第51話
お久しぶりです。
生活が変わってまだ安定していませんが、これからは月一くらいで更新出来たらいいなと思っています。
手が届くほどすぐ前に、その鎧はどっしりと構えていた。つい先日まで埃まみれだった部屋であるというのに、この鎧が中央にあるだけで一気に厳かな場となったようだった。
鎧の形はオーソドックスなプレートアーマーと変わらない。しかし、そこには栄えある王城と同じ、見る者の目を引き付ける虹色を帯びる銀の輝きが宿っていた。それは、この鎧がパーツの一つ一つを純度の高い魔鋼を加工して造られたからに他ならない。高純度の魔鋼は高価だが、それをもとに造られる武具の性能は折り紙付きだ。高い耐久性と魔法耐性を持ち、様々な術式を刻める容量も大きい。騎士が身にまとう防具としては、最高級品といっていいだろう。
「えっと、デュオさん。その・・どうですか?」
だが、この鎧は単なる最高級品というくくりに収まらない。
なぜならば、すぐ後ろから声をかけてきた部屋の主が、いや、オーシュ王国の王族が手掛けた鎧は、至高の一品と呼ぶのがふさわしいからだ。武具が持つべき理想を極限まで実現した装備。数多の魔法や状態異常への耐性や、持ち主に傷一つ負わせぬ頑丈さ。どんな硬い装甲でも打ち砕く強力な技の発動に、風すら置き去りにする疾さの付与など、その凄まじさは枚挙にいとまがない。
「これ、本当に僕がいただいても・・?」
「も、もちろんです!! これは、デュオさんのために造ったものなんですから!!」
「そうですよ!! デュオ様は胸を張って、これを着てもいいんですって!!」
思わず僕がそう聞くと、シルフィさんとメイド服に身を包んだリーゼの二人はとんでもないというようにそう返してきた。だが、僕がそんな風になるのも無理はない。王族によって作られた装備を身にまとえるのは、この国の最精鋭のみだからだ。
昔からモンスターに脅かされてきた王都にとっては、強力な武具は喉から手が出るほど欲しい代物だが、普通の騎士にまで行き渡らないのには理由がある。王族といっても、古くから始祖神の血を引く王族の直系は、陛下、第一王女殿下、第二王女殿下、第三王女殿下、そして、つい先日までほとんど知名度がなかった第四王女のシルフィさんのみだ。至高の一品を手にすることができる者が一握りであるのは、ふさわしい実力者が少ないだけでなく、供給が乏しいというのもある。そして、そんな代物が、僕のために、すぐ目の前に用意されているのだ。これで思わず疑ってしまうのは、もう仕方がないとしか言えまい。
「それじゃあ、その・・・ありがたく頂戴いたします」
僕は一歩前に出て、腰に差していた長剣を抜いた。剣の刃に指をあて、軽く引くと、指に赤い雫が浮かぶ。そして、その雫を目の前の鎧の胴に押し当てた。
「・・・!!」
「うわっ!?」
僕の血を押し当てた部分から、血を吸い上げるように鎧が鮮やかな赤に染まったかと思うと、すぐに元の銀色に戻る。それと同じくして、ガチンという金属音とともに、鎧の大きさが多少縮んだような気がした。
そして、鎧が銀色の光に包まれ・・・・・
「おお・・・」
「登録完了ですね・・・・・よかった、無事に終わって」
「よくお似合いです!! デュオ様!!」
一瞬ののち、僕は銀色のマントに包まれていた。
そのマントは、まるであつらえたかのように僕にピッタリで、軽く、下手をすると着けているのを忘れそうになるくらいだ。銀のマントには虹色の刺繍が施されており、斜めに走る剣を背に、横を向く兜が描かれていた。モンスターを刈る剣と、大いなる力を秘めた兜は、このオーシュを象徴するエンブレムであり、それらが刻まれたこのマントこそが、オーシュの最もすぐれた守り手の宝物庫にして・・・・・
「これが、魔装・・・!!」
こうして、シルフィさんの近衛騎士となってから1週間後、僕は長年追い求めてきた夢の結晶、「魔装」を手にしたのであった。
