表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/32

【番外編SS】ワインと絵と思い出

「クレア、誕生日おめでとう」

 そう言ったディルは、まぶしいくらいの笑顔を隣にいるクレアに向けている。


 クレアはちらりとディルに目をやり、少しだけ言いにくそうに、


「……ディル、お祝いの言葉はうれしいけれど、わたしが誕生日を迎えたのは、もう一ヶ月も前よ。誕生日パーティーには、あなたも来てくれたし、かかえきれないくらいの大きなバラの花束に、高価な真珠のチョーカーも贈ってくれたわ、そうでしょう?」


「ああ、そうだな。でも十八歳になったクレアを王城のパーティーでエスコートするのははじめてだ」


 そう言ってディルは心底うれしそうに微笑むので、クレアは目を(しばた)かせ、やや目尻を下げる。


(おめでとうの言葉は何度聞いてもうれしいものだけれど、さすがに一ヶ月も前の誕生日のこととなると、なんだか申し訳なく感じてしまうわね)


「クレア」

 ディルがすっとクレアの前に手のひらを差し出す。


 間もなく入場だ。

 今夜は王家主催のパーティーがおこなわれる。


 そのためクレアとディルは、舞踏会の会場になっている大広間へと続く、両開きの重厚な扉の前に待機していた。


 クレアは隣に立つディルを横目で見る。


 彼が身にまとっている襟高の真っ白なジャケットには、金糸の精緻な刺繍が施され、黄金色に輝くややくせのある金髪にとてもよく似合っている。


 襟元にはディルの瞳と同じ、森のような深緑色(しんりょくいろ)の光を放つ大粒のエメラルドのブローチが目を引く。

 そして服装や宝石以上に、ディル自体が一層華やかな存在感を放っていた。


 入場するなり、彼の姿を目にした数多の令嬢が熱いため息を漏らすだろうことは、これまでの経験からクレアはよく知っていた。


(きっと、まだあの年上の女が隣にいるわって、内心思われるんでしょうね……)


 クレアはわずかに憂鬱(ゆううつ)な気持ちになりそうになるのを振り払い、自分の手をディルの手のひらにそっとのせる。


 クレアとディルは五歳の年の差があり、身長もクレアのほうが高いことから、触れるディルの手は頼りなさはあるものの、それでもリードするように、彼が力を込めてくれるのがわかる。


(きっとあと数年もしたら、わたしよりもこの手のひらも背もずっと大きくなるわね、それはそれで寂しいかしら)


 そんなことを思っていると、入場するクレアたちの名が告げられ、楽団が入場の音楽を高らかに奏で、大きな扉が衛兵らによって左右に開かれる。


 クレアは、ディルのエスコートに導かれるように、歩みを進める。


 普段は露出の少ないドレスを好むクレアだが、夜のパーティーともなると華やかさが求められる。


 そのためクレアが身につけているドレスは、肩と胸元を大胆に開けたデザインだ。色味は紫を基調とし、裾にいくほどに金色の細かな刺繍が密になるように施され、絶妙なバランスで配置されたシルクのフリルやリボンがより一層華やかさを演出している。

 複雑に編み込まれた髪の毛は、片側に垂らし、生花の紫色のバラがあしらわれている。


 そしてクレアの華奢な首元を飾るのは、真珠がレースのように繊細につなぎ合わされたチョーカーで、そのトップに輝くのは、彼女の紫みを帯びた銀髪と薄紫色の瞳によく似合う、夜空を連想させるような深い青紫色のタンザナイトだ。

 

 この真珠のチョーカーは、先日十八歳を迎えたクレアの誕生日にディルが贈ってくれたものだ。


 クレアの好みをよく把握しているディルは、なるべく控えめかつ上品に見えるチョーカーに仕立て上げていた。


 婚約者から贈られたアクセサリーに、誰もが憧れる最高級のドレス、まさに完璧な淑女(レディー)の装いに身を包むクレアだったが、


(……早く脱いでしまいたいわね)


