伝えましょう
私、気づいたんですけれど、夢で繰り返されたストーリーではハロルド様が私の元を週に1度という頻度で訪れるという内容は全く存在していませんでしたわ。16歳時点で婚約は続いているもののほぼ疎遠という状況だという描写がありましたもの。これは、私にとって地獄のような乙女ゲーム、『フラワーロマンス』の世界とは少し違う世界にいると考えて良いのでしょうか?ここは所謂パラレルワールドで、ララリアも普通に生きていける世界であると考えたいのですが・・・。まあ、癪気体には襲われましたし寿命も告げられましたし、婚約も事実続いているというストーリー通りに進んでいますので、これくらいの事は誤差程度なのかもしれませんわね・・。
誰に話せる訳でもないそんな事をうだうだと考えていました。今日、というよりもう間もなく、ハロルド様が我が家へやって来ます。私にとって、ミイナ様が考案された『両想いになればオールオッケー☆作戦』の決行日でもありますわ。意気込んだは良いものの、やはりそんな作戦でうまくいくものなどあるのかどうか・・非常に怪しいですわ。しかし、ミイナ様に信じて頂いているんですもの、ここでくじけては女がすたるってもんですわ!私の気持ちをしっかり受け取って頂きます!・・ただ、その前に、週に1度というスケジュールを作り出してしまった事を謝らなければいけません。ハロルド様にとってこれは思わしくない状況でしょうから・・。
「ララリア様、ハロルド様がいらっしゃいました」
ユノにそう言われ、私は気合いを入れ直し、ハロルド様の元へ向かいました。
「ハロルド様、お待ちしておりましたわ。本日はお越し下さってありがとうございます」
「いえ、こちらこそ出迎えて頂いてありがとうございます」
私達はその後、庭園の中に作られたアーチ状の屋根が特徴的な小さなお茶室へ入りました。壁はすべてガラス張りとなっているので周りのお花もよく見え、お気に入りの場所です。お茶やお菓子を用意してもらった後ユノ達には下がってもらい(私達の様子がわかる程度の場所には控えていますが)、お茶室の中には私とハロルド様の2人きりとなりました。
「ハロルド様、あの、私の余計な言葉のせいでこれからたくさんのお時間を割いて頂く事になってしまい・・本当にごめんなさい。ハロルド様は婚約に対しても良い印象を抱いていらっしゃらないというのに、そんなお気持ちがあるからこその私達の婚約継続でしたのに、こんな状況になってしまって、ますますハロルド様を追い詰めていますよね・・?私のせいですわ。本当にごめんなさい」
「ああ・・いえ・・そんな事は・・?」
「そんな事はありますわ。私がもう少し考えていればここまでにはなりませんでしたのに」
「確かに、週に1度というのは・・少し多いと感じますが」
「ええ、本当に・・(好きでもない相手の元を訪れるにしては)多いですよね。・・あの、ハロルド様。私、先日ハロルド様と久しぶりにお会い出来て、本当に嬉しかったんです。両親の前でも言った言葉ですが、これは建前でも何でもありませんわ。本当に、あの・・私、ハロルド様をお慕いしております。ご迷惑かもしれませんが、どうしてもお伝えしたかったんです!だって、かっこ良いんですもの!青の瞳も金の髪もとっても綺麗で、いつまでも見ていたいくらいですわ!今はまだハロルド様がどんな方か多くは知りません。けれど、先日包み隠さず話して下さった時、驚きましたがとても誠実な方だと思いましたわ。ハロルド様が私に良い印象を抱いていない事は知っています。ですが、これから、たくさんの時間を一緒に過ごさせて頂けるんですもの。私に対しても、婚約に対しても、良い面を見つけて頂けるように頑張りますわ!」
言えましたわ!!少しテンションが迷子になってしまった感じも否めませんが、言いたい事は伝えられました。・・少しハロルド様の方を見るのが怖いですね・・。どんな表情をされているんでしょうか、?
・・これは、どんな顔と言えば良いのでしょうか?呆気に取られているような、何かを考えているような、言いたい事があるような、少し苦しそうな・・?そんな、言葉に表すには難しい顔をされていました。そして、ハロルド様はその表情のまま、一言おっしゃったのです。
「僕は・・誠実ではありません」
どんな意味が込められているのか、私には分かりませんでしたわ。
「私がそう感じたんですからそれで良いのです。それに・・婚約破棄されて当然の私と、どんな理由であれ婚約を続けて下さっているんですから、これはコスモ家の皆様に言える事ですが、本当に誠実でお優しいですわ。あ、それから私、勉強不足で知らなかったのですが、ハロルド様のお家は医学において素晴らしい功績を収めていらっしゃると聞きました。・・私に何があろうとも、安心ですわ」
最後の一言を言い終えると、何だかとてもスッキリして、心が軽くなった気がしました。私、ワガママ令嬢でしたから勉強も碌にしていなかったんですよね・・反省ですわ。お父様からコスモ家について少し教えて頂いて、医学における本当にスゴイ一族である事が分かりました。アーケイン先生だけでなく、コスモ家の皆様にもお力を貸していただけるそうで、申し訳なさもある反面、とても心強いです。ヒロインちゃんと仲良くなるまでにはまだまだ時間がかかりそうですし・・。
ハロルド様はまだ難しい表情をされていましたが、私には何を考えていらっしゃるか分かりませんので気にしない事にしました。そして侍女の用意してくれたお茶を飲もうとした時、何故だか突然フワフワとした、体が浮くような感覚に陥り、それが気持ち良くてカップへ伸ばしていた手を止め思わず微笑むと、その瞬間、私の意識は途切れました。
突然椅子から崩れ落ちたララリアを支え、使用人に運ばれるまで何度も何度も『ララリア様!』と叫んだハロルドの声を、この時のララリアが聞く事は叶わなかった。




