カーチェイス。
翌日、怜羅は親友の石野理子の家にいた。買い物に出かける約束をしていたのだ。理子がまだ寝起きだったので、部屋に通されたのだ。
化粧をしている理子の後ろ姿に話しかける。
「竜夫と別れた…。」
「そっかー。悩んでたもんね。」
数日前に相談をしていたので、驚くこともなかった。
「…でもね、なんか、かわいそうな気がしちゃってね。長く付き合うと、情が移るものなのかな…。別れたくて別れたし、やり直す気もないんだけどね。」
「ふーん…。情が移る、ねえ…。」
理子はアイライナーを引きながら相づちを打つ。少し前に付き合っていた彼に振られたばかりの理子としては、振る側の話を聞くのは少々複雑だろう。…と、理子がハッとしたように言った。
「そういうことなら、ウチとか、怜羅の家にいるのは危険かもよ?とりあえず動かないと!」
「ホントだ!動こう!理子、もう出られる?」
「OKよ。さあ急ごう!」
バタバタと理子の家を後にする。怜羅の車を停めておかない方が良いだろうということで、怜羅の車で動くことにした。
「理子は何を買うんだっけ?」
「メイクの小物。100均でいいよ。怜羅は?」
「思い出せない。とりあえず100均行こう。」
怜羅は軽くパニックしているので、買いたい物を忘れてしまったのだ。
ーファン!
100均で買い物を済ませて、雑貨屋にでも行こうと動いていたときのこと。信号待ちの時に何かの音が聞こえた。
「今、何か聞こえなかった?」
ーファン!
「何の音?」
何気なくバックミラーを見ると、竜夫の車が後ろにいた。
「何で?何で後ろにいるわけ?」
「どうする?逃げる?話す?」
「逃げる!」
怜羅は理子の問いに迷わず答える。別れ話のたびに泣かれては、やり直す、ということを繰り返してきたので、もう話したくなかったのだ。
「OK。その角を左。てん次、急ハンドルで右。」
「どうしよう。まだついてくるよ。」
「よし!左折して。」
理子のナビで必死に車を走らせる。しかし、黄信号で渡ったり左折してりしても、竜夫は赤になってから平気でついてくる。…とうとう、赤信号で停まらざるを得なくなった。と、竜夫が車から降りてきて、運転席側のドアの横に立った。怜羅が仕方なく窓を開ける。
「どうして逃げるんだ?」
「しばらく会わないって言ってるのに、どうしてそうやって会いに来るのよ!」
そう。怜羅は、それまでのことを振り返って、会わずに別れる方が賢明だと考えたのだ。怜羅の言葉に、唇を噛む竜夫。
タイミングよく信号が青になった。竜夫に構わず車を発進させる。
「ああいう自分勝手で強引なところがイヤなのよ!」
言いながら涙が溢れてくる。竜夫に対する罪悪感と怒りの混じり合った感情が渦巻いていた。その後も、細い路地に入っても追いかけてきていた。すぐ意地になるので、なおさらしつこい。
どのくらい走っただろう。気づいたら竜夫の車はいなくなっていた。




