何故
外に出た2人はすぐに話を再開した。
「何が起こっているのか教えてくれませんか?謝ってもらうような事は身に覚えが無いんですが」
「あの!!俺の幼馴染、マリーナ・ロマンヌって名前で、驚く程に方向音痴なんです!それで、今も学園内で迷っているはずなんですけど、今日は何故かララリア・ガーベル侯爵令嬢も一緒のようで!」
「・・・ララリア?」
「俺もさっき知り合いの女の子達から『2人が一緒にいた』って聞いただけなんですけど・・聞いた場所にはもういなかったし・・。マリーナが道に迷わなかった日なんて無いのでほぼ確実に迷子になってると思います。経緯は分かりませんが、ガーベル嬢がマリーナの方向音痴に巻き込まれているはずです。本っっ当にすみません!・・あの、ガーベル嬢は病弱でいらっしゃるんですよね?詳しい事は分からないですけど早く見つけないとヤバい?ですよね?」
「・・・探しましょう。早く、見つけないと」
そう言ったハロルドは相当焦っていた。そしてそんな表情を目の当たりにしたビトレイは、やはり急いで正解だったと思うと共に、自身の幼馴染に対して『迷ってるだけならまだ良いんだけど・・』と、心の中で呟いた。
ここは、どこでしょう?
学園に3つある棟はそれぞれⅠ棟、Ⅱ棟、Ⅲ棟、と呼ばれ、私とマリーナ様は音楽室があるⅡ棟にいる、とは思うのですが・・。動き回り、近道という名の遠回りを繰り返し、自分達がいる場所が分からなくなってしまいましたわ。そして思ったより時間が過ぎてしまいましたので、結局音楽室は諦め寮に戻る事にしました。
「今更かもしれませんけれど、マリーナ様って方向音痴でいらっしゃいます?」
「・・・はい。でも今日は本当に、魔力的な勘で行けると、思ったんです。・・・ごめんなさい、巻き込んでしまって」
「いえ!私が望んで案内を申し出たのです。マリーナ様は何も悪くありませんわ」
むしろ私が居たというのに目的地にお連れ出来ず、不甲斐ないです。ですが、この時間で少しずつマリーナ様と仲良くなれた気がします!
マリーナ様と会話を続けながら廊下を歩いていると、数人の女生徒がマリーナ様に声を掛けてきました。彼女達は上級生で、マリーナ様のお知り合いのようです。そして私達が学園内で迷っていた事を知ると「心配だわ!」と言って下さり、寮まで一緒に帰る事になりました。これで今日はもう迷いませんね!
「この学園、魔力による細工が色々施されているのはご存知?特定の魔力をかざす事で開く隠し扉や、数時間ごとに場所が変わる階段なんかは有名よね」
先輩方の内の1人が学園内の細工について教えてくれました。
「至る所に細工がある、というのは聞いていましたが・・すごいです!」
「本当に・・すごい」
私もマリーナ様も初めて聞く内容にワクワクしましたわ。
「まあ、魔法学園らしいわよね。・・・着きましたわ。今の時間帯は、この空き教室の中に階段が移動しているの」
「本当ですか!教えて下さってありがとうございます!」
「どういたしまして。というより、こちらこそありがとう、かしら?・・・見事に嵌って下さって。・・きゃははっ!ちょっと優しくしてあげただけで信用するなんて、よっぽどお友達がいないのねえ、マリーナ?マリーナ、あなた目障りなのよ。聖女だとか逸材だとか言われて調子に乗るんじゃないわよ?隣にいるあなた(ララリア)はどなたか存じ上げないけれど、どうせお仲間の庶民でしょう。仲良く一緒に閉じ込めて差し上げるわ。恨むならその女を恨みなさい、きゃははっ」
彼女達は突然態度を変え、笑いながら私とマリーナ様を空き教室に突き飛ばし、鍵を閉めるような音をさせた後、いなくなりました。
「・・・え?」
予想外の展開に、頭が追い付きません。
「・・・ララリア様。・・・ごめんなさい、私を狙った罠、だったみたいです。・・私のせいです」
「どういう事でしょう?ここに階段があるんですよね、・・って何も無い!!!!」
「・・・私のせいです。ごめんなさい、こんな事にも巻き込んでしまって」
悔しそうに、そして悲しそうに謝るマリーナ様に、何と声を掛ければ良いのか迷っている間、徐々に今の状況を理解しました。心配してくれたはずの上級生に嘘を吐かれ、何もない空き教室に連れて来られ、鍵を閉められて放置・・という事ですよね。というか、私、庶民だと思われていましたわね。実際は侯爵令嬢ですので恐らく彼女達より家格は上ですのに・・。きっと『深窓のご令嬢』でしたから、私がララリア・ガーベルだと知らない方がまだ多いんでしょう。
こんなイベントも『フラロマ』にはありませんでしたわ・・。
「マリーナ様は何も悪くありませんわ。とにかく、ここから出る方法を考えましょう。そうですわ!窓!窓から助けを呼びましょう!・・・って、痛っ?!!」
私が窓を開けようと手を伸ばすと、窓全体に防御魔法がかかっていたらしく、バチンッと私の左手を弾きました。
「大丈夫ですか?!・・・あの、多分ですけれど、窓も、さっきの人達の仕業だと思います」
ここから出るには鍵を閉められた扉を開けるか、窓の防御魔法を解かないといけないって事ですね。
どうしましょうか、と考えている時に、慣れてしまったあの浮遊感がやってきました。今は、今だけは止めて欲しかったですわ・・。しかし逆らう事など出来ません。
「マリー、ナ、さま。ごめんなさい・・こんな」
—————こんな時に倒れてしまうなんて
言葉は途中までが精一杯で、私はすぐに目を閉じ体を床に預けました。ギリギリですが、まだ意識はあります。
「ララリア様・・??・・・えっ、ララリア様?!!」
その叫びと、ハロルド様、ビトレイ様が扉を蹴り壊して教室の中に入って来たのは、ほぼ同時でした。




