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攻略対象の影薄い姉になったけど、モブってなにしたらいいの?  作者: スズキアカネ
続編

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98/303

私の劣等感は結構根深い。それをすべて見せてしまったら幻滅されるんじゃないだろうか。

 来月の6月頭にうちの高校では体育祭がある。

 なんで梅雨に開催するのか謎なんだけど去年も一昨年も晴天に恵まれていた。今年はどうだろうか。


 今年の参加競技は団体参加が三年女子のムカデ競争で、個人参加がパン食い競走である。売店で販売している幻の神戸牛使用コロッケパンが出てくることを私は祈っている。

 月に数回入荷するけど即完売のそのパン。

 私は一度も食べたことがないのだが、亮介先輩は一度食べた事があるらしくかなり美味しかったそうだ。

 金額もそれなりで他のパンの3倍以上するけど、私も一度は食べてみたい。


 そういえば去年の体育祭から先輩とよく喋るようになったんだよね…そう考えると感慨深いものがある。

 1000メートルリレーでは私、精魂尽き果ててダウンしたため先輩の勇姿を見ることが出来なかったのが今更ながらに惜しまれる。

 今年の体育祭には亮介先輩が大久保先輩と一緒に観に来るそうだ。

 二人が通っている大学には体育祭はないらしく、体育会系の二人は少々物足りない気分になっているようである。サークルだけじゃダメなのだろうか。

 一応有志での球技大会みたいなものはあるらしいけどなんか違う気がするとのこと。

 


 テスト返却後に体育祭モードに切り替わる校内。

 三年は今年最後の体育祭…ていうか文化祭とか球技大会も最後になるからきっと同じように燃えると思うんだけど、三年生は特に優勝に向けて燃えていた。

 赤ブロックになった私だが、今年はなんと弟の和真と同じブロックになった。ちなみに和真は小動物系女子の室戸さんと同じクラスになったので、室戸さんともまた同じブロックになる。


「あやめ先輩! 今年もよろしくおねがいします!」


 室戸さんが元気よくそう挨拶してきた。同じ競技には出ないのに。

 うん、かわいい。笑うとエクボが出来るんだよねこの子。


 室戸さんと帰りが一緒になったので去年の体育祭について話しながら駅まで一緒に帰宅していたのだが、隣を歩く室戸さんが「あれ? 橘先輩じゃないですか?」と声を上げた。

 それに反応した私は彼女の視線を追ったのだが、先輩の姿を見つけた瞬間、歩いていた足がピタリと立ち止まった。


 なぜなら亮介先輩はあの女の人…光安さんと一緒だったからだ。

 先輩は光安さんと密着していた。

 彼女のノースリーブのブラウスの腕から覗く白い腕が先輩の背中に回されており、抱き合っているように見えた。

 この人通りの多い駅前で何故二人は抱き合っているのだろうか。

 亮介先輩と私は今日これから会う約束をしていたはずだ。駅前の噴水前が待ち合わせ場所で、約束の時間まで30分位余裕がある。


 …なんで?

 なんで一緒にいるの?

 なんで抱き合っているの?


「あやめ先輩! 事故ですよ。ほら、あの女の人引き剥がされてるし!」

「………」


 室戸さんが私をフォローしてくれるけど、遠目から見たらあの二人は美男美女。沙織さんと先輩が並んだ時に感じた劣等感を思い出してしまった。

 私の胸の奥底から醜い嫉妬という感情が溢れてきて、感情的に先輩を問い詰めてしまいそうだ。

 私が彼女なのにって。他の女の人に触らせないでよって。


 室戸さんの言う通り、事故だったのかもしれない。

 浮気されたとは限らないのに。

 ただ不安で、私のコンプレックスが刺激されるだけ。

 私の中に芽生えた独占欲という利己的な感情が暴れだしそうなだけ。


「ほらあやめ先輩! 橘先輩がこっち来てますよ!」

 

