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凶襲1

ゲームセンターより1時間、午後2時

遅めのお昼を取ろうと女性陣にお店の選定を任せたのが運のつき、主導権を持つ葵がブレブレで、すでに、この繁華街を2周ほど回ってしまっている。

その道中、タダ飯が食べたいヒナギクと小太郎と偶然出会い、8人の大所帯。

科目に黙っていた流星も、いい加減飽きはじめ、恋夜に話しかける。

「どうした、さっきから侑季ばかり見つめて、子守役を取られて寂しいのか?」

侑季はよほど小太郎がお気に入りなのか、ずっと離さず、流石の小太郎もぐったり気味だ。

「子守って、」

「大変だっただろ、葵先輩じゃないと、まともに会話すら成り立たない。

まぁ、いつもの様にパニックを起こさなかっただけでもお前の子守スキルは評価に値する。」

「……そんなことありませんよ。いたって普通。流星さんよりも普通です。」

「お前、まさかまともに会話が成立したのか。」

「別に普通ですよ。流星さん、よほど嫌われているじゃないんですか」

侑季の最後の言葉が引っ掛かるが、それも見方によっては別におかしなことではない。

冗談で言っただけ、変な風に考えるべきではない。

「それより、どうしたんですかその顔、凛清さんに引っかかれたにしては大げさですけど。」

「なに、かすり傷だ。」

「かすり傷ですか、で、ついでに聞きますが、そういう破れた服は嫌いじゃなかったんですか?わざわざ自分で加工して、血のりの後までつけて。」

「……うるさいよ。」

流星の格好の服は破れ、拭いてはいるが、顔には血の跡、体にも打撃の跡がある。

喧嘩にしては、あまりにも激しい戦いの後だ。本来なら病院に行くべきだ。

「そう弄ってあげるな、恋夜君、これでも頑張ったんだから。凛清にかすり傷でもつけてみろ、その無価値な命を無に帰すぞ。だって、恥ずかしげもなく、完全にスイッチ入って、」

「流星さん。かっこよかったです!」

イロハが目を爛々と輝かせ、尊敬のような眼で見つめる。

凛清は何も聞こえないように、こっちを見ようともしない。

流星も誰もいない方を見つめ、本当に顔を赤くする。

「顔赤くなってますよ。可愛いところあるんですね。」

イロハの言葉に、さらに顔を赤くする。

「で、実際の所、何があったんですか?これ、病院に行かないといけない事案じゃないですか?下手したら骨とか折れてるでしょ」

「実はね、って本人睨んでいるからやめておくよ。

今日の夜にでもピロートークで聞いてみればいいよ。」

「さいですか、っと、」

突っ込む気すらうせる葵のボケをスルーしたところで、恋夜達は突如目の前に現れた不審者に足を止める。

不審、という言葉がここまで似合ういでたちはそうはいない。

全身を覆う黒い布。布自体は綺麗なのに、裾は破れているように加工されている。顔が見えずにコスプレの領域だ。恋夜は立ち止まる女性陣の一歩前に立つと、彼女らに下がるように手で指示する。