話は1週間前に遡る。
「本当に申し訳ありません!!」
目の前で、シルフィさんが地面に頭がつくんじゃないかというくらい深く頭を下げていた。
「い、いや、別にシルフィさんのせいじゃ・・・・それに、近衛騎士になれるなんて名誉なことですし」
あの衝撃の叙勲式が終わった後のシルフィさんの私室でのことである。さきほどまでは騎士たちのためのパーティーなどもあったが、あまりにも衝撃が強すぎてほとんど上の空だった。
「でも、近衛騎士になったら、シークラントにはもう帰れないですよね」
「ちょっ、リーゼ!?」
僕がしどろもどろになりつつも返事を絞り出したのに、後ろに控えていたリーゼが冷たい水をぶっかけるかのように現実を突きつけてきた・・・せっかく考えないようにしていたのに。
「うぅ・・・すみませんすみませんすみません」
シルフィさんが残像が出るんじゃないかと思うくらいにペコペコと頭を下げる。こんなところを見られたら近衛騎士の資格もはく奪されてしまうんじゃないだろうか。
「リーゼ・・・・」
「デュオ様、申し上げておきますが、お姫様に心を読むチカラがある以上、気を遣う意味はないですよ。今は大人しくなってるみたいですけど、またいつチカラが暴走するかもわからないのですし、今正直になった方が傷は浅くなります」
「それは言い過ぎ・・・」
「デュオ様」
そこで、リーゼが僕の目をじっと見てきた。その青い瞳は冬の夜のように冷たさを感じさせる。
「デュオ様は、悔しいとか残念だと思わないんですか? 近衛騎士になった以上、もう王城から離れられないって言ってもいいんですよ? そして、デュオ様が近衛騎士に抜擢された理由に、お姫様が関わっていないとは思えません」
リーゼは怒っているのだ。自惚れでもなんでもなく、主である僕の夢が閉ざされたことに。
「・・・・・・」
僕は押し黙った。
リーゼの言うようなことを考えなかったはずがない。
魔装騎士になって、シークラントを守ることこそが、僕の夢だ。その夢のためにこれまで頑張ってきたのに、それが思いもよらぬ形で叶わなくなったのだから。残念に思わないわけがない、理不尽に怒りを感じないわけがない。・・・・そして、その原因の一つがシルフィさん、正確にはシルフィさんのチカラであろうことを考えなかったはずもない。
僕は、シルフィさんの方を見た。
「デュオさん、本当に、申し訳ありません・・・!!」
さっきまでバッタのごとく頭を上げては下げを繰り返していたが、今は頭を下げたまま動かない。
・・・確かに、僕が近衛騎士に抜擢された理由はシルフィさんにもあるのだろう。しかし・・・
「頭を上げてください、シルフィさん」
「えっ!? でも・・・・」
「王族に頭を下げさせていることが広まったら、故郷に帰る前に留置所行きですよ。お願いですから、頭を上げてください」
「・・・・・」
僕が頭を下げると、交代するかのようにシルフィさんは頭を上げた。
リーゼは、黙って僕の方を見ているだけだ。
「デュオさん・・・」
頭を上げたが、それでもシルフィさんは伏し目がちだった。その瞳は深い不安に染まっている。
さて、どう言えばいいのだろう。いや、ここは正直に言うべきだ。リーゼの言うように、ここで内心をぶちまけてしまう方がきっといい。
「正直に言えば・・・・シークラントに戻れなくなったことは、その、非常に残念です。気にしないっていうのは・・・今は無理です。そして、その一因にシルフィさんが絡んでいるとも思います」
「っ!!」
シルフィさんが息をのんだ。その目はうるんでいて、いまにも涙がこぼれそうだ。
「あのっ、私・・・」
「ですが!!」
何か言いだしそうなシルフィさんを遮って、僕は続ける。
「関わっているのは、あなただけじゃない。あなたのチカラが原因なら僕の体質だって間違いなく関係がありますし・・・確証はないけど、リーゼもそうでしょう。だから、僕にあなたを悪く言うなんてことはできません・・・・・リーゼ、僕にも原因がある話だから土下座はしないで」