 室戸さんがツンツンと私の腕を突付いてくる。

 だけど私は俯いていた。

 先輩を好きになればなるほど嫉妬深くなっていく自分が怖い。


 山ぴょんの元彼女である真優ちゃんの凶行を思い出した。

 去年の文化祭前に暴走して危害を加えようとしたあの子。

 あんな風に嫉妬に狂ってしまって先輩を詰って…愛想を尽かされたらどうしよう。


 それを考えていると、いつの間にか私は先輩を問い詰めたい気持ちを抑えていた。

 きっと事故に違いない。


 自分に言い聞かせて、私は先輩に向けて笑顔を作ってみせた。


「先輩早いですね!」

「あやめ…今のを見ていたか? あれは違うから。転倒を庇っただけで」

「分かってますよ〜見てたら分かりますって」


 そう返事すると亮介先輩はホッとした様子を見せた。

 困らせちゃいけない。

 だって山ぴょんが言ってたじゃん。嫉妬されるの最初は可愛かったけど、だんだん重く感じたって。

 つまらない嫉妬で嫌われたくない。

 だって先輩が好きなんだもの。


 先輩を信じなきゃ。



 そこで室戸さんと別れて、私は先輩と放課後デートに繰り出したのだけど……噴水前にまだ彼女はいた。


 光安さんがこっちを見てニヤリ、と赤い口紅を引いた唇を歪めて笑っていたのを見てしまった私の胸がざわりと騒いだのだった。




 


「テストの結果はどうだった?」

「……」

「あやめ?」

「…あ、すいません、ボーッとしてました」

「…熱でもあるのか?」


 先輩が話しかけてるのに、私は光安さんのことを考えていてぼんやりしていた。

 私のおでこに先輩の手が伸びてきたかと思えば、手を当てられて熱はないなと言われた。


「…体育祭の準備で少し疲れたみたいです」

「なら今日は早めに帰るとするか」

「えっ、嫌です! だって来週から体育祭の練習が忙しくなってまた会えなくなりますもん!」


 それだけは勘弁。亮介先輩欠乏症の私には毒にしかならぬ。

 私は慌てて鞄からガサゴソと成績表を取り出した。中間テストの話をしていたんだよね!


「全体的に点数が上がりました! 特に理数系は先輩のお陰ですね!」

「お前が頑張ったからだろう。よく頑張ったな」


 先輩にワッシャワッシャと犬撫でされた。

 これが眞田先生なら腕を叩き落とす所だが、先輩なら許す。むしろもっと撫でてくれてもいいのよ。


 この調子で期末も頑張らないとなと言われ、私は力強く頷く。

 期末テストが終われば夏休み。だけど私には勉強漬けの毎日が待ってる。


「そうそう今年の夏休み冬休みはゼミに通うんですよ」

「あぁ、俺も去年通っていたし、大体の進学希望生は通うからな」


 ゼミ申込早期割引キャンペーンがあったのでちょっと前にもう申し込んである。その時講義スケジュールを貰ったのだけどまぁ勉強漬けで…私はちょっと受験生というものを甘く見ていた。


「それで…忙しくなるんですけど…時間作って先輩に会いに行ってもいいですか?」

「…馬鹿。変な遠慮はするな。その時は俺が会いに行くから。…だけど受験勉強を優先しろよ」

「…勉強はちゃんとします。でも会いたいんですもん」


 学業が優先なのは頭では分かっているが、先輩と会わないというのは無理。少しの息抜きは必要だと思うんだ。

 そう呟くと唇を尖らせていじける私に先輩が笑う。


「…そうだな期末試験の結果も良かったら、お前が行きたがってた水族館に行くか」

「! 行きますっ」

「なら頑張れるな?」

「はいっ」


 厳しいことを言いつつもしっかり飴は与える先輩好き。私は俄然やる気になった。

 目をランランと輝かせる私に先輩は苦笑いしていたが、私にとってそれがどれだけやる気に繋がるご褒美なのか先輩は分かっていないのだろう。

 先輩と会えるだけで嬉しいのに、遠出デートがご褒美だなんて最高じゃないの!!

 先輩と一緒ならどこでも楽しいんだけどね!

 極端な話、今二人で並んで散歩している河原でも楽しいもん!

 河原は良いよ。心が洗われるようだ。

 ちょっと虫が多いけど。



 やる気がみなぎった私はガッツポースを取って先輩に宣言した。


「私、体育祭のパン食い競走では見事、幻の限定神戸牛コロッケパンを先輩の為に獲得してやりますからね!!」

「程々にでいいぞ。怪我される方がかなわん」




 先輩と一緒に過ごしていた私はすっかり嫉妬の感情や劣等感のことを忘れていた。

 ううん、忘れていたというよりも忘れたと思っていた。


 私の悪い癖だ。

 昔から悲しい感情や辛い感情を押し殺して、隠してしまう私のその癖が後々、亮介先輩との間で衝突する原因となるんだけど、今の私はそんなことになるなんて想像すらしてなかった。

 

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