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本当の事


 2年生の春、昨年とは違う事があります。1つ目はハロルド様との関係です。婚約破棄まで真剣に考えていた時期もありましたが、現在は両想いという状況でいつも一緒です。2つ目は、何と言ってもマリーナ様、いえマリーとの関係ですわ!私とマリーは1年間でとっても仲良しになれました!マリーは私の事を『リア様』と呼んで下さいます!ええ、最高に嬉しいです!


 しかし、マリーが魔力供給の協力を申し出てくれる事は未だありません。出来ればその辺りのお話もしたいのですが・・、昨年断られていますから慎重になってしまいますね。


 2年生のクラスは私とハロルド様、そしてマリーが同じA組でした。続いてミイナがB組、ウィルネスター様とビトレイ様がD組です。


 2年生は『フラロマ』が本格的にスタートする学年です。ある出来事を発端に、マリーは注目され、攻略対象者達と距離を縮めていきます。そしてここでのある出来事とは、『生徒会加入』を指します。入学時から注目を浴びる存在であり、尚且つ成績優秀ですから先生方からの推薦でヒロインちゃんは生徒会に加入させられ、その生徒会メンバーに、ハロルド様、ウィルネスター様、ビトレイ様といった攻略対象者達が勢ぞろいしている、という訳ですわ。ルートを絞るのは3年生への進級時ですので、2年生の間は全ての攻略対象者と様々なイベントが起こります。その為、それぞれのライバル令嬢も登場しヒロインをいじめ始めるのですが・・。


 ハロルド様ルートの悪役令嬢は私、ララリア・ガーベルですが、私とマリーは既に友人として仲良しですので例えマリーがハロルド様に恋愛感情を抱いたとしても彼女をいじめるなど有り得ません。ウィルネスター様ルートで登場するミイナも同様ですわ。また、ビトレイ様に関してですが、女生徒との噂が多いという乙女ゲームの設定とは少し違いました。確かに多くの女生徒と仲は良いようですがきちんと節度は守られており、男子生徒も含め単に友人が多いという印象ですので、ビトレイ様の1番を名乗るライバル令嬢は登場しない気がします。何故なら、ビトレイ様の1番はどう考えてもマリーただ1人だからです。2人が幼馴染である事は学園の周知の事実となっていますが今では嫌悪される事はほとんど無く、むしろ身分差を越えた特別な関係に憧れる生徒が増えてさえいるようですわ。


 今年登場予定であった残り2人の攻略対象者についてですが、何と、お2人共この学園に在籍していませんでした。4人目の攻略対象者であり設定上3年生、生徒会長であるはずの宰相子息、フォルノ・ネモ二様は体の弱い宰相の力になる為、飛び級で通常より1年早く卒業されたのです。今は宰相見習いとして王宮で働いているようですわ。続く5人目の攻略対象者は生徒会顧問であるはずのデレンド・ロックス先生ですが、彼は教員ではなく魔導士という道に進まれ、今は王国魔導士団の一員として活躍されているそうです。・・つまり、彼らはこの『フラロマ』の枠から外れた、という事でしょうか?学園に在籍していない以上、ヒロインであるマリーとの接触はほぼ不可能ですので、彼らの事はスルーしても良さそうですわ。


 今、私達は学園生活で多用させて頂いているあのサロンにいます。最近はマリーとビトレイ様も加わるようになりました。6人での会話は心地良く、とても楽しいです。


 ハロルド様は成績優秀ですし、『フラロマ』では生徒会副会長を務めていらっしゃいましたから、きっと生徒会に加入されますよね。一応、聞いてみましょうか。


「ハロルド様は生徒会に入られるのよね?」


「いや?俺は断ったよ。ララリアがいつ倒れるか分からないのに生徒会なんて忙しい所に入る訳ない」


 まさかの回答です。申し訳ないので『私は大丈夫だから入ってみたら?』と言いかけましたが、ハロルド様の意思は固そうですので『そうだったの、ありがとう』と言うに留めました。


