休日のたびに。
しばらく怜羅は、外に出るときには回りを見渡してから行動していた。竜夫がどこかに潜んでいる気がしてならないのだ。スマホやLINEはロックしてあるが、かつては怜羅の都合もお構いなしに電話してきていた竜夫が、家にすら電話すらしてこないので、却って気味が悪いのだ。
そんな毎日を過ごして、週末。家に居るのが怖くて、用事を作って外出し、夕方に帰る。土曜日は怜羅の不在中に家に電話がかかっていた。もちろんかけ直してなどいない。
「“何時頃に帰りますか?”って言ってたわよ。」
日曜日の夜、帰宅したときに母親が言った矢先、家の電話が鳴る。父親が電話を取る。父親は簡単なやりとりをしてから保留にして、怜羅の方を見た。
「野口くんだけど、どうする?」
「部屋で出る。」
部屋に子機を持ち込んで、通話ボタンを押す。
「もしもし…。」
「近くまで来ているんだ。出てきてくれ。」
「行かない。」
「来てくれ。」
「絶対に行かない!」
「お前、どれだけひどいことしてるか、わかってる?」
「わかってるよ。でも別れ話のたびに泣いて、やり直して、何も変わってないじゃない!繰り返したくないの!」
「別れるなら別れるで、いいから。とにかく会ってくれ。」
「嫌よ。今は会う時期じゃないよ。」
「会ってくれ。今のうちに会わないと、もうやり直せなく…。」
「何よ!別れるなら別れるでいいって言っといて、結局、それ?…じゃあ、やり直す気は無し。可能性はゼロ!それでもいいなら会う。」
長い沈黙があって、竜夫が怜羅の言葉を繰り返す。
「やり直す気は無し。…可能性は?」
「ゼロ!」
「何でだよ?俺には怜羅しかいないのに。」
竜夫が電話の向こうで泣く。それを聞いて怜羅のイライラが爆発した。
「アンタ、口ばっかりじゃない!反対されていることを知っていながら、のらりくらりとして!」
「だってお前、駆け落ちしてくれるって言ったじゃないか!」
「アンタのそういう浅はかなところがイヤなのよ!何の努力もしないで、駆け落ちするのを待つ男についていく女いないわよ!」
「だったら、どうして、そう言ってくれなかったんだよ?」
「一生、カンニングして生きていくつもり?こんなことを言わないと何もできないわけ?別れて正解ね。“一緒に生きていく”という意味の捉え方が違うんだもの。」
怜羅は吐き捨てるように言った。ここまで言いたくなかったが、止められなかった。話すほど、竜夫に失望していったから。
「…今日はもう帰るよ…。」
竜夫は弱々しくそう言って電話を切った。
電話を切った後、怜羅は泣いた。後悔ではない。竜夫に対する失望と、こんな男となかなか別れられなかった自分への怒りで泣けてきたのだ。
春の夜は冷たくて、竜夫の涙を凍えるほどに冷やしたが、決意を固めた怜羅の頭を冷ますことはしなかった。