魔法学園5
一方、恋夜に追いついた流星は恋夜に話しかける
「おい、お前、防御魔法は!使えるならとりあえず、塔に向かってぶん投げる」
「そんなのできるわけないだろ!」
「まっさらな素人か、分かった。とりあえず、お前は後から迎えに来る。待ってろ」
流星は、より下で落下を続けるイロハを助けるために箒の柄を下に向け加速する。
が、思うようにコントロールできない。
流星が箒の後ろに目線をやると恋夜がしがみついている
「な、お前何を!」
「いいから急げ!」
「急げって!お前がしがみついてるから速度が出ないんだよ。それにバランスが!」
だが、ここで押し問答している暇はない。流星は持てる最高速で、イロハの救出に向かう。
地上が鮮明に見えてきている。あと数百メートル。
間に合うが、減速を考えると厳しいものがある。
「射程圏内!」
恋夜は箒をまるで鉄棒の棒のように使い回転し、体制を変え箒の下部にへばりつくと、思いっきり箒を蹴飛ばし、イロハへの距離を詰める。
その反動で、流星はバランスを崩し、大きく軌道をそらす。
「イロハさん!」
恋夜は一気に追いつくとイロハの手を掴む。
「恋夜さん!なんで来たんですか!」
「なんでって、そんなの、」
「このままじゃ二人とも、」
「大丈夫俺が守るから!」
恋夜はイロハを抱きしめ、自分が下側になる。恋夜にためらいはない。
イロハを守れるならそれでいい。
「そういう事じゃ……アステリアちゃん!力を貸して!」
地面が間近に迫りイロハは何かを口にする。
恋夜は死を覚悟し、イロハを強く抱きしめ、目を瞑り、地面にぶつかると思った瞬間、地面はまるでトランポリンのよう跳ね二人を弾き飛ばした。そして再び落下を始めた二人は、まるで鳥の羽が地面に落ちるようにゆっくりと地面に降りていく。
その不思議な感覚に死を覚悟した恋夜は目を開ける。
「恋夜さん、痛いです。もう大丈夫ですから、」
イロハの声に反応し、腕の力を緩める。
「あ、手は離さないでくださいね。離すと落ちてしまいますから、」
イロハの目はアステリアに支配されている時のように変化している。
だがそれは片目だけ、あの時のような禍々しさはない。
『地面にぶつかって死ぬと思ったか?物質の特性を変化させて、密度と結合力を調整した、あらゆる力は拡散し、伝達させる。大気圏外から落ちても死にはせん。もっとも、逃がしているだけだから無事では済まんがな、その衝撃は波となり、拡散、巨大化、そして、』
二人が着地すると、足元に広がる地面は水が波打つように地形が変化し、先に伝わった衝撃と合わさり、さらに大きな波にとなり、その力の及ぶ範囲の外の建物や木々へと伝わり、そこで衝撃となり木々をへし折り、建物にひびを入れた。
不思議な光景だ、まるで夢の中の世界のようだ。
物を壊しているが、この見た事もない景色を二人は素直に美しいと感じていた。
『今は星の重力を遮断し、お前たちの持つ重力、つまりは質量を失わさせた。どうだ
素粒子干渉、重力制御、魔素を媒介とせず、物理そのものに干渉する魔法。
お前らの認識の外の魔法だ。いいか、お前たちの科学というものも所詮は、』
「ありがとう。アステリア、助かった。」
アステリアの嫌味も通用しない、今、無事なのはアステリアのおかげだ。
自分ではイロハを助けられなかった。死を覚悟し、生き残った安堵感が恋夜の心を軽くし、緊張感を喪失させた。腰を抜かして座りながら、それは心から出た感謝の言葉だ。
『っ、なんだ礼を言われるとはな。』
「お前がいなければ俺は死んでいた。俺だけじゃない、イロハさんも。」
『ふん、イロハに死なれては困るだけだ。』
(それにしてもイロハめ、生きたいと言っておきながら、私を押さえつけるために生存本能さえも押さえつけるとは、こやつはどこか壊れている。とは言え、これは収穫だ。自分の為ではなく、誰かの為であればイロハは私を拒絶しない。それどころかここまでとは、)
「でもどうしたらいいでしょう、力を使うなと言われていて、いきなり使ってしまって」