 すでに心は、簡易な服装に着替えて自室のベッドに寝っ転がっている自分を想像していた。




 その後、ディルとのダンスをそつなくこなしたクレアは、彼にともなわれ、パーティーに参加している高位貴族らとあいさつを交わしはじめる。


 相手の家名と名前はもとより、政治的立場や趣味思考なども思い出しつつ、失礼のないよう和やかに談笑する。そしてさりげなく、相手がよろこぶような話題を振ることも忘れない。


「そう言えば、ヘインズ伯爵は東の異国文化に大変お詳しいのだとか。最近希少な茶器を手に入れられたとお聞きしました」


 そうクレアが口にすると、初老のヘインズ伯爵は嬉々として、


「おお、そうなのです! 先日の旅行で偶然見つけましてな。持ち主になんとか頼み込んでようやく譲ってもらったのです」


 すると隣にいるヘインズ夫人が、


「主人ったら五日も粘っていたんですのよ。でもそれだけの価値はありますわ、とても鮮やかな色彩で花や鳥が生き生きと描かれているんですもの」


 苦笑しながらも、夫が手に入れた茶器をいたく気に入っている様子で微笑んで言った。


 初老夫婦のやりとりを聞いていたディルは、興味をそそられたように、

「へえ、そんなに美しい茶器なのか」


 それにあわせてクレアも、

「まあ、そうなのですね」

 と相槌を打つ。


 そのあともしばらく東の異国文化についての話が続き、ひとしきり盛り上がったあと、手頃なところで会話を終えると、次のあいさつ者を迎え入れる。


 そうして招待客らのあいさつを途切れることなく受け入れ終えた頃、ある見慣れた顔が現れ、クレアは頬をゆるめた。


「お父さま」


 そこに立っていたのは、父であるオルディス侯爵だった。


「オルディス侯爵」

 ディルも声をかける。


 オルディス侯爵は、礼をとり、


「ディルハルト王太子殿下、今宵はクレアをエスコートしてくださり、感謝申し上げます。また、先日のクレアの誕生日には、素晴らしい贈りものまでいただき、大変ありがたく存じます」


 そう言って、娘のクレアの首元を飾る真珠のチョーカーに目を留める。


 しかしその視線は、トップについた青紫色のタンザナイトを注視しているようにも見え、ディルはわずかにヒヤリとする。


 本当はタンザナイトではなく、自分の瞳の色と同じ緑色のエメラルドにしたいと思ったのを見透かされた気がした。


 オルディス侯爵は、愛娘のクレアと王太子であるディルとの婚約を手放しによろこんでいるわけではない。その上、クレアの気持ちがディルに向いているのか不確かな状態のいま、王太子で婚約者とはいえ、自分の立場は不安定なものでしかない。

 そのためエメラルドを選ぶのをかろうじて止めたのだったが、結果的によかったとひそかに胸をなで下ろす。


 オルディス侯爵は、クレアに近づくと、

「そのドレスよく似合っているよ、クレア」


「来るとき馬車の中でも褒めてくれたわ」


「ああ、そうだったかな」


 父の言葉に、クレアは微笑む。


 いま着ているドレスは、父も少し意見を出してくれて仕立てたものだ。

 幼い頃に母を亡くしているクレアだが、父は可能な限り、母の代わりもしようと不慣れなドレスのことも相談にのろうとしてくれる。そんな父をクレアは尊敬しているし、誇らしく思っている。


