魔力供給
私がベッドの上で目を覚ました時、周りにはお母様とアーケイン先生、そしてユノといった侍女達と一緒に、ハロルド様もいました。
「私は・・倒れたんですの?」
「そのようですな。ハロルド君とお2人でお茶を楽しまれている最中に、突然意識を失われたと伺っておりますからな。ところでお嬢様、今、体に痛みを感じてはおりませんかな?」
アーケイン先生に尋ねられ、どこにも痛みを感じていない事を伝えると、ベッドを囲むみんながほっとした表情をしました。うーーん、お茶を飲もうとした所までは何となく覚えているんですけれど・・。意識が無いというのは恐ろしいですわね・・そこから先は何も思い出せませんもの・・。
現状目立った体内変化は起こっていないとの診断結果を頂きましたが、様子見として1日安静にしておく事をアーケイン先生と約束しました。その後ユノ以外の侍女とお母様は下がり、部屋にはアーケイン先生とハロルド様が残りました。
「ハロルド様、申し訳ございません。わざわざお越し下さいましたのに、このような姿をお見せする事になってしまって・・」
「いえ、気にしないで下さい。・・あの、アーケイン先生?」
「なんでしょうかな?」
「・・・僕の魔力を、ララリア様に分ける事はできませんか?理論上は可能であると両親は話していたんですけど、僕は試した事がないので、どうすれば良いのか分かりません」
「ほう・・ハロルド君の、もといコスモ家の魔力を・・。少量であれば今すぐにでも可能かと思いますな。試されますか?」
「はい。お願いします」
「お嬢様も、よろしいですかな?」
「え?!・・えっと、つまり、ハロルド様の魔力を頂くという事ですよね?・・だ、だめですわ!魔力はそんな簡単に他人に与えて良いものではないはずですわ!ハロルド様もご自身に必要な魔力量というものがあるでしょうし!私は今もこの通り元気ですもの!ご心配をおかけしたかもしれませんが、私は大丈夫ですわ!ですので、ハロルド様の魔力を頂くなど出来ません!」
好きでもない上に寿命宣告までされている相手と婚約し、週に1度も会いに行く事を約束させられ、更に魔力まで奪われるなんて、ハロルド様が可哀想すぎます!!!今は私に同情してそんな事を口走っているのかもしれませんが、きっと後悔されますわ!何であんな事を言ったのだろうと、そう思われるに決まっています!!
「ララリア様。どうか、僕の魔力を少しだけ、受け入れて下さい。僕は他の人に比べて体を巡る魔力が多いようなので、少しララリア様に分けるくらいであれば問題ありません。不安な点もあるかもしれませんが、コスモ家と、そしてアーケイン先生を信じてください」
揺れる青の瞳に見つめられてしまうと、何も言えなくなってしまいましたわ・・。うう、コスモ家の皆様とアーケイン先生の事はもちろん信じていますが、私が気にしているのはそこではありません。好きな人の魔力を奪って、ハロルド様の中に存在するはずだった力を、私のせいで削いでしまう事が嫌なんです。そしていつか、それを後悔されてしまう未来を考えると、ハロルド様の魔力を頂くなんて出来るはずがありません。私は、今、倒れようと意識を失おうと、ヒロインちゃんと仲良くなるまでの辛抱なんですから、本当に大丈夫ですのに・・。
「お嬢様、ハロルド君の魔力は、お嬢様にかかる負担を少しだけ軽いものにしてくれるはずですからな。少しだけ、試してはみませんかな?」
私がどんなに拒否しようとも、結局2人にそう言われてしまえば頷く他なく、ユノも賛成だったようで手早くお母様に魔力供給の同意を得ていました。
「それではまず、ハロルド君とお嬢様は向かい合い、お互いの手を繋ぎ合って頂きます。お嬢様の右手とハロルド君の左手、そしてお嬢様の左手とハロルド君の右手を繋いで頂けますかな?」
アーケイン先生の指示通りに両手を繋ぎ、所謂、恋人繋ぎの格好となりました。
「両手はそれでよろしいですな。次は、お2人の額をくっつけて頂けますかな?」
ひ、額をくっつける??!これは、願ってもいない密着度です・・。ハロルド様のかっこ良すぎる顔面が私の目の前にやってきますわ。
魔力供給に対して罪悪感を持ちつつも想像以上の密着度に驚き、心臓の高鳴りが止まらない私に対し、ハロルド様は至って普通でしたわ。冷静に、アーケイン先生の言葉を待っていらっしゃいます。・・・そうでした。これは私に同情したハロルド様が提案してくださった、いわばボランティアです。そこに恋愛感情などあるはずがなかったんですわ。
そうして心臓の高鳴りを沈めた私はハロルド様と額をくっつけました。アーケイン先生の指示がハロルド様のみへと移り、私はただ魔力が与えられるのを待ちました。
しばらくすると、両手と額、つまりハロルド様と触れている部分から、何か暖かい熱のようなものが流れ込んでくる感覚を認識しました。
「あの・・今・・これが・・・??」
「そうみたいです。僕が今ララリア様へ魔力を流しているので、その様子だとしっかり受け取って頂けているようですね」
「はい。何となくですが・・。分かりますわ」
「いやはや、ハロルド君はコツを掴むのが何とも早いですな。最初にしては上出来です。意識を止め、額と両手を離すことで、魔力供給は終了できますぞ」
そんなこんなで初めての魔力供給は終わりました。ハロルド様の魔力を受け取ってみると、少し体が軽くなったような、知らず知らずのうちに溜まっていた負荷がスッと消えていくような、そんな状態になりました。
それからハロルド様は文句も言わず週に1度、我が家を訪れて下さっています。そして私はそのたびに『お慕い申し上げています』、『かっこ良いですわ!』、『好きです!』と言ってミイナ様考案の作戦を実行しておりますわ。成果は・・・ええ、聞かないで下さい。しかし、少しずつですが仲良くなれたと思います。
そんな日々もあっという間に過ぎ、私とハロルド様は16歳になりました。そうです、いよいよ王都魔法学園での生活が始まりますわ!待っていてください、ヒロインちゃん!




