エピローグ
姫神子のおわす神殿で、剛毅は姫神子に謁見を賜っていた。
蓮の妖魔の一件を、報告しに参上したのである。
「まったく。凪の奴が、ああも変わるとは。姫神子様。こうなることを予見されていたのですか」
剛毅の問いに、姫神子は答えた。
「さあ、何のことでしょう。私はただ、凪に責任を取らせただけのこと。これで、凪も自分の命を大切にすることを憶えるでしょう」
見抜かれてやがる。
剛毅はそっと心の中で呟いた。
凪は人との関わりを、ずっと避けている節があった。
凪は昔、帝と姫神子の一行を止め、帝に直接たてつき、不敬をはたらいたとして処刑されそうになったことがある。その時、帝と姫神子の恩情で命を助けられた。
凪と仕事を共にする剛毅は、凪の自らを省みない行動をよく目にしていた。
それを注意するも、凪は「一度死んだ命。それを惜しむつもりはない」と、剛毅の忠告を聞き入れることはなかった。
それがどうだ。あの、変わりようは。
凪が子どもを抱きしめている姿を思い出して、剛毅は口元を綻ばせた。
もう一人にはしないと、子どもに誓っていたあの姿。
「何もかも、姫神子様の思い通りという訳か」
姫神子の御前を辞したあと、剛毅はそう独り言つのだった。
その日。凪は子どもと一緒に庭に出て、夕陽を眺めていた。
以前、剛毅が座っていた切り株の上に腰を下ろし、子どもを膝の上に乗せた格好だ。
「お日様大きいね」
嬉しそうにはしゃぐ声に、凪は口元に笑みを上らせた。
「ああ。大きいな」
凪の笑みを見た子どもは、より一層嬉しそうな表情をつくる。
「赤くて、綺麗だね。ぼくね。夕方のお空大好き」
何もかもを赤く染める夕陽。大きく温かなそれを見ている凪の胸に、ふとあることが思い浮かんだ。
「そうだ。名前」
その言葉に、子どもが凪を振り仰ぐ。
「なあに?」
「おまえの名前。決めた」
凪はゆっくりと片腕を上げ、大きな夕陽を指さした。
「おまえの名前は夕だ。夕陽のように、大きく温かな人になるように」
子どもはしばらくきょとんとしていたが、ゆっくりと大きく目を見開いた。
「ぼく、名前がついたの?」
「そうだ。夕。おまえの名だ。気に入らないか?」
問われて、子どもは大急ぎで首を横に振る。
「ううん。嬉しい。すっごく嬉しい。ぼくの名前は夕なんだね」
「ああ。おまえは夕だ」
茜色の空の下。
夕と凪は飽きることなく、いつまでも、夕陽を眺めていた。
ここまでご覧いただき、ありがとうございました。
今回の作品は前書きにも書きました通り、伊那さま主催の『和風小説企画』に参加させていただいた作品になります。
しばらく諸事情により、創作活動を控えておりまして。私ごとですがリハビリ的な意味合いを持つ作品となりました。
しばらく書かないと、どうやって書いていけばいいのかとか忘れちゃいますね(汗)いや~。精進せねばと思いました。
和風と言えど、ファンタジー、異世界のお話ということで。私が最も苦手とするジャンルに今回挑みました。
もっと、上手く考えていることを表現できればと、執筆中も今も歯がゆく感じております。
読んでくださった皆様に、どのように感じていただけるか。楽しみでもあり、不安でもある。今はそんな気分です。
とても、上手くかけたとは言えない作品ではありますが、皆様に少しでも楽しんでいただけていれば幸いです。
評価感想などなど、おまちしております。
それでは、最後に。
伊那さま。素敵な企画に参加させていただきありがとうございました。
おかげでずっと眠っていた世界を世にだすことができました。
『和風小説企画』には、たくさんの作家さまが色んな和風小説を投稿されています。こちらをご覧いただいている皆様、よかったら私と一緒に、和風企画を楽しんでみてくださいませ。もくじページにHPのリンクを貼っています。
やっぱり私のあとがきは長くなってしまいますね(^^;
それでは。
ここまでご覧いただきありがとうございました。
また、お会いできることを願って。
愛田美月でした。