戦闘2
猶予はあまりなく、状況は悪化している。
確実に、堅牢なるつぼみは天を仰ぎ見る様に開花しつつあった。
『ちょっと、アステリアちゃん!』
「なんだ、今いい所なんだ、邪魔をするな!本来には遠く及ばないまでもこの体になじみ始めている。今まで鍛えさせたかいがあるというもの私の魔力に耐えているぞ!」
『ちょっと、私の体を何だと、』
「私の為の体だ、器は大人しくしていろ!」
『んもう、たぶんそうなると思ってたけどやっぱりですか、とりあえずあれ、』
「ん、ったくこらえ性のないガキが、」
アステリアは、一方的な暴力を中断し、イロハの気づきの先にある丘の上に急接近する。
「こらえ性のないガキだな、」
そこには天にも昇らんとする光の柱が聳え立っている。原因はあれだ。
「時間だ。終わらせる。」
「から揚げさん!待ってください!まだ恋夜君たちが中にいるんです!」
「関係ない、この魔力上昇、敵はバベルの塔の中の魔法使いどもを掌握している。こちらの想定以上の速度で魔力の確保ができている、陣の再生速度も速すぎる、既に妨害工作は無意味、危険水域だ!まとめて断ち切るのみ」
巨大な光の柱をから揚げが振り落とすと、アステリアは同じく小さな光でから揚げの光を受け止め、今までにない大声で気合を入れ、はじき飛ばす
「でしゃばるな!イロハ!この馬鹿に言葉が通じるものか!」
「お前、俺と同じ力を、」
「空間魔法がお前だけの特権だと思うなよ。お前は所詮、私の領域に足を踏み入れたにすぎん。異空間を圧縮しこちらに呼び出し、空間自体を上書きするその発想は褒めてやる。だが、所詮は魔道の入り口にすぎん。密度も、規模も格が違う!」
無数の光の槍が天空から降り注ぐ。
「力のもどりつつあるこの私にはこのように簡単だ。人間など、所詮は、ははは!」
『ちょっと、アステリアちゃん。から揚げんさんは』
「奴が消してきた人間同様、消し飛ばされただけだ、高密度の空間に、押しつぶされて地形も変わる。当然いかに強かろうが、この次元の生命体が堪えられは、、」
「善なく、悪なく、ただ求め、願いて、欲して、流れゆく。
ここは戦場修羅の道、尊き命も、刹那の華
情も憎も混ざり合い、武への敬意が刃となる。
まだ見ぬ阿修羅に思いをはせ、名もなき羅漢と拳重ね、今際の際を渡り行く。
絶望などは置いていけ、恐怖などは捨てておけ、強い意志と揺るがぬ信念、
それだけ背負いて、悪鬼羅刹と舞い狂え。」
視界を奪う閃光の中から鋭く重く、鈍い殺意がアステリアに向けられる。
それは長いアステリアの生の中で経験したことのないほどの恐怖そのもの
ただ、平然とから揚げは平然と閃光の中に立ち、その一払いで、黒い光がアステリアの槍の悉くをへし折り、アステリアの横を通り抜け、光の凶源を消し飛ばした。何が起こったのか、アステリアは理解していた、だがおおよそ納得などできない。
今目の前にいるこの男は、人間が認識できるはずのない魔素を使った、いや自分と同じように、支配しているいや、違う。魔素が彼に協力している。認識し、理解し、使いこなす。信じられるはずがない。選ばれたのだ、魔素にかつての自分がそうだったように、
ありえない。否定の言葉だけがアステリアの心を支配する。
「あんたは強引に押さえつけているようだが、本来はこうするものだろう。ずっと感じてはいたんだ。この力を、この存在を、言葉にし、目の当たりにしてくれたおかげで俺にも認識できた。」
「たったそれだけでこの境地に達したとでもいうのか!」
「たったそれだけでじゃない。それが最後の一欠けらだ。この領域までの」
完全に力を使いこなしている。魔素が自ら意志を持つかのように、
「一つ聞く、魔道の王よ、我ら人間がお前に作られたとしたら、俺は何だ?」
「わしはここまで愚かしいものを作った記憶などない。特にお前のようなものなど、」
「創造神の創造を超えるなどと大それた事をこの俺が?」
「誰がそのようなことを語った出来損ないが、」
「その出来損ないに苦戦しているのは誰だ、いや、神を語る愚者なれば、それも道理」
「苦戦などしていない!」
アステリアが次の光を放つと、今度は一方的にから揚げが消し飛ばす。
「問題は力の密度だな。理解した物理に至極近い。」
空間魔法を身に纏っている、光を飲み込むブラックホールのように意志を持つかのような黒い球が彼の周りをまわり彼の意思とは関係なくアステリアの攻撃を飲み込んでいる。
「お前は何がしたい。この世界がそれほど欲しいか、こんな先の世界にまで、支配し、崇められ、恐れられてこそ、神か。
他者に自己の存在を証明してもらうなどと、依存しているな。
かつてある女性が語った。人にとっての幸福とは何だ?