 しばし三人で会話を楽しんでいると、


「ディルハルト殿下、国王陛下がお呼びです」


 いつの間にかディルの背後に立っていた、彼の侍従を務めるルカスが、会話の合間を縫ってそっと耳打ちする。


 ディルは小さく頷くと、

「──オルディス侯爵、お話しの途中ですみません。クレア、すぐ戻る。それまで侯爵と一緒にいてくれ」


 クレアは、ディルに視線を向けると、

「ええ、わかったわ」


 その言葉を聞いたディルは安心した表情を見せたあと、ルカスをともない、その場を離れていった。


 ディルの背中をしばし見送っていたクレアとオルディス侯爵だったが、


「クレア、テラスにでも出ようか? 少し夜風にあたるのもいいだろう」


 そう言って侯爵は、大広間の端のほうにある、人気のなさそうなテラスを指差す。


 気疲れしているであろう娘を(おもんばか)って言ってくれたことがわかり、クレアの胸はじんわりとあたためられる。


「ええ、お父さま」

 頷きながらクレアは、差し出された父の腕に手をかける。


 エスコートされながら、大広間を横切り、奥のテラスへと向う。


 大広間とテラスを仕切る、大きな窓ガラスにかかる朱色のビロードのカーテンをよけて、テラスへ出ようとしたとき、


「──オルディス侯爵」


 ふいに呼び止められ、オルディス侯爵とクレアは振り返った。


 そこにいたのは、侯爵と同い年くらいの中年の紳士だった。


 王城のパーティーに参加しているくらいだ、ある程度の身分を有するか、著名人であることはうかがえるが、目の前の紳士は格式を重んじる貴族というよりも、どことなく気軽な雰囲気があった。


 オルディス侯爵は一瞬怪訝そうにしたものの、ややあってから、

「これは驚いた、いつ帰国したんだ、マティス?」


「一週間前だ」


 マティスと呼ばれた紳士は、ニヤリと笑い、オルディス侯爵は手を伸ばし、彼の肩を親しみを込めて叩く。


 どちらかというと、礼儀を重んじ、堅苦しいくらいの父にしてはめずらしい態度だった。


 クレアが目を丸くしていると、

「こんばんは、オルディス侯爵令嬢」

 彼女に目を留めたマティスがやさしく微笑む。


 クレアは慌てて、淑女の礼(カーテシー)をとる。


 ちらりと隣の父を見上げれば、


「マティスだ。お前も会ったことはあるが、もう十年以上も昔だから、覚えていないだろうな」


 そう言って説明してくれる。


 クレアはマティスを注視するが、やはり見覚えはない。


 マティスは苦笑して、

「あんなに小さかった子がこんなに素敵なレディになってるなんて、月日が経つのは早い。昔は『マーティ、マーティ』と言って、あとをついてきてくれたのに」


 その言葉でクレアは、はっと口元を押さえた。

「もしかしてマーティおじさま?」


 マティスは、おっとというそぶりで両眉を上げて、

「思い出してくれたのかな?」

 おどけてみせる。


 クレアは一歩前に踏み出し、

「ええ! 本当にお久しぶりです、マーティおじさま!」

 そう言いながら、クレアは昔、マティスと過ごしたわずかな日々を思い出す。


 マティスは子爵家の嫡男で、オルディス侯爵とは貴族学院で知り合い、意気投合して以来、大人になってからもずっと友人関係にあった。


 しかし画家になることを諦められなかったマティスは、子爵家の継承権を弟に譲って、勘当同然で家を飛び出し、当時芸術の都と言われていた隣国へとひとり旅立った。


 それから数年経った頃、画家としての名声を得たマティスはサザラテラ王国に一時帰国する。

 そのときオルディス侯爵家に三ヶ月ほど滞在し、父と母、クレアの三人の肖像画を描いてくれた。母が流行病で亡くなる半年前のことだ。

 その絵はいまも、オルディス侯爵の寝室の壁に大事に飾られている。


「あれからさらに有名になったらしいな、いまではきみのほうが客を選ぶと言うじゃないか」

 冗談めかして、オルディス侯爵が屈託なく笑う。


「またまた、誰がそんなことを言ってるんだ? でもそうだな、人生は有限だ。残りの人生で描けるものは限られている。少しくらい選んだとしてもバチは当たらないよ」


 そう言ってマティスは、クレアに視線を向け、


「でも雪の妖精を描けるなら、よろこんで筆を握るよ、クレア嬢」


 片目をつぶってみせる。


 クレアはきょとんと首を傾げたあとで、あたりをきょろきょろと見回し、ふふっと声を上げ、


「マーティおじさまの目には妖精が見えるのね。それじゃあ、人間のわたしなんてとても選ばれようがないわね」


 マティスはおどけた様子で肩をすくめ、オルディス侯爵に向き直ると、


「おやおや、きみの屋敷には鏡がないのか? 冗談を通り越して、僕には妖精が見えると信じるなんて」


「鏡くらいいくらでもある。母親のクラウディアもそうだった、自身の見た目にはあまり関心が向かないようだ」


「それは残念、創作意欲を刺激してくれる素晴らしいミューズなのにね。まあ、いいだろう、せっかくの再会だ。クレア嬢はもうワインを飲めるんだろう? お祝いといこうじゃないか」


