自分がされて嫌なことはしない。だけど例外もある。
「いらっしゃいませ。ご注文をどうぞ」
「アヤちゃんお持ち帰りで!」
「うちではそのようなサービス取り扱っておりません。お帰りください」
夏休み。
私は週に5日くらいのペースでファーストフード店でアルバイトをしていた。最初はカミカミだった接客もここ最近じゃ板についてきたんじゃないかと思う。
アルバイトをしていると両親や友人がたまに買いに来てくれる。現に今も沢渡君が下ネタと捉えかねない注文をしてきたばかりだ。
「アヤちゃん今日は何時上がりー?」
「6時半」
「なら終わってから遊ぼうよ」
「8時門限だから無理」
「えー」
今はちょうど客がはけて暇だから相手してるが、客が来たら追い払ってるよ一応。沢渡君もその辺の分別はできてるのか、お客さんが来たら退いているし、いつも何か購入して帰っていく。
「じゃあ8月の花火大会もいけないのかーそっかー」
「沢渡君……一緒に行ってくれる彼女とか作りなよ」
「アヤちゃんがなってくれる?」
「あっはっは! あ、いらっしゃいませー」
沢渡君が寝言を言い出したので笑い飛ばし、入店してきたお客さんに挨拶をした。
「……ここでバイトしてたのか田端」
「風紀副委員長様」
「その呼び方いい加減なんとかならんか」
入店してきたのはなんと夏休みだというのに制服姿の風紀副委員長・橘亮介。彼は額から流れる汗をハンカチで拭いながらカウンターに近づいてくる。
「あー……このアイスコーヒーLひとつ、持ち帰りで」
「ご一緒にポテトはいかがでしょうかー?」
「いやいい」
「ミルクとシロップはお1つずつでよろしいでしょうかー?」
「それもいい」
「かしこまりました!」
私はマニュアル通りの接客をこなし、アイスコーヒーを提供した。それを受け取ろうとした風紀副……いい加減長いな。橘先輩はピタリと手を止め、私を見て口を開閉させた。
なにか言いたそうだったのでなんだ?と首をかしげると、彼は眉間にシワを寄せ、ポツリと呟く。
「一年の田端和真……お前の弟が最近素行の悪いやつらと付き合ってるの、知ってるか?」
「……あー、まぁ最近グレ始めたのかな? とは感じてましたが、誰とつるんでるかまでは知りません」
「そうか……良い噂を聞かないやつらだから、お前からも弟と話してやれ」
「あー……そうですね」
夏休みに入ると弟は夜遊びをするようになった。
両親は弟を嗜めているが、弟は遅くに来た反抗期なのか反発して言うことを聞かないようだ。むしろ反抗が激しくなっていく始末。まだ暴力には至らないが物には当たっているようで、態度が目に余ったため私からも注意したがシカトされること数回。
姉の威厳はどこへ。
アイスコーヒーを受け取って行った橘先輩を見送ると、傍で話を聞いていた沢渡君も眉を八の字にして私の弟に関する話をして来た。
「アヤちゃん、俺もそれ気になってたんだよね。B組の高木とか山根とかとつるんでんの知ってたからさ。良い噂聞かねーよあいつら。アヤちゃんの弟優等生タイプだったじゃん? どう知り合ったか知らないけど……」
「うーん……私自分の交友関係に口出しされんの嫌だったから弟のも口出さないようにしてたんだよね……」
そう、思ってはいたのだが第三者が心配するほど、弟の付き合ってるオトモダチは素行がよろしくないようで、私は自分の考えを改めるべきなのかと思った。
19時半。
大学生のバイトさんが遅れるとのことで1時間の残業を店長に頼まれた私は早歩きで帰宅していた。前もって親には連絡したが、約束は約束なので20時には家に着きたい。
夜になると繁華街近くのこの一帯は帰宅する人、夜の町に繰り出す人で一杯になる。人の波を忍者のごとく避けながら歩いていると、建物の細い路地裏から人の声が聞こえた。
ちょっと路地裏に行けば全く人通りのない道にいくこの界隈は不良の溜まり場となっている所がある。だから両親にも人ゴミがすごくても路地裏を通らずに大通りを通って帰るようにと口酸っぱく注意されている。
……だが、どうも女の子が口論している雰囲気だったので私は心配になりついついそちらに足を踏み入れてしまった。
「離して!」
「おーこわいこわい」
「女の子一人じゃ危ないから俺たちが保護してあげるんだよー?」
「いやっ! 誰か!!」
そこには不良に絡まれるヒロインちゃんがいた。
私はデジャブを感じたが、一先ず助けようと一歩進んだ。
「おい、やめろよ」
「あ? なんだテメェ」
「みっともねー真似すんな。だっせぇな」
「あ゛ぁ!?」
だが、私が声をかけるまでもなく別の人物が介入してきた。
「おいカズどうした」
「先輩、こいつらが」
「あ、あいつタカギじゃん!」
「やべっ逃げろ!」
そこにいたのは弟の和真とどこかで見た気がする男だ。タカギを恐れて不良たちは蜘蛛の子蹴散らすかの如く逃げていく。
二人はなにか話しているが、私は身を潜めているため内容までは聞こえない。
話し終えたのか和真はヒロインちゃんに声を掛けて、大通りまで誘導する仕草をしたので私は慌ててなるべく音を立てぬよう、大通りに引き返していった。
そのあと、どうなったかまでは知らない。だけどこれだけはわかった。和真がシナリオ通りヒロインちゃんを庇ったこと。そしてあの男が例の高木というオトモダチなのだろう。
結局私は門限に間に合わず親に注意されたのであった。
そして遅くに帰ってきた和真にやっぱりシカトされたのであった。
姉をなんだと思ってるんだこいつは。