『何、心配するな。この魔法はエレメントを介していない。つまりは人間如きには概念の外、感知はできない、はずだ。』
「はずって、でも、まぁ、そうなったらそうなった時、イロハさん。そうなったらここから逃げましょう。俺が絶対に守りますから。」
「恋夜さん。」
「おーい、のろけてるところ悪いが無事だってことでいいだよな?わっとと、何だこれ、うまくまっすぐ飛べないぞ、何だよこんなの使えるなら最初から言えよ。」
流星が怒りの表情で恋夜に近づき尋ねる。
「はい、おかげさまで無事です。すみませんでした。さっきは頭に血が上って。」
流星が不安定な地面に立つと、恋夜は立ち上がり、まっすぐな目で流星の前に立つ。
「?なんだよ」
「けじめです。殴るなり、蹴るなりお好きなように。」
「……なんだよ。調子狂うな。別にそんなことはしねぇよ。それに、その何だ。元々の原因は、その、俺らにあるわけだし、何より、守りたかったんだろ?だったらいいさ」
「恋夜!イロハちゃん無事かい!」
上空から鬼の顔をした火の車輪を付けた牛車のようなものの屋根の上に乗ってゆっくりとヒナギクたちが降りてくる。恋夜では見慣れたものだが、イロハも、流星もその異様な光景に言葉を失う。それに牛車の上に乗った凛清も顔がこわばり動けない。
「はい、ご苦労さん」
地面に降りるとヒナギクは、車輪の鬼の頭をポンとたたく。鬼はおおよそ笑っているとは思えない笑顔と地獄の底から聞こえてくるような笑い声と共に煙となって消えていった。
「……一応は、何とか。」
イロハは変化した片目を髪を触る素振りで、できる限り自然に隠し、笑顔を出応える。
二人の無事を確認し、知り合ったばかりなのに、喜ぶ子供たちを前にヒルベルトは目の前に広がった光景に言葉を失う。何なのだこの力は、今までの研究が否定されたようなもの、魔力は科学であり制御できる、法則がありそれに則り、結果を示す。
ヒルベルトが学園長を務めるこの学校は学園都市の中でも魔力の制式化に優れた学園。
魔力を解明し、一般化し、誰でも使えるようにする。
だが、今のアステリアの魔法は魔力の変化もなく、魔方陣もなく、物質の特性や自然法則に影響をした。重力を支配するなどというものはありえない。それは神の領域。
人知をはるかに超えたものだ。ヒルベルトはこの現実を受け入れることができない。
『いい顔をしておるな、じじい。いまさら恐ろしくなったか、この私が、』
頭に響くアステリアの声、ヒルベルトの視線の先のアステリアは笑いかける。
『なんだ、自分のおよび知らぬことが起きたくらいで、その慌て様。まったくもって傲慢だな。お前は全能ではない。あぁ、これかテレパシーと言えば通じるのかな。私の生きた世界では空気を振動させ音で意志を伝えるなどというあいまいで不完全な意志の伝達は行わない。こうしてお前の脳を通じ、お前の言語体系で、お前に分かるレベルで、わが意志を享受してやっているのだ。心配するな、お前の思考を読みとれるほど、自由の身ではない。この中でどうやらお前だけは私の魔力の偉大さに気づいたようだな。
これがアステリア様の実力よ。恐れ敬え、そして道化を演じろ、そうすれば私が支配する世界でお前は生かしてやろうペットとしてな。』
「ん?アステリアちゃん、どうかしたの?」
『別に何でもない。』
「アステリア、ところでなんだが、イロハさんの目、このままなのか?」
『何だ気になるのか?心配するな。一時的なものだ。私との融合は進んではいない。
コツを掴めばお前でなんとかなる物だが、まぁ、時間が経てば元に戻る。』
恋夜はほっとしたのが、笑顔を見せる。
「ね、恋夜さん、アステリアちゃん悪い子じゃないでしょ」
「……感謝はしている。でも、イロハさんの身に狙い続けるなら、俺は絶対に許さない。」
「それでいい。お前はそれでいい、決して揺らぐな、決して心を許すな。それでこその私に初めて恐怖を与えた人間だ。」
「それにして、あなたたち変わっているわね。着物のお姉さんに、ぬいぐるみみたいなしゃべる狐。それに変な魔法ね。」