 マティスはすぐに切り替えるように、さっと後ろを振り返り、ちょうど通りかかった使用人の手から、赤ワインのボトルとグラスを三つ受け取る。


 流れるようにオルディス侯爵とクレアにグラスを手渡すと、手早くボトルを開けて、赤ワインを優雅に注ぐ。


 侯爵はちらりとクレアに視線を向けるが、そっと息を吐き出し、


「……クレアも先日、十八歳の誕生日を迎えて成人になったのだから、これからはワインを(たしな)む機会も増えるだろう」


 クレアはぱっと顔を上げ、

「いいの?」


 本当はと言うとごく少量ではあるものの、クレアはこっそりワインを飲んだ経験がある。でもワインの名産地を領地にもつオルディス侯爵家の娘としては、もっとワインに詳しくなりたいし、そのためにはワインを嗜む機会を堂々ともてればと思っていた。だからこそ父からお許しが出るなら願ってもない。


 父であるオルディス侯爵が頷くのを確認したマティスは、朱色のカーテンを片手でめくり、クレアと侯爵をテラスへと導く。


 夜空にかかる満月の淡い光がグラスに注がれたワインを艶やかに照らす。


 マティスは高らかに、

「じゃあ、さっそく乾杯しよう!」


 その声に続き、クレアもオルディス侯爵もグラスをかかげる。




「そういえば、クレア嬢はディルハルト王太子殿下の婚約者なんだって?」


「……ええ、そういうことになっているわ」

 そう言うと、とろんとした瞳でクレアはグラスを揺らす。


 隣に立つマティスは、頑丈な石造りのテラスの手すりに背中を預けている。


「まるで他人事だな」

 くくっと喉を鳴らして、彼は笑った。


 少し前にオルディス侯爵は、立場的に断れない相手からの呼び出しを受け、マティスにくれぐれもクレアのことをよく見ておくようにと言い残し、広間のほうへと戻って行った。


 そのため、いまテラスにいるのは、クレアとマティスだけだ。


 オルディス侯爵がいなくなってからも、クレアはどんどん杯を重ねていた。


「おっと、そこまでだ。これ以上はもうやめておいたほうがいい」

 クレアがグラスを傾けようとしたが、マティスは骨張った手を伸ばして止める。


「まだ酔ってないわ」

 クレアは子どものようにむっと頬を膨らませた。


 (おおやけ)の場では常に感情を制御しているクレアにはめずらしいことだ。それだけ酔っていると言える。

 しかし酔っ払っている本人にその自覚はない。


「まいったな、これは僕が怒られるぞ」


 マティスが本気で自分の身を心配しはじめたとき、


「クレア? ここにいるのか?」

 カーテンの向こうから若い男の声がした。


 父親のオルディス侯爵でないことはたしかで、マティスの肩がぎくりと跳ね上がる。

 他人が見れば、中年の男が若い令嬢を酔わせていると勘違いされてもおかしくない場面だ。


 マティスが言い訳を考えている間にも、分厚いカーテンがさっと開く。


 広間の明るい光を背に受けて立っているのは、黄金色の髪がまばゆく輝く、はっとするほど顔立ちが整った少年だった。


 少年は目を見開き、すぐさまクレアとマティスの間に割り込むと、

「失礼、オルディス侯爵はどちらですか?」

 下から射るような鋭い視線を、身長差のあるマティスへと向ける。


 マティスは数歩後ろに下がり、

「──少し席を外しております、ディルハルト王太子殿下」

 すっと腰を折って礼をとる。


「私はオルディス侯爵と旧知の仲でして、彼がいない間、クレア嬢のそばにいるよう言いつかっているのです」


 ディルは、たしかめるように背後のクレアを見やる。


 クレアは、ふにゃりと笑い、


「ええ、マーティおじさまよ。わたしたち家族の肖像絵を描いてくださった画家の。あなたも絵を見たことがあるでしょう?」


