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魔物討伐協会・安全課所属『ナナイ・ミズキ』

 日に日に危機感が募っていくが、仕事をしなければ健康的な食事をとることができない。

 なので、今日も今日とて危険人物と出くわさないよう細心の注意を払いつつ、教習用依頼の受付にやってきた。

 右を見て、ナカザワさんはいない。

 左を見て、ナカザワさんはいない。

 上、前、後ろ、さらにはテーブルの奥や下まで入念にチェックするが、ナカザワさんの姿はどこにも見当たらなかった。

 よし。今日こそは安全で安心、ついでに言えば簡単でそれなりの報酬がもらえる仕事を探すぞ。

 ほっと一息ついて、今度はトオリさんに肩を叩かれないか警戒するが、トオリさんの姿も見えない。

 なので、今度こそタブレットを起動して、教習用依頼を確認する。

 今までちゃんと依頼を見る機会はなかったが、教習用とうたっているだけあって、討伐員として初歩の初歩である依頼が数多く見られる。

 耐久犬の散歩、ぶっ通し8時間は忍耐力と体力を鍛えられそう。

 それにこれは以前、お嬢様のペットを預かって、一日中散歩させたこともあるから、できなくもない。

 100万ピースのパズル完成は、集中力を得られそう。

 人に完成させてもらうパズルはおもしろいのか? と思わなくもないけど、日本でも確かそんな仕事があった気がする。

 オレもお嬢様が持ってきた、店内で飾るパズルを夜通し完成させたことがある。

 しかし翌朝、そのお嬢様がつまずいて、パズルを粉々にした時は膝から崩れ落ちたっけ。

 結局、その翌日に完成させることができたが、報酬はお嬢様カフェの指名権だけだった。

 しかもその相手はお嬢様カフェ人気No.1の詩音という、オレにとっては嬉しくもなんともない。

 それに拒否権のない地獄の指名権という、まさに拷問のような報酬。

 それはさておき。

 他の依頼は、イベント会場の警備補助。これは読んだそのままだな。

 お嬢様カフェでも警備の仕事はやったっけ。お嬢様ファンの巨漢に、悪気なくぶっ飛ばされたことがあったなぁ。

 そのあと詩音が『周りをよく見なさい』と、その巨漢にビンタしたら、一発で沈んでたっけ。

 改めて考えなくても異常だよ。あれは。

 でもその巨漢もビンタはご褒美だったようで、喜んでたっけ。

 とまぁ、教習用依頼にちゃんと目を通せば、オレでもできる仕事はたくさんある。

 さすがに楽に稼げるような仕事はないが、ナカザワさんのような、ぶっ飛んだ仕事で多く稼ぐより、ゆっくりと安全に稼ぐ方がオレの性に合っている。

 さて、今回はどんな仕事をしようかな?

「キミがキリサキ・コウキくんかい?」

 そう言ってオレの肩に手を置きつつ、聞こえてきた女性の声。

「……あ、はい……」

 そんなオレの穏やかな心は、一瞬のうちに粉々に砕かれてしまったのだった。

 トオリさんと同じパターンじゃないか……

 いや待て待て。まだ変な依頼と決まったわけじゃない。

 ただ、最近変な女性に絡まれているから、面白がってオレという人物を確認したいだけなのかもしれない。

 そう思いつつ声の主の方へ振り返ると、身長170センチぐらい。

 水色のワンピースに黒いロングカーディガンを着用した、細身で落ち着いた、灰色の瞳の姉系女性で、タブレットを携えている。

「やはりか。ハナから特徴を聞いていたから、もしかして、と思っていたんだが、正解だったようだな」

 ナカザワさんの知り合いかぁ……しかもわざわざオレのことを話したんだ……

 もうこれだけで、今日も大変な一日になりそうだと思ってしまう。

 ……まさか、これが今後の王道パターンになるんじゃないだろうな?

「えぇと、あなたは?」

 しかし名指しされて無視するわけにもいかず、オレは面倒ごとにならないよう祈りつつ、女性の方へ向き直る。

「私はナナイ・ミズキ。

 この討伐協会の安全課に所属している」

「安全課、ですか?」

 まぁ討伐に関係なく、安全は大事だよな。

 でもなんで、そんな人がオレに?