ショートカットの女性が、ブルーゲイルと一緒に小太郎のお腹をモフモフしながら語り掛ける。小太郎はあられもない嬌声を上げて喜んでいる。
「私、薬袋葵、この学校の生徒会長をやっているわ。で、こっちがブルーゲイル。あぁ、正体は聞かないでね。秘密だから、私のガーディアンで、全身装甲の宝剣の持ち主よ。
あまりおしゃべりは得意じゃないから用事があるときは私に行ってね」
ブルーメタリックの全身装甲、隙間から緑の光が漏れる異様な格好だが、コスプレとは比較にならないクオリティ、恋夜は素直にかっこいいと思ってしまう。
「彼は、最高のガーディアン、寡黙で冷静だが、熱い心を持った男の中の男だ。
そもそも宝剣を長時間維持している時点で、ガーディアンの魔力をはるかに超えている」
「男?」
ブルーゲイルの仮面を見つめる小太郎だが、モフモフを再開され再び嬌声を上げで大喜びをし、体をくねらせ、尻尾がちぎれんばかりに振り続ける。
「なんだかいい人みたいだね。」
全身甲冑が狐に夢中、異様な光景だ。が、まぁ、悪い人ではなさそうだ。
「そうですね。」
「それでそっちの彼が銀流星君。怒りっぽいし、すごく好戦的だけど趣味は料理に掃除、」
「あと喧嘩もだ。」
「これでも世界に名だたる春野宮家につかえる正式な執事よ」
「執事ってことは、」
イロハの目線が凛清に注がれる。
「そんな、私そんなんじゃないから、」
「彼女は佐伯凛清。日本が誇る陰陽師、四季家の頭目。春野宮家の本家の正式な後継者。まぁ、家庭の事情で色々あって、最近まではどこにでもいる今でもいる普通の家庭環境だったんだけどね。だからいまだに苗字もそのまま」
「そんな苗字を変える方がどうかしてるよ。私は佐伯凛清。お父さんとお母さんがつけてくれた大切な名前。この名前とこのカメラがあれば私は私で、それ以外の誰でもない。
たとえこんな風に魔女になったとしてもね。」
「魔女?それじゃ、」
「そう、葵君、凛清君が私の学園の中で君と同じ賢者の石の所有者。」
「もちろん、あなたと同じで極秘事項ではありますが、お互いに知っておくべきでしょう」
「まぁ、俺たちが呼ばれている時点でそういう事だろうとは思ったが、ちなみに凛清はバレていないけど、会長が魔女だという事は知ってる人は知っている。」
「なに!そうなのか?葵君、あれほど内密にと、」
「無理よ、私のカリスマ性を隠しきれるものじゃないからね。」
「あなったって人は、」
「何よ、自分に降りかかる火の粉くらい自分で振り払うわ。学園長用件は以上かしら、もしそうだとすれば、」
葵はヒルベルトに近づいていく。
「わざわざそんなことで上層階まで呼ばないでください。普通のエレベーターであそこまで行くのにどれだけかかると思っているんですか、」
「正論だな。あんなところに呼び出す方が何かあったと思われる。」
「そうよ。それこそ、学園長と一緒にここにいる時点で、どうかと思われるわ。
しかし事情は了解しました。イロハさんと、恋夜君はこちらで対応します。
そうね、まずは制服と、寮の部屋ね。とりあえず、イロハさんは凛清さんと同室でいいとして、問題は恋夜君ね。」
「俺と同じでいいだろ、そっちの方が、都合がいい。」
「あなたと同室って、その意味分かって言ってるの?」
「何の問題がある?」
「自分はご迷惑でなければどこでも、水回りさえお借りできれば、この公園でも、問題ありません。」
「ここは学校の敷地内です。ここで野宿をされる方が、学園長の名声に傷がつきます迷惑です。というか、そのスーツで野宿って、」
「いいわ、とりあえず流星君と同室で、耐えられなくなったら、別の部屋を用意するから、」
「あの、私たちの部屋は?」
「私たちって、ペット付?」
「ヒナギクさんたちの部屋ならちょうどあちらに」
菅野が指さした先に見えるのは、木造の小さな建造物。
金網で覆われたそれはとてもじゃないが人の住めるようなものには見えない。
