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ハロルド・コスモ(2)

ハロルドが16歳になっているので、一人称は「俺」になってます!



 初めてララリアが倒れる所を見たのは9歳の時だった。あの時は週に1度もララリアの元を訪れないといけないなんて、本当に面倒だと思っていた。親に強制される形で続いた婚約も、ララリアに対しても、特別な興味も好意も抱く事は無かった。


 あの日、ララリアは俺の瞳と髪を綺麗だと言った。そして俺を誠実だと言った。嘘で固めた言葉をそのまま受け取っているララリアに、俺は申し訳なくなってしまった。けれど今更過去には戻れない。どうしようもない罪悪感を抱いたままお茶を飲んでいると、目の前で座っているはずのララリアが、倒れた。俺の呼び声になど反応もせず、少しの笑みを残したままのララリアが意識を取り戻したのはそれから約30分後の事だった。そして俺は初めて、他人に魔力を分けた。いや、ララリアを他人と言うのはおかしいな。ただまあ、自分以外の人間にって意味だ。何でそんな事をしたのだろう・・。実は16歳になった今でもよく分かっていない。俺のような特別な光の魔力を与えれば、ララリアは全快はできないものの少しスッキリするらしい。そんなような事を事前に両親から吹き込まれていたからだろうか。もちろん後悔などしていない。


 あの時、俺と同じ9歳のララリアが、得体の知れない癪気体とこれから先何年も倒れたり意識を失ったりしながら向き合って生きていかなければならないのかと悟った時、自然と魔力供給を願い出ていた。この申し出はララリアにとって損は無いはずで、喜んで受けてくれると思っていたから勢いよく拒否された時は驚いた。けれど俺も引き下がる事は考えていなかったので、アーケイン先生やララリアの侍女も味方に付け、結果的に魔力供給を行った。初めての魔力供給はコツを掴むまでが難しかったが、要領を得てしまえば簡単だった(少量の魔力供給である為、お試しのような1番簡単な意識操作であった事は後から知った)。


 あの日から7年が過ぎ、俺達は16歳になった。あれから俺は真面目にガーベル家へと通い続け、少しずつララリアと交流していった。ララリアは会うたびに『お慕い申し上げております』だの、『かっこ良いですわ!』だの、『好きです!』だのといった言葉を伝えてくるが、正直信じられない。いや、ララリアの言葉はいつもまっすぐで素直だ。だが7年も同じ言葉を繰り返されると何だか一種の挨拶のようになってしまって、それがララリアの本心からの言葉であるのか、身についてしまった定型文なのか、判断できないんだ。だから俺はいつも『ありがとう』程度の返事しかできない。


 ララリアは年齢が上がるにつれて、倒れる回数が増えた。何でも、癪気体がララリアの体内を流れる魔力を奪い尽くそうとする動きを始めているらしい。我がコスモ家も、アーケイン先生を始めとする王宮医師団の皆も、何とか癪気体の謎を解明しようと努めているけれど、なかなか思うようにいかないようだ。俺としては、せめていつ倒れるのかだけでも教えてほしい。あの日からずっと、俺はララリアへの魔力供給係となっている。魔力供給者として同世代の光属性の持ち主というのは正に理想形らしく、ララリアが倒れた日にはすぐさまガーベル家からの召集がかかる。今では割と高度な、多量とはいかないまでも一定量以上の魔力供給を行う意識操作もできるようになった。ただ、それでも俺にはララリアの病状を完治させる事はできない。癪気体を体外に出すにはもっと強い魔力を保持する人物でなければならないからだ。・・・その場しのぎでしかない魔力供給しか行えない自分が情けない。


 16歳になった俺達はもうすぐ王都魔法学園に入学する。学園は全寮制のためララリアは心配する家族から入学する事自体反対されていたが、本人の意思が思いのほか強く『私は絶対に、絶対に、行かなければならないんです!私の為にも!絶対ですわ!』と、誰の言葉にも耳を貸そうとしなかった。ああ、ただ唯一、ララリアの弟のリグドが『寂しいです』と呟いた時は嬉しそーな顔をしてリグドの頭をなでてたな・・。それでララリアがどうしても学園に行く事を諦めないもんだから、家族は折れ、代わりに条件を出したんだ。1つは俺。可能な限り、ララリアと行動を一緒にする事。もしもの事態、例えば倒れても、俺がいれば魔力供給もできるしまあ何とかなるだろう。2つ目はユノ。これまでずーっとララリアの身の回りのお世話を任されてきたユノが、学園の寮に付いていく事。これはユノもその気でいたようなので問題ナシだ。そして最後の3つ目は、王宮医師団の誰かが、学園の医務室に常勤する事・・って無理があるだろ・・・。王宮医師団を何だと思ってるんだ・・と呆れかけたけれど、天はララリアに味方した。ネビル・アーケイン先生がこの春から王宮医師団を辞し、王都魔法学園の保健医として保健室に常勤されるそうだ。何でも年齢的に王宮医師団は身に余るらしい。現役ではないものの、アーケイン先生が王都魔法学園にいらっしゃるという事でガーベル家の条件は全て満たされ、見事ララリアは学園生活をゲットした。


 7年前、あんなに興味も好意もなかったララリアが、今では1番深い関わりを持つ存在になっているとは、本当に不思議な感じだ。だが、今、ララリアに好意があるかと聞かれても、素直に『はい』とは言えない。流れる白銀の髪も、夕焼けのようなオレンジの瞳も、白い肌も全て綺麗だと思う。まっすぐで素直な言葉は眩しいと思う。しかしそれ以上に俺の脳裏を横切るのは、何度も目にした倒れていくララリアの姿だ。寿命は20歳だと言っても、あくまで推測であり、それが早まる可能性だってない訳ではない。・・・怖いんだ。俺達は婚約者であり、結婚だって視野に入れているはずだけれど、好意を持つ相手として最良であるはずだけれど、ララリアを好きだと思ってしまえば、その時点で早すぎる別れも覚悟しなければならない。今よりもっと、最期の別れが辛くなる。


 だから俺は、今くらいの関係が良い。魔力供給くらいでしか手も繋げないような関係。婚約者だけど、結婚だって視野に入れているはずだけど、恋人ですらないような関係。


 ララリアがいなくなるかもしれない明日に怯えて好意を抱く事からすら逃げるような、こんな俺でごめん、ララリア。


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