行き着く先など、本能的なものだ。生への執着、安全、事故の保存
分け合う事で認識できる幸福。今傍にいる相手を尊重し、共に生きていく。
そう願った女性は一方的なゲームに巻き込まれ死んだ。不条理な戦争というゲームだ。
土地の線引き、思想の押し付け合い。そんなもので死んだ。
彼女が願ったその幸福を俺はどう思ったと思う?くだらない。
ただひたすらにわが信念を貫くのみだ。ここより高みに」
「強者とは常に孤独にして孤高、おおよそ常識の価値観の理解外だ。
だが、俺はお前や、彼女の命を奪った権力者のように、
人の痛みがわからない人間ではない、命の価値を知らない人間ではない!
世界を変える、世界で平和を築く!その為にお前のような存在を認めるわけにはいかん!」
「この世界はそれほどまでに守るもの価値のあるものか!」
「守るべきものがあるのなら世界の全てを救ってみせる!
これは人とお前たちとの種をかけた生存戦争だ!
俺は世界を救うと俺が守るべきはまだ見ぬ無垢なる命。不条の世界に杭を打つ!
お前も、あの花もまとめて消し去る、魔道などと人には過ぎたる力だ!
魔法も、奇跡も、俺たち人間に入らない!」
「ならばいい!孤独な砂城の王よ!全力で相手をしてくれる!!」
アステリアも、同じ密度に圧縮された異次元を刃にし、漆黒の細剣でから揚げに対峙する。
圧倒的な魔力同士の激突は、刃がぶつかるたびに人の意識を奪うほどの魔力のがこの島を駆け抜けていく。
そして、この圧倒的な魔力の衝突は、苦戦するえび天の所にまで届いていた。
「ったく、流石は兄者、この期に及んでまだ強くなるのかよ。」
「えび天さん!」
「嬢ちゃんなんで戻ってきた。恥かかせんなよ。兄者があぁなった以上ここも無事では、」
言葉の途中で痛烈な蹴りが、えび天の体を貫く
「会長止めてください!!」
「そうだぜ、やめとけよ、俺に勝ったところで、そのままじゃ、お前死ぬぜ。」
「だから何?」
葵の暴力は何のためらいも罪悪感もなく、えび天の骨で音を奏でる。
「大した、意志の強さだ。まさか俺がここまでやられるとはな、快楽の全てを否定するか。
命を賭した贖罪か、馬鹿げてやがる」
「あんたなんかに分かるわけないでしょ。」
「そうだな、でもな、あんたがやっているのが、馬鹿だって事はあんた以上に分かっているつもりだ。いいか、あんたが守ろうとしているあいつは!」
えび天の言葉が騒乱の町に響き渡る。それは彼女の世界を、命を、心を壊す言葉




