反抗期は誰にでもある。だけど何してもいい訳じゃない。
夏休みは半ばを過ぎ、夏の暑さは真っ盛り。
父方の祖父母の家は田舎の緑深い土地にあった。幼い頃は弟を引っ張り、暇な親族の集まりから抜けてきたものだ。
私は文化系であると言っているものの、子供の頃は野山を探索するのが嫌いじゃなかった。夏休みの自由研究に「セミが羽化するまで(セミの一生記録つき)」「カブトムシとクワガタの相撲試合記録」など、男の子のようなテーマで提出していた覚えがある。
だが高校2年、華のJKである私はそんなことしない。暑いし焼けるし。
お盆はこの祖父母宅に親族一同が集まる。
ここで私は小さな頃から弟と比べられてきた。特に顕著なのが無神経なおっさん連中……父の兄弟やいとこ達である。毎年の事だがこれが憂鬱で仮病を使って行きたくないと両親を困らせたこともあった。
だが、今年は違う。
派手な服、派手な髪、ギャルメイクばりばりの私の変化におっさん共は閉口し、私の一挙一動にビクビクしていた。
私は思わず悪役よろしくニタリと笑ってしまった。
親戚一同お盆に集まってなにするのかと言えば大したことはない。先祖の仏壇にお参りして、大人達が酒を飲みながら食事を楽しむだけ。子供にとっては退屈この上ない。
私はのんべんだらりする男達を軽蔑の眼差しで眺め、裏で食事や酒の手配をする女性陣の手伝いをするのであった。
ようやく準備を終え、女性陣も席について食事を始めた。ホント男共と来たら何様のつもりなのか。手伝えよ。
もくもく食事をしていてあちこちから視線を感じた。しかし大部分は私宛ではない。
……弟の変化にもみんな驚いたようで、私と違って態度まで激変していたためか心配になったらしい祖母が恐る恐る和真に話しかけていた。
「かずちゃん、高校はどう? お友だちはできた?」
祖母のその問いに和真は
「……別に」
ふて腐れたようなそんな反応を返した。
『別に』って返し、まるで友達ができてませんって言っているようなんだけど。一応いるよねオトモダチ。
しかしこれは拙い。態度が悪すぎる。
私が注意しようかと口を開くその前に母が弟をたしなめた。
「こら! 和真、なんなのその口の聞き方は!」
「いいのよ貴子さん」
「いえ、この子ったら最近反抗的で……本当にすみませんお義母さん」
ぺこぺこと親戚に頭を下げる母。
私は親にそこまでさせる弟に不愉快になった。何が不満なのかそれを言わずに親を困らせて、今のこいつは泣いて不満を訴える赤ん坊のようだ。
「ほら、和真! おばあちゃんに謝って」
「……うるっせーな! ババァ!」
「こら和真! お前お母さんになんてことを!」
それには父も黙っていなかった。
親戚の集まりは我が家の家庭内問題のお披露目の場となってしまった。
「うっぜぇ……うっぜぇんだよ! 毎日ヒマしてる主婦のババァに俺の何がわかるんだよ! 偉そうにしてんじゃねーぞ!」
「和真!」
「産んでくれなんて頼んでねーし! 俺だって生まれたくなかったよ!」
「っ……!」
和真の言葉のナイフに母の顔は泣きそうに歪んだ。そして父は言葉を失う。
親戚一同も目を丸くして固まっており、その場は静まり返る。
私は傍観していた。
乙女ゲームのシナリオだからって和真の非行を見て見ぬふりをして来た。
だけど、これはないわ。
弟は、母に対して言ってはいけないことを言ってしまった。
私はゆっくり立ち上がり、弟の生意気なアッシュカラーの頭上めがけて拳を振るった。
──ゴツン!!
「いっ!?」
「……あんた……言っていいことと悪いことの区別も付かないわけ?」
「なにするっ」
「ねぇ、答えてみなさいよ」
ガッシ!!と片手で和真の顔下半分を力強く掴む。和真はタコチューみたいな顔をしてポカンとしていた。こんなときじゃなければ笑えるのに今は全く面白くもなんともない。
私はそれに構わず弟を睨み付けた。
「世の中にはねぇ、満足な環境で育ててもらえない子がいるの。……生まれたのが自分の意志じゃなかったとしてもさぁ…大きな不自由何一つなく五体満足で生きていられるあんたは何が不満なの?」
「ふがっ」
「子供一人大人になるまでいくらかかると思う?」
「っ……」
「今のあんたがここまで成長したのも、今着てる服も、学校に通えてるのも……父さんと母さんが頑張ってくれてるお陰でしょ……?」
私を見る弟の瞳が怯えているように見えたが、弟の瞳に映る私は無表情だ。何が怖いのだろうか。
それに構わず私は説教を続けた。
「あんたってお金を稼いだことないでしょ? お金稼ぐって大変なのよ。ぜーんぜん家事もしたことない、子育てだってしたことない。親がいないとなにも出来ないガキが粋がってんじゃないよ……!」
「……」
「遅い反抗期にしても限度があるわ。あんま調子のってっと私がなにするかわかんねぇからな?」
思わずギリッと手の力が強まり、弟が顔を痛みに歪めたので力を抜く。
「……返事は?」
「わ、わかった……」
「ならみんなに謝りなさい。特に母さんとばあちゃんにはしっかり謝罪しな」
和真はビクビクしながら親戚一同、両親に頭を下げる。声が小さく弱々しいがまぁよしとする。
私はそれを見届けて一旦落ち着こうと深呼吸をすると、隣でしょげ返る弟に声をかけた。
「あんたの交友関係に口出ししたくないけどさ、悪いこと勧めてくるヤツは友達じゃないから。それにね、悪いこと=格好良い! って考えるのはただの中二病? だからね。大人になったら黒歴史になること間違いないから」
「ちゅうにびょう……」
私の言葉に和真はガーンとわかりやすくショックを受けているようであった。勢いをなくした弟の頭を無理矢理下げさせ、親戚一同に私も頭を下げる。
「すみませんでした。家庭内のゴタゴタに巻き込んでしまって」
両親と弟は口論したこともあり、しばらくぎくしゃくしていたが、仕方ないことだろうと私は可能な限り間に入ってやった。
あれからしばらくして、弟は夜遊びの回数が減ったらしい。行くときは行くそうだが、あんなにひどかった反抗も鳴りを潜めたので両親は苦言を言うものの男の子だからと大目に見ているそうだ。夜22時までには帰るように、悪さはしないようにと弟に言い聞かせているのを見かけた。
私は20時なのに。ひどい男女差別である。
それを訴えたら花火大会の日は私も同じく夜10時まで門限を伸ばしてくれると言質をもらった。なので8月末の花火大会に行けることとなったのでラッキーである。
……いや、まだ不満はあるけども。
私は姉だぞ。何故弟のが長いんだよ。