「学校で飼育しています飼育小屋です。ちょうど狐が一匹だけとなってしまいましたので」
菅野は何の疑問があるのかと当然のように言い放つ。
「ちゃんと、予防接種は受けてください、学園の小学生たちに万が一があっては大変です。」
「この年増の小娘が、人を馬鹿にするのも大概にしろよ!」
「ですが、」
「母ちゃんすげぇよ!ここ、くるくる回るのとか、トンネルとか!すげぇよ。わははは」
小太郎は小屋の中につくられたギミックを満喫する
「小太郎!」
「ご子息は大喜びですね。それにここなら三食、生タイプドッグフードも補償いたします。」
「マジで!すげぇ!鼠は!」
「ね、鼠ですか、それは今後要相談という事で」
「ふ、ふざけるな、この私にあんな小屋の中に、」
「母ちゃん!この兄さん、アメリカから来たんだって、」
小太郎の声に反応すると、小屋の中から鋭い目つきの雄の狐が、
「化けられないし、人の言葉話せないけど、イケメンだよ。」
「……ま、まぁ、いいだろう。とりあえずは、我慢してやる。そ、それじゃ、先住の方に挨拶をしないといけないので、」
ヒナギクは狐の姿になると尻尾を振りながら小屋へ向かっていく。
「狐って、喜んだら尻尾を振るんですか。」
「所詮はイヌ科ですから、」
「で、でも、尻尾が九個もあると怖いですね。小太郎君黄色いのに、ヒナギクさん全身真っ白なんだ。……ひょっとして恋夜さんも、狐とか」
「なんでそうなるんですか。」
「色々変なことが起きて、全部が嘘みたいで。それこそ、あの日からずっと狐に化かされているんじゃないかって」
「全部が嘘ですべてが今まだ通り、そうなれるように、なればいいですね。」
恋夜は他意のない善意から出た言葉だったが、イロハは恋夜が傷ついたと思い、即座にフォローを入れる。
「あぁ、別にそうじゃないんですよ。今までが、良かったって事もないんです。それにこうして普通じゃないものも見れた。普通じゃないことも経験できたし、恋夜さんにだって出会えた。それに、お父さん私の為にあんなに怒ってくれた。
あの恋夜さんずっと言おうと思っていたんですけど、私、驚いたりしましたけど、別に恋夜さんのせいでこうなってしまった。なんて思ってないですから、だから負い目になんて感じないでください。」
「負い目になんて俺は、」
「本当にそうですか?だったらどうして私のためにここまでしてくれるんですか?」
「それは、」
「それは?」
「……自分の信念の為、正義の為、俺は賢者の石が許せない。人の意志を蝕み、皆を不幸にして。まるで神様みたいに、俺はそれが許せないだけです。」
「……そうですか、」
イロハは少しだけ思いがけない恋夜の言葉を飲み込み、目の前の女性が狐になった事で言葉を失い驚いている葵達について、この場を離れていく。
「嘘が下手だな、君は、」
残された恋夜にヒルベルトがそっと話しかける。
「嘘じゃないですよ。本当の事です。これは僥倖です。ここは魔法の集積所、今までのような手間はいらない、ここからすべてを奪い尽くす。ここなら俺は記憶を奪う罪悪感に狩られる必要もない。」
「恋夜君?」
恋夜は手袋を外す。
「俺は人から記憶を奪わなければ生きてはいけない。人の記憶で延命できる時間なんて限られている。それに昔よりも記憶を失う速度が速くなっている、力が強くなるほどに多くの記憶を必要としている。だけど、俺はイロハさんとの記憶を失いたくない、今までの記憶もそしてこれからつくられる記憶も、賢者の石に宿る意志は通常の人間とは比較にならない記憶を持っている。そしてその記憶の断片の中にあったんですよ。
星の意志、アトランティスにあるという星の記憶回廊、あるんでしょここに手がかりが、」
「!君はどこでそれを!」
恋夜はヒルベルトの頭に手を置く。
「魔法の世界では俺はこう呼ばれているそうですね。葬儀屋と、いい名だ。的を得ている。」
「おま、」
「心配しないでください、ただこの時を忘れてもらうだけですから。今はまだ奪いはしませんよ。あなたの記憶の全てをね。」