 ……まさか『安全を確認するために危険地帯の検査』とかいう仕事を振ってくるんじゃないだろうな?

 そんなことを言い出したら、今回こそ強気で全力拒否するぞ。

 しかしそれが通用しないのが、この討伐協会……みんな強引すぎるんだよ……

「あぁ。

 聞けばキミはアパートの爆発に巻き込まれても無事だったようだし、ハナと一緒に出かけても当日中に無事に帰ってきた。

 それに……あぁと……問題児でもある、あのアイリの弟で、そのアイリを軽くあしらっている様子も多数見られている」

 一応『弟』という設定に気遣って言い淀んではいる。

 それにしても、どこまでいってもあの『姉』は人に迷惑をかけてるんだな。

 というか、アパート爆発からの無事帰還はわかるけど、ナカザワさんとの外出でそこまでの評価がつくとか……

 もはや、あの人自身が危険地帯だろ。

「……運が、よかっただけですよ……」

 あの人達の行動は、安全に気をつけていたらなんとかなる、とかいうレベルじゃない。

 本当にただ単に、運が良かっただけだ。

 ただ、巻き込まれたこと自体は最悪だけども。

「その運はとても大事だ。ただ、運だけでは当然危機は乗り越えられない。

 そこで安全課の出番、というわけだ」

「強い討伐員ではなくて、ですか?」

 極端な話、ナカザワさんや『心眼状態』のトオリさん、それにリリィさんが前線に立ってば、元女神であるアイリでさえ勝てそうにない、最強戦力だと思うんだが……

「その強い討伐員は常駐しているわけではないからな。

 それにこの支部の最強戦力は、討伐員でもない魔導研究者のハナと、同じく魔導研究者出身の支部長だ。

 残念ながら、ハナは前線に立とうとはしないし、支部長は放浪癖がある。

 そもそも、安全というのは、魔物に対する脅威から人を守るだけではないからな。

 例えばひったくりや痴漢といった犯罪、これを未然に防ぐ、防犯といったほうがわかりやすいか」

「なるほど……」

 言っていることは理解できる。それなら確かに、強い討伐員である必要はない。

「それって例えば、犯罪の証拠となる映像を撮るための防犯カメラを設置したり、とかですか?」

「そうだ。あとは防犯用魔術のチェックを定期的に行ったりとかな。

 もちろん、犯罪を未然に防ぐことが一番望ましいのだが、世の中そう上手くはいかないからな」

 つまり、警察に似た、町の治安を守る人たち、ということだろうか?

 それは素晴らしいことだ。とても素晴らしい。

 けど……

「それで、そんな人がオレに何か……?」

 ただオレの話を聞いたから話してみたかっただけ、とかなら全然いい。

 一度仕事探しを中断して、落ち着いてお茶でも飲みながら話してもいいぐらいだ。

 でも、多分そうじゃないんだろうなぁ……

「そう身構えなくていい。

 今日は少し人手不足だから、町の防犯魔術のチェックを一緒にしてほしい、ただそれだけの依頼だ。

 たったそれだけだ。

 これは町を見回るという、教習用依頼にも適用されるから、ハナの件に比べれば簡単な依頼だよ」

 確かに話を聞く限りただの見回りであり、簡単そうに聞こえる。

 でも、念を押すあたりがあまりにも怪しい。と、オレの勘が言っている。

 どうしたものか? と悩むまでもない。

 これは拒否一択だ。

「えぇと、今日は」

「そうそう。ハナは昨日徹夜で研究をしていて、今日、どうしても行きたい場所がある、って言っていたんだ。

 でも目の前の研究から目を離せるのは、12時間が限度で、絶対に今日中に帰ってきたいそうだ。

 そこで、その相方を探すようだが、該当する人物は少ない。

 少し仮眠してから行動するようだが、キミも当てはまるんじゃないかな?」

 く……この言葉が真実かどうかはわからない。

 けど、それが本当ならナカザワさんに巻き込まれるより、ナナイさんの依頼のほうがマシに聞こえる。

「わ、わかりました……ナナイさんの依頼を受けます……」

「うん。それじゃあ早速行こうか」

 オレが依頼を受けるとナナイさんはにっこりと笑って、オレの肩をぽんぽんと叩く。

 ……今度こそ平穏な依頼でありますように……

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