 ゆるみきったクレアの微笑みを目にして、ディルは思わず固まる。

 見惚れてしまいそうになるのを堪え、ぐっと唇を引きしめると、


「──ああ、あの絵か。とても素晴らしい出来だった」


 ずいぶん昔に、オルディス侯爵家を訪ねた折、いつもはオルディス侯爵の寝室に飾っているという絵を特別に外して、クレアが見せてくれたことがある。

 侯爵と夫人のやさしい眼差し、そして娘のクレアの愛らしい姿が描かれていた。胸がとてもあたたかくなるだけでなく、それ以上に人を惹きつける何かがその絵にはあり、いまでもディルの記憶にはっきりと残っている。


 マティスは目を(しばた)かせ、

「お褒めに預かり光栄に存じます」

 ディルの言葉に偽りがないと感じたのか、口元をゆるめた。


「しかしオルディス侯爵がいない間に、このような状態になるまでクレアにワインを飲ませるのはいかがなものでしょうか」


 ワインを嗜むにはまだ早い少年のディルが正論を述べるので、マティスは目尻を下げ、


「ええ、申し訳ありません、お止めするのが遅かったようで、私の落ち度です」


 ディルはため息を吐き出し、


「クレアは別室で休ませます、オルディス侯爵が戻られたらそのように伝え──」


 と言いかけたとき、彼の背中にもたれかかるように、あたたかな感触がした。


「ク、クレア?」

 ディルは動揺しながら後ろを振り返る。


 そこには首筋まで赤く染めたクレアが、ディルの背中にぎゅっと抱きついていた。


 突然のことに、ディルの頭は真っ白になる。


「や、柔らかい……」

 思わず本音が漏れる。が、すぐに正気を取り戻し、

「いま見たことは他言しないでください、いいですね」

 マティスに念を押す。


 一方のマティスは、王太子もひとりの少年に違いないことに気づかされ、笑いをこぼしそうなりながら、


「ええ、承知いたしました」

 なるべく神妙に頷いた。




 翌朝、マティスに再会したことも忘れてしまったクレアは、父親であるオルディス侯爵からお酒はできる限り控えるようにと有無を言わさず約束させられた。


 クレアは理由を教えてもらえなかったが、昨晩、ディルの口止めも虚しく、別室に駆けつけたオルディス侯爵とクレアの侍女サリーの前で、酔いの覚めないクレアはディルに再び抱きついたのだ。


 その上、隣にいたマティスにまで抱きつきかけ、ディルと侯爵が慌てて止めに入る始末だった。その後、なんとか帰りの馬車にクレアを乗せたが、屋敷に着くなり、出迎えた初老の執事にまで抱きつきかけたらしい。


 以来、侯爵家では、クレアに酒はできる限り飲ませないようにという暗黙のルールができたが、その理由を知らないのは本人だけだ。



 そしてパーティーから、さらに数日後。

 ディルのもとに差出人不明で、小さな包みが送り届けられた。


 『開封にはディルハルト王太子殿下の許可を得ること』と一言添えられていた。


 ルカスから話を聞いたディルは不審に思いながらも、ひとまず受け取り、開封した。


 中に入っていたのは、一枚の小さな絵だった。


 それを見た瞬間、ディルは顔を真っ赤にしたあとで、真っ青になり、自身の部屋の中を行ったり来たりした。


 はっと我に返ると、すぐさまルカスに退室を命じる。


 そしてしばらくしたあとで、絵を大事にかかえると、本棚の後ろの隠し部屋にそっとしまったのだった。



ここまで閲覧・ブクマなどでご評価いただき、本当に本当にありがとうございます……!

たくさん応援いただけたのがすごくうれしくて、番外編を続けて投稿してみました(*´▽`*)


本編よりも過去のエピソードになってます。

ちょっと長い番外編ですが、こちらも楽しんでいただけますように……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