「ウィル様も生徒会加入をお願いされてましたよね?」


 ミイナの言葉に、ウィルネスター様は優しい笑顔のまま頷かれました。


「そうだね。まあ僕も丁重にお断りしたよ。王族だからって学園でも上に立つ必要はないし、ここでは出来る限り勉強に集中したいんだ。ミィとの時間も大切だしね」


 ウィルネスター様も生徒会に入られないとは・・。もしかして、と思い、残るマリーとビトレイ様に視線を移すと2人も苦笑しつつ話し始めました。


「私とビトレイ様も打診されました。私はそんな恐れ多い立場に立てる気がしなかったので全力でお断りしましたが・・」


「生徒会に入ってしまうと迷子になったマリーナを見つけられる人がいなくなるので、俺も断りましたよ」


「まあ・・・」


 これは、乙女ゲームは始まらない・・・という事なんでしょうか?主要人物の誰一人として生徒会に存在しないとは・・私にはもう訳が分かりませんわ・・・。


 そんな事を考えていると、時計はお昼休み終了の10分前を指していました。放課後も集まれたら良かったのですが、それぞれに用事がある為叶いません。ちなみに私は今日の放課後、保健室に向かいます。ハロルド様のお母様であるエネラ様がアーケイン先生の元を訪れていて、私とハロルド様、そしてマリーも呼ばれている為です。


 

 放課後になり3人で保健室に向かうと、そこには既にエネラ様がいらっしゃいました。久しぶりにお会いしますが、相変わらずお美しいです。私達が挨拶を済ませると、エネラ様は一呼吸置いて話し始めました。


「癪気体が何なのか、何故体内に取り込まれたのか・・。色んな疑問の解明の為に、この8年間ララリアちゃんにもたくさん協力してもらったけれど・・。ごめんなさいね、ほとんど何も分からなかったわ。分かったのは、癪気体は形のある物体では無くその名の通り気体である事、恐らく闇の魔力によってある程度の大きさに固められた気体が黒色に変色し、襲われた人間は徐々に魔力を奪われるという事くらいよ」


 エネラ様を始めコスモ家の皆様、そして王宮医師団の皆様は私が抱える『癪気体』の謎を解明し、私を救おうと尽力して下さいました。去年、マリーの存在が公になった事で、彼女による魔力供給が最善の方法であると結論付けられ、終わりの見えなかった癪気体研究に区切りを付けられたそうです。


 癪気体について分かっている事・・・。そういえば、あの夢の中で分かった事がありましたわ。


「私、誰にも言った事が無かったんですけれど、1つだけ癪気体について知っている事があります」


「・・え?何?」


「これは私の夢の中・・というより幼い頃に1度だけ見た未來視?のようなもので、確実に起こるとは言えませんが・・・。私、20歳っていう余命を宣告をされていますが、その年齢辺りで、私が癪気体になるんです。私の体内にいるはずの癪気体が私を内側から飲み込んで、1人分の魂を奪った癪気体はもっと大きくなって王都で暴れ始めるんです」


 最後にもう一度『確かな情報とは言い難いですが』と付け加えたものの、全員が驚きの表情に変わっていました。目を見開いていたエネラ様は


「そんな可能性も捨て去る為に、マリーナ・ロマンヌさんの協力が必要です。今すぐにでも、あなたの魔力供給が望まれますわ」


と、マリーに声をかけた後、公爵家に戻られました。






 次の日の放課後、マリーナはビトレイと共に、人気の無くなった中庭にハロルドを呼んだ。ハロルドには『ララリアを寮に送り届けた後で来て欲しい』と伝えていた為、やって来たのはハロルドただ1人である。


「マリーナ嬢、ビトレイ。話って?」


「リア様への・・・協力についてです」


 そう話すマリーナの声は小さく、震えてもいたが、その目は間違いなく真剣なものであった。


「協力・・という事は・・」


「リア様への魔力供給をさせて頂きたいと・・思います」


「・・・本当に?」


「はい」


「・・っ!ありがとう」


 今にも嬉し涙を流してしまいそうなハロルドに対し、ビトレイからいつもより数倍堅く、冷静な声が降って来た。


「でも、受け入れて頂かないといけない事があるんですよ」


「受け入れる・・?」


 意味が分からないハロルドに、マリーナは言葉を繋いだ。


「はい。その内容を、まずはハロルド様に聞いて頂きたいと思いましたのでお呼びしました。・・私は確かに光属性で、100年に1人と言われる程の魔力量を保持しています。そして恐らく、リア様の癪気体を消し去る事が出来ます。癪気体がもたらしかねない将来へのあらゆる不安分子を取り除く事が出来ます。出来ますが・・・。私の魔力は・・・ある犠牲を伴います」


「犠牲?誰に?どんな?」


「私が・・私がリア様の命を救う場合・・。魔力供給としてその命を救う場合、リア様は・・・」



 そう言って下を向き数十秒黙りこんだマリーナであったが、意を決したように再び口を開いた。




「リア様は、リア様にとって1番大切な人の記憶全てを失います」



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