125:ふたり
「私ね、魔法でもかけられちゃったみたいなの。もうずっと前から……」
変わらぬ表情でそう言った沙織。鷹緒は意味がわからずに、次の言葉を待つ。
「私、ずっと鷹緒さんのことが頭から離れなかった……数年前、十年ぶりくらいに再会した時、鷹緒さんはスタジオで撮影してたよね」
「……うん」
「その時のカメラのフラッシュで、逆反射して照らされた鷹緒さんの顔が、今でも離れない。まるで魔法でもかけられたみたいに、頭の中に焼きついて……カメラを構えてる鷹緒さん、真剣で楽しそうで……」
「……」
沙織は独り言のように、話を続ける。
「シンデレラコンテストの宣材写真を撮ってもらった時、二人きりで息が止まるかと思った。まるで蛇に睨まれたみたいに、カメラのレンズの向こうにいる鷹緒さんから目が反らせなかった……」
「……」
「その瞬間ね、フラッシュの光が私を包んで、それで……」
「もういいよ」
その時、鷹緒が止めた。
「え?」
「……もういいよ」
「いいって……」
鷹緒は軽く俯いた。鷹緒も何か言葉を探しているようだ。
「……鷹緒さん。私たち、つき合ってるん……だよね?」
その時、沙織が思い切ってそう尋ねた。鷹緒はやっと、沙織の不安の原因を理解していた。
「馬鹿だな。本当……」
そう言う鷹緒は、いつになく優しい瞳で沙織を見つめている。
「鷹緒さ……」
「俺は……ファインダー越しに見える沙織を、好きになったんだよ……」
言いかけた沙織の言葉を遮って、鷹緒が言った。その言葉に、沙織は大きな目を一層見開く。
「ごめんな。不安にさせて……」
言葉を選ぶようにゆっくりと、やっと鷹緒がそう言った。沙織は思いがけず涙を流した。鷹緒は苦笑して続ける。
「馬鹿。なんで泣くんだよ」
「だって、私……」
「……今度、挨拶に行こうか。おまえの実家に……」
静かに、鷹緒がそう言った。
沙織は涙を拭きながら、鷹緒を見つめる。沙織の目に映る鷹緒は、優しくこちらを向いて微笑んでいる。
「鷹緒さん……」
「つき合うのにも許可がいるだろ。俺の場合」
苦笑しながらも照れ笑いする鷹緒に、沙織は微笑んだ。
「うん。おばあちゃんのところにも!」
「そうだな。全然、顔も出してないしな」
「鷹緒さん……」
沙織が向かい合った鷹緒の手を握った。鷹緒はそんな沙織の手を握り返すと、静かに沙織を抱きしめる。
「……ちゃんと好きだから……」
腕の中で聞く鷹緒の言葉を、沙織は噛み締めるようにして、涙を流した。
「うん。私も……好き」
笑い合う二人は、そっとキスをした。
もう、二人が迷うことはなかった。過去も未来も、すべてが二人に繋がっている。互いに過ごす時間が、写真のように鮮明に刻まれる。
とどまることを知らないフラッシュの光に包まれたように、二人寄り添ったまま、暖かく輝いた未来へと歩いていく――。
あなたが放つフラッシュに魔法をかけられたように、あなたのことが頭に焼きついて、離れない……。
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