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やって来たのは


 先週のサロンでは混乱しっぱなしでしたが、1週間も経てばそれなりに落ち着いてきました。つまりはハロルド様、ウィルネスター様、ミイナの3人が私とマリーナ様の仲を取り持つ手助けをして下さる、という事と、マリーナ様は『フラロマ』での攻略対象者の1人であるビトレイ・サーン様と幼馴染らしい、という事ですね。3人の協力に関しては、私に異議を唱える隙などありませんでしたわ。ですのでハロルド様とウィルネスター様それぞれがマリーナ様と2人きりになる事だけは阻止しつつも、皆で交友を深める方向で頑張る事にしました。


 それにしても、マリーナ様とビトレイ様が幼馴染だったなんて初耳中の初耳でしたので本当に驚きましたわ。市井で暮らしていたはずの庶民であるマリーナ様と伯爵家子息であるビトレイ様・・。お2人の出会いは何だったのでしょうか?


 ・・と、私には到底分かるはずのない事を1人で考えながら教室を出ました。ちなみに今は放課後で、ハロルド様は職員室に呼ばれましたので先に帰る事にしました。『一緒に職員室に行って一緒に帰ろう』なんて言われましたが、もちろんお断りしましたわ。今日はいつにも増して体調が良いですし、寮までほんの数分です。その数分で誰にも気づかれずに倒れちゃうかも~、なんて心配は無用ですわ。・・・余談ですけれど、私の断りを渋々受け入れたハロルド様の表情も、見惚れる程にかっこ良かったです!ええ、口には出しません!


 こんなに短い距離でも1人で寮まで帰るなんて初めての経験ですので少しウキウキしながら渡り廊下を歩いていた私は、前方からやって来るやたらと周囲をきょろきょろと見渡す女生徒の存在に気付き、息をのみました。

 

 こちらにやって来ているのは、マリーナ・ロマンヌ様でした。


 ずっとお姿すら見られなかったので、私は想像以上に興奮してしまい、さながら長年応援してきたアイドルにやっと会えた!といった気分です。そしてそんな感情のまま、己の望むままに声をかける事にしました。この機会は逃しません・・!と意気込み、マリーナ様に近づきました。

 

「マリーナ様!こんにちは!覚えていらっしゃるかしら?以前、1度だけご挨拶させて頂いた、ララリア・ガーベルですわ」


「・・・!?・・・こんにちは。・・覚えています。・・・ご存知のようですが、マリーナ・ロマンヌです」


「覚えて下さっていたのね!ありがとう!」


 嬉しいですわ!私の事を覚えていた!2人きりで会話が出来た!もしかして、すぐに仲良しになれるんじゃありません?朗報ですわ!!


 って、ちょっと待って下さい。せっかくお会い出来たのに、これで会話が終了というのは余りにもったいないですね。・・ええっと、何を話せば良いんでしょう。前回のようにマリーナ様を困らせて碌にコミュニケーションも取れずに終了、というのは残念すぎますわ。


 ・・・あ、そういえば。


「あの、先ほど、すごく周囲を見渡していたようですけれど、何かあったんですか?」


 やたらときょろきょろしていらしたんですよね。


「・・・あ。・・・少し、道に迷ってしまいまして。音楽室に用があるんですけれど・・」


「そうだったのですね!それなら私が案内しますわ!音楽室であれば授業でも使いますし道順は覚えているので私に任せて下さい!」


「え・・・?・・・よろしいんでしょうか?」


「もちろんですわ!」


 この学園はとても大きく、学園には3つの棟が存在し、魔法学園らしく至る所に魔力による細工が施されている為、慣れるまではどこに何の教室があるか分からなくなってしまうのも無理はありません。私だって辛うじて音楽室は分かりますが他の教室であれば案内は難しかったと思いますわ。


 意気揚々と歩きだした私の隣には、可憐で可愛らしいマリーナ様がいらっしゃいます。どんどん仲良くなる為にも、しっかりと音楽室までお連れしなくてはいけませんね!



 ・・・そう、思っていたんですけれど・・・。


「ま、マリーナ様~?どちらに行かれるんですか~?音楽室はこっちですよ~?」


「・・・こっちの方が、近道になるはず、です」


「え、本当ですか?・・先ほど迷われていましたよね・・?」


「今度は、大丈夫だと、思います。わたしの、魔力的な勘が、こっちで良いって言ってるので」


「それはきっと正しいですわね!分かりましたわ!そちらへ行きましょう!きっとすぐ着きますわ!」


 そんなやり取りを既に10回程繰り返し・・・。


 ここは、どこでしょう?





 その頃、職員室で担任から生徒会の手伝いを打診され丁重に断っていたハロルドの元に、息を切らせたビトレイ・サーンがやって来ていた。ちなみに、初対面である。


「ゼエ・・ハア・・見つけた・・。ハア・・ゴホッ・・。ごめん、息が整うまで待って・・」


「大丈夫ですか?・・というより、どなたでしょうか?」


「ゴホッ・・。すみません。えっと、ビトレイ・サーンって言います。俺、堅苦しいの好きじゃなくて、すぐ軽い感じで話しちゃうの、癖なんですよねー・・。ってそうじゃなくて!!!」


「ああ、あなたが。・・どうかしたんですか?一応ここ、職員室ですけど」


「そんな事はどうでも良くて!!!あの!!先に謝っときます!!ごめんなさい!!!!!」


「は?」


「ごめんなさい!あいつ、アホみたいに方向音痴なんです!!それなのに『魔力的勘が・・』とか何とか無駄な自信だけはあって!あ~もう、本当巻き込んでごめんなさい!!!」


 職員室中に響き渡る謝罪を受け、しかし何が何だか分からないハロルドは、とりあえず外に出て話を聞く事にした。

 

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