」
と、ドン・ヨンファが、確認するように聞いた。
「ぽよ。まあ、さしずめ……、ガリウムの飛沫、飛礫というべきかしら?」
と、パク・ソユンが、そのとおりだと答えた。
ガリウムの飛沫・飛礫――
やや温かい常温で液体になる金属のガリウムであるが、動画やショート動画などで、広く知られるようになったかもしれない。
液体状態で他の金属と触れると、まるで浸透するようにして合金となってしまい、もとの金属をボロボロにしてしまうという、恐るべき力を持っている。
なので、航空機で持ち込みが禁止されているなどと、よく紹介される。
そんなガリウムを、パク・ソユンは手のひらに召還し、それを豆まきのように撒くという異能力を使ったのだ。
それによって、女の持つ鉄芭蕉扇と、牛魔王男のアーマーが、ボロボロになってしまった。
「な、何で、ガリウムなんか召還できてんの? どうせ、『ガリウムを航空機や新幹線にぶちまけたら、どうなる――?』みたいな動画でも視たんでしょ?」
「はぁ、」
などと、ドン・ヨンファとパク・ソユンが、話していると、
「ちょっと!! アタイの鉄芭蕉扇!!」
「うぉぉん――!! お、女!! なんて破廉恥なことを!!」
と、ガリウムの飛礫の被害を受けた当人たちが、文句を言ってきた。
その横から、
「てぇ”めぇッ――!!」
と、黒豹の化け物が、ついにキレてしまい、
――シュ、タッ――!!
と、爆発的に急加速し、突進して襲いかかってくる!!
「ひッ――!? ひぃぃッ!!」
案の定、ドン・ヨンファがビビる。
すると、
「シャァァ”ッ!!」
と、黒豹は、その牙、爪の刃を!! パク・ソユンに向けて飛びかかる!!
だが、
――ザ、ザッ!!
と、パク・ソユンは、黒豹の飛びかかる動きに合わせるようにして、背を床にして倒れるなり、
「ふん、ぬッ――!!」
と、巴投げを、黒豹相手にキメて見せる。
「なッ――!? うぉぉ”ーんッ――!!」
黒豹は叫びながら、自身の勢いを余らせながら、
――ズザァァッ!!
と、大きく前方へと投げ出され、
――ゴロン、ゴロンッ――!!
と、勢いを殺しきれずに回転しながら床を滑り、ドゴッ――!! と、壁へと激突してしまう!!
「ぐ、ががッ!!」
黒豹が、声をあげる。
だが、衝突のダメージにも関わらず、ブルブルと身体を震わせながらも、
「て、てっめ、」
と、立ち上がろうとしていた。
そこへ、
「ちょっと!! ボサッとしてないで、何かしなさいよ!! ヨンファ!!」
「あ、ああっ、」
と、確かに、ボーッとして眺めていたドン・ヨンファに、パク・ソユンが促した。
そして、
――ゴ、バァッ――!!
と、疑似植物の、ゴーヤのネットを黒豹に向かって放ち、
「うぉぉんッ!! く、くっそ!! な、何だこりゃ!?」
と、黒豹を絡めて無力化させる。
そんな光景に、
「……」
「……」
と、鉄芭蕉扇の女と牛魔王風の男も、声を失っていた。
パク・ソユンが、妖魔たちに言う。
「は、ぁ……、これで、観念したでしょ?」