「いい目をしている。戦士の目だ。お前か、こいつをやったのは」

恋夜の前にマントの男はボロボロになり気絶した大男を投げ捨てた。

この感じ、事態を察した恋夜は無言で流星を見る。

「言っておくが、そこまでボコボコにしてねぇぞ。頭のたんこぶは知らん。」

そこはたしたところじゃないだろ、

「ほう、お前か、羅刹漢剛龍刃毘沙門天を倒したのは、」

「らせつ?は?何の話だ?俺はそいつが凛清のカメラを壊そうとして、」

なげ捨てられたのはタバコのポイ捨てをし、凛清が注意した男。

注意された男が逆切れをし、凛清を馬鹿にするように凛清の前でもう一度タバコを捨てた。

普通の凛清であれば注意の仕方も心得ていたであろう。

だが、この時は機嫌がマックスに悪く、感情のままに手を出した、というより足を出し、男の体の中心線にそって下から上へ。急所を蹴りあげた。

その後に発展したもめ事で関係のない、その男を仲間だと思って髪を凛清が引っ張ったのが、運のつき、凛清の形見のカメラが壊されそうになり今回の事態に至っている。

「どちらが悪いかが問題ではない、四天王の牙城の一角を壊したことが問題なのだ。」

「だが、調子に乗るな。奴は四天王では最弱」

「我ら四天王の面汚しよ。」

「聞けよ、人の話を、だいたい何なんだよあんたらは、」

「四天王って言ってますから、残りの3人じゃないんですか?」

「だから何なんだよ四天王って、」

イロハの回答に流星は満足できるわけがない。

「いかにも、我らこそ、この穢れた街に秩序をもたらす、四方の守護者たる四神、または守護天使、あるいは、裁きの冥府神、四天王!イカ天!」

マントの下から現れたのは黒を基調としたパンクとゴスロリを融合させた廃退感の漂う格好をし、ぬいぐるみを含め過剰なアクセサリー。一目でわかる関わってはダメだと。

「過剰の装飾品、過剰な肩書イライラする。」

「そして俺がえび天!」

肩に棘をつけ、ぼろきれの下にマントをしている見るからに時代錯誤、いや世界戦錯誤。

「いらいらする、イカ天に、えび天ってなんだよ。四天王の最初が毘沙門天なら、のこりは多聞天とか持国天とか、」

「多聞天は毘沙門天の別名だよ。イライラ少年。」

ヒナギクが冷静に突っ込む。

「あぁ、ごめん、邪魔するつもりはなかった、どうぞあと二人、続けて、突っ込んで、」

「……」

ヒナギクどころか、変態、もとい敵さえも、流星の回答をおとなしく待ち注目が注がれている。流星は思考を巡らせるが答えなどどるわけがない。知らないものは思い出せない

「ヒナギク、流星さん。困ってるだろ、助け船」

仕方がないと、ヒナギクはわざとらしく大きくため息をつくと偉そうに口を開いた

「いいか、この国では黎明の時代より四天王は決まっている。

いいか、お前たち、四天王の名を語るなど笑止千万!

四天王の名を関していいのは戦いの道の果て、武の極みに座する彼らのみ!

四天王はバイ○ン、バ○ログ、タイガーことサガ○ト、そしてベ、がっ」

予想に反する回答に恋夜は思わず突っ込みを脳天にいれる

「何をする恋夜!」

「空気を読め!冗談を言っている場合か」

ヒナギクと恋夜が言い争いをしはじめ。余計に流星のいらいらが募る中、

最後の男が黒布を投げ捨て、無意味にポーズを決め大仰に名乗りを上げる

「そしてこの俺様がから揚げ!我らこそ最強四天王!つまりは史上最強!」

言葉に合わせ残り二人も寄り添うようにポーズ決める。

「せめて天ぐらいつけろや!から揚げって何だ!」

「食べたい」

イライラモードの流星が限界突破する。

「よーし、いいだろう、てめぇらまとめて血祭りにあげてやる!」

「ちょっと落ち着いてください!頭の怪我から再出血してますよ!どんだけ血の気が多いんですか!」

慌てふためく、恋夜とイロハだが、それを無視し、流星が拳を構える。

「代わりの四天王にスカウトしに来ただけで戦うつもりはなかったんだがな、致し方ない。」

相手の三人はどこから取り出したのか、

漢字の呪詛のようなものが書かれた布が中途半端に巻かれた刀、ドラゴンが過剰に装飾された昔の寂れたお土産コーナーのキーホルダーのような大剣。

そして一番偉そうにしている男は傘を剣のように構える。。

その瞬間、流星と恋夜の顔つきが変わる、敵が武器を手にした瞬間感じ取ったのだ。

こいつらふざけているが、只者ではない。

緊迫する空気が漂う中、凛清は無言で写真を撮る。

「?」

「知っていますか?この街でも武器を使うと犯罪ですよ。

こんな場所です、多少の揉め事は起こります。でもここに暮らしている人は普通の人じゃない、小さな事でも人が死んだり、物が壊れたりします。写真に撮った景色が、人が過去に物になっていく。だからこそ確かな法が必要なんです。もし、その武器をふるうというなら、すぐにこの写真をメールで治安局に送信させていただきますよ。」

「ふふふ、私たちが治安局などを恐れるとでも?」

「俺のこれも、処罰の対象か?」

「傘、は、ちょっと無理かも、」

「不正解、」

から揚げと名乗る男が傘を広げると半径60センチの傘布から光が発生し、それを軽く一回転させると、地面はえぐれ、建造物が破壊され、その光が凛清を襲うかと思った刹那、光は短くなり、剣のように鋭くなると凛清の前髪をかすめ、数本を落とす。

「幅も自由で伸縮自在、空気抵抗も皆無。20,30メートルなら、消し飛ばす。これが俺の力。通常の魔法の域を超えた俺たちの魔導。どうだ、イカスだろ?」

「貴様!凛清を!」

「流星さん、まずいでしょこれは、」

満身創痍、血を流して勝てる相手か、と恋夜が止める。

「止めるな!恋夜!お前もぶっ飛ばすぞ!」

「落ち着いて、私がどうもないから」

恋夜が力づくで押さえつけようとしても止まらなかったが、凛清のデコピン一つで流星は大人しくなり、相手ににらみを利かせる

「さっき凹った奴も空間魔法とか言ってたな。魔力封じのドミネーターだとか」

「あいつは平等の空間魔法、全ての魔法を無効化する。そして俺は虚無。自然法則の上位にルールを作り、世界を作り替える。俺の魔法は至極簡単、触れれば消し飛ぶそれだけだ。」

「そんな反則的魔魔法あるんですか」

「空間魔法だなんて聞いたことがない。」

「あなたが知らないことが世界にないとでも?魔導の世界は奥深いもの。」

「どうしますか?」

この状況、おそらく自分と流星だけであれば逃げられるであろう。だが、イロハと侑季がいる以上は、まともには逃げられない。

「とりあえず、俺が時間を稼ぐ、用があるのは俺だけだろ」

「時間を稼ぐって、」

どう考えても勝てる相手じゃない。特にこの『から揚げ』という男、明らかに他の二人とも格が違う。アステリアとは別種ではあるが、異次元の強さを感じる。


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