「承知しました」
一瞬の間に床に伏せていたリーゼにもくぎを刺すと、リーゼは立ち上がった。
つまるところ、この件はいくつもの原因が考えられ、その一つには僕自身も含まれる。つつけば自分を責める結果になる話なのだ。もしかしたら、リーゼは分かっていたのかもしれないが、ケジメはつけておくべきだと僕も思う。
「それに・・・」
僕は、騎士になったから。
「え?」
シルフィさんはイマイチわからないといった風だ。
「僕が憧れた騎士は・・・」
もともとこの決定を下したのは陛下であって、シルフィさんがどうこう言ったわけではないだろう。これまでのことから、シルフィさんにそんな腹芸は無理だという確信がある。そして、そうであるのならば、シルフィさんに怒りをぶつけるというのは、ただの八つ当たりだ。そんなのは、騎士として、それ以前に男として、あまりにみっともない。言ってみたところで何も事態は好転しないし、あの場で存在が広められたことから、ある種シルフィさんも被害者だろう。
「そのくらいのプライドはあります」
そりゃあ、近衛騎士に任命されたときは混乱したし、少し経ったら嘆きもしたし怒りも覚えた。
けど、僕が憧れた魔装騎士は目の前の罪悪感でいっぱいな女の子を罵るなんて真似はしないのだ。そう思えるくらい、僕が背中を追い続けた人たちの姿は僕の心に響いてきた。夢を絶たれた僕がこんな風に考えられるくらいには、あの人たちを見て育った誇りは僕を支えていてくれる。
「ですから、僕はシルフィさんを責めることはないです。まったく気にしないっていうのも今は無理ですが、少なくとも怒ってないですよ・・・・僕に対して引け目があるなら、心を読んでください」
「っ・・わかりました」
シルフィさんは、震えながらも目を閉じる。直後、背中をなでられるような、あの奇妙な感覚があった。
「デュオさん・・・本当にごめんなさい。そして・・・ありがとうございます」
心読んだ僕の主君は、涙をこぼしながらもそう言った。その声音には心の底からの謝罪と安堵がこもっていた。
「デュオ様がそうおっしゃるなら、あたしは何も言いません。しかし、これからどうしましょう? あたしたちが戻れないとなると、1年や2年はともかく、それ以上は少し不安ですけど」
そこで、リーゼが現実的な話に戻した。そうだ、屍竜のときもだが、やはり建設的な方向に行かなくては。シークラントに戻れずとも、ここでできることだってあるはずだ。
「うーん、どうしようか・・・」
とりあえずみんな立ちっぱなしだったので、椅子に座ってから考え込む。シルフィさんもリーゼも深刻な顔で考え込んでいるが、僕も何か・・・
「ん?」
「デュオさん?」
「どうしました?」
「いや、なんか足音が・・・」
シルフィさんの部屋は、こういってなんだが人があまり寄り付かないエリアにある。しかし、この部屋に向かって一直線に歩いてくる足音が聞こえるのだ。しかもこの重厚な足音にはかなり聞き覚えが・・・
「シルヴィア殿下、失礼してもよろしいでしょうか」
「えっ、はっはいっ!!」
足音の主は扉の前に立つと、入室の許可を求め、その低い声に反射的にシルフィさんは返事をしてしまった。というか・・・
「夜分に失礼いたします」
「父上!?」
扉を開けて入ってきたのは、僕の父上であった。なぜ今ここに・・・
呆けたような僕の視線を知ってか知らずか、父上はシルフィさんの前に立って礼をする。
「まずは先ほどの宴で愚息が誠にご無礼を・・・・せっかく殿下の直属に抜擢されたというのに、ろくに受け答えもできず」
「そ、それはデュオさんが悪いんじゃありません!!あんなあり得ない人事を下されれば誰だって・・」
シルフィさんが思わずというように言い返すが、僕としては一応パーティーのメインだったのに生返事しかせずただ呆けていたのは擁護できないと思う。
