魔法学園4
「落ち着けよ、踏み抜けただけだ、不可抗力。追いかけてこうなっただけだ。」
恋夜の目の前に向けられたのは、箒、その柄が向けられていた。
男は、箒を器用にくるくると回転させながら、手遊びをさせる。
だが、目線は恋夜から外さず、いつでも攻撃に移れるように体の動きを止めないようにしている。流れるような挙動、明らかに戦闘慣れをしている。自分と同じ側の人間だ。
この男只者ではない、恋夜の警戒心の全てが目の前のこの男に注がれている。
「あ、ちょっと退いて!」
その為、通常なら反応できるその声に、自分にかかるその影に反応できなかった。
頭上に柔らかい感触は次の瞬間、衝撃に変わり、恋夜を地面に抑えつけた
「凛清!」
箒の男は一瞬で箒を消し、恋夜の頭の上の女性を気遣う。
「大丈夫、大丈夫だから、ちょっと風に流されて焦っちゃって、それより。」
「恋夜、よかったな、女の尻に敷かれるなんて初めての経験じゃないか。」
「ヒナギク、何を!」
「わっ!」
恋夜が急に立ち上がったため、頭の上に座っていた凛清も顔から地面に落ち、スカートがめくりあがる。
恋夜は目の前の光景に思わず目を背け、見ていないと視線を覆い後退する。
「あ!ちょっと急に動くな!着地できない!」
今度はその声に反応し、手をどけ視線を上に向ける。すると眼前に、ありえない光景が、
「ちょっと、覗かないで!」
「な、別に俺は覗くつもりは!それになんでこんなところスカートで来てるんですか」
恋夜は空から落ちてくる女性にぶつからないように横に避けるが、振ってきている女性も同じ方向に避けたせいで、結果恋夜の頭にスカートがかぶさる。
「これはもう、狙ってやっているとしか思い得ないね。小太郎、弟君は発情期だそうだ。」
ヒナギクは携帯で冷静を装う恋夜を撮影しながら、小太郎に同意を求める。
「誰が!」
ヒナギクに抗議をしようとする恋夜の前に、続けてまるでヒーローのような全身装甲の人間が、足元の魔法陣にこぶしをつけ、ひび割れを作りながら、金属音をたたて着地する。
「今日はよく人が降ってくる日だこと、最後のにはぶつからなかったよ。やっぱり狙って」
「ぶつかってたら死んでるだろ!」
「あぁ、そうだ、何か忘れていると思ったら。」
「そうだ、ヒルベルト、お前は俺たちを呼び出して忘れていたな。凛清の貴重な時間を奪っておいて揚句、忘れていたな。」
抗議する燕尾服に白手袋、恋夜同様に年齢に不釣り合いな格好をした箒の男は荒ぶりながら、不良のようにガンを飛ばしながらヒルベルトに迫る。
「紹介しよう、イロハ君、恋夜君。」
「待て、その前に謝れや!あ!」
「流星、落ち着いて、私別に何とも思ってないから。はい、落ち着いて深呼吸」
「だめだ、俺は凛清の執事として、だな。」
「そうよ、せっかくの体育の授業をさぼってまで来いっていうし、用件も言わないまま、その挙句忘れているだなんて。」
「まぁまぁ、そう怒るな、悪かった。はい、これでいいだろ、それよりせっかく君たちを紹介しようとしていたのに、そんな態度では、印象が悪くなるだろう」
ヒルベルトの示した先にいるのは敵対心むき出しの恋夜と、状況についていけずどうしていいかわからないイロハ。
「まさか、」
「そう、その通り、流石に察しがいいな。彼女は君たちと同じ……」
その時だ、エレベーターの降下速度が急に上がり、先ほどの流星が落下した衝撃が真横から来たように大きく揺れる。
「なにごとだ!」
「が、学園長、申し訳ありません。これだけの人数を支えるのは、私の魔力では、それに先ほどのブルーゲイルの着地の衝撃で、魔方陣にひびが申し訳ありませんが、下方に魔力を集中させ緊急避難を行います。しっかりつかまってください」
その言葉に対し、皆が、しゃがみだす中、恋夜は突然魔法陣を走り出し、気づかれないように、手袋をはずし、力を使い障壁を破り、エレベーターから外に飛び出した。
「ちょっと!恋夜何を!」
「母さん、イロハがいない!」
小太郎の声に反応し、イロハのいた位置を確認すと、薄くなった魔法障壁に穴が開き、イロハがいなくなっている。偶然にも弱くなった場所に寄り掛かっていたイロハは、先ほどの揺れの衝撃で思わず、防衛本能で魔力が漏れてしまった。薄くなった障壁はそのイロハの魔力に反発をおこし割れてしまい。そのまま投げ出された。
恋夜が飛び出した方向に目をやると下の方でイロハが落下している。
「二人は、飛行魔法は?」
ヒナギクの表情から察した凛清は最終確認の質問をする
「使えるわけがないだろ!」
「流星!お願い!」
「分かっている!」
流星は再び箒を出現させ、恋夜の空けた穴に飛び出そうとする。
「流星!最優先は女性の方だ!」
ヒルベルトは今までのふざけた声とは違い、命令口調で流星に話しかける。
「両方に決まってんだろ!」
流星は箒を投げ、それに飛び乗ると、最速で二人の後を追う。
一方取り残されたヒナギクはヒルベルトの胸ぐらをつかみ、目を獣の目に変え、激高する。
「お前、どういうつもりだ。」
「冷静になってください、ご婦人。もし、イロハさんが命の危機とあれば、アステリアが力を解放しないとも限らない。そうなれば、アステリアの覚醒となりかねない。それに
ガーディアン契約を結んでいる以上イロハさんが死ねば。」
「そういう事言ってんじゃない。お前、簡単に人の息子を親の前で見捨てろと言ったんだ」
「そういうつもりはありません。ただきれいごとでは片づけられない事実が、」
ヒナギクは思いっきり、ヒルベルトの顔を殴ろうとするが、長身でありえない程イケメンの人間の姿になった小太郎が、ヒナギクを止める。
「お母ちゃん、ここで殴っても何にもならない。」
だが、その制止も聞かずにヒナギクはヒルベルトをふっとばす。
「何かになるかどうかじゃない、これは感情の問題だ」
「……ご満足かな、ご婦人。」
「満足なわけないだろ。でも、こんな事いつまでもしている暇はない。小太郎、力を貸しな。妖術の力を見せてやるよ。」
魔法陣を覆うように青白い灯があちらこちらに点灯する。
小太郎は再び狐の姿に変わると、全身装甲のブルーゲイル頭の上に乗ると叫び声を上げる。
「なんだい、今度のお気に入りはその子かい、まぁいい、行くよ!」