「デュオ様も、お姫様もあたしもアインシュの近くでずっと固まってましたからね・・・小うるさいのが来なかったのはよかったんですけど」
あんまり覚えていないが、父上の近くにはあまり人が寄ってこなかったので、いつの間にか父上の周りに引き寄せられる感じだったと思う。
「殿下がお気にされていないようならば私はこれ以上何も申し上げません。では、もう一つの件をば。わが領地、シークラントへの騎士派遣の決定についてです」
「「「え!?」」」」
僕らの声がハモった。まさか父上がこんなに早く解決策を持ってくるなんて・・・
そこで、父上は僕ら全員を見渡した。
「こたびの任命は、オーシュ王国騎士団でも異例のこと。騎士試験で近衛騎士になった者はこれまでおりません。愚息も、そしてもう一人のトリシュ卿も近衛騎士を任せるにはまだ実力不足。そこには陛下らの意思があります」
それはそうだろう。魔装騎士の中でも最精鋭の近衛騎士にふさわしい実力があるなんて思ったことはない。となれば、僕を近衛騎士にしたのは別の意図がある。
「トリシュ卿は分かりかねますが、愚息は何分急な決定だったため、何かと不都合も出てくる。シークラントの兵力は恥ずかしながら息子一人によるものが大きく、突然の抜擢ではわが領地の防衛に支障が出るといった旨を奏じたところ、陛下としても愚息に後顧の憂いなく任に励めるようにと、わが領地に魔装騎士を駐留してくださると仰せになりました」
「魔装騎士を駐留って・・・」
「もっとも、引退間際で隠居先を探していた者たちですが。それでも4人もいれば、向こう10年は問題ありますまい」
魔装騎士は非常に強力な戦力だ。例え高齢であっても、4人も魔装騎士がいれば父上の言う通りしばらくは大抵のモンスターは撃退できるだろう。引退間際ということは、少なくとも僕に剣の稽古をつけてくれた時のジョージさんたちよりも若い。魔装があれば強化の恩恵で多少の肉体の衰えは問題にならない。しかし、そんな人材をよこすほどとは・・・
「よほどデュオ様をここに留めておきたいってこと?」
「殿下のことを思えば、それが最善だと。昨今の状況では、魔装の生産は急務。シルヴィア殿下のお力を制御するためには愚息も、あなたも必要のようですからな」
「デュオ様が残るっていうならあたしも残ることになるしね・・・」
オーシュ王族の義務であり、特権。それは魔装の生産だ。
はるかな昔、魔鋼の扱いに恐ろしく長けた一族が生み出した魔法の鎧。その鎧を身に着けて魔竜を倒した始祖神より、彼らはオーシュ王国の王族として認められたという。それから、魔法の鎧は魔装と呼ばれるようになり、王族は不動の権威を得ることになった。そして、その権威を維持するように、今でも魔装は作られ続けているのだ。もっとも、その生産が加速したのは最近の話で、それまでは労力のこともあってそこまで作られていないようであったが。
「魔装の数が増えれば、それだけ現状にも対抗できるようになる。ゆくゆくは、シークラントのためにもなる。此度の派兵もその一環だ」
父上は、僕のほうを見ながらそう言った。
「ここにいても、お前はシークラントの守護に貢献している。お前は、お前なりのやり方で邁進するがいい」
「父上・・・」
僕は思わず声を漏らした。父上が僕に激励の言葉をかけるなんて、非常に珍しいことだ。いや、グラン殿との試験の時も励ましてもらったような・・・
ちらりと視線を向けてみると、リーゼが不気味なものでも見るような目で父上を見ていた。
「リーゼロッテ殿、引き続き愚息のことをよろしく頼む。それと、陛下とも相談の場を設けたが・・・「許可する」とのことだ。」
「!!」
何の話だ? リーゼが意外そうな、それでいて燃えるような瞳をしているけども。
「それでは、失礼いたしました」
父上は最後にシルフィさんに一礼すると、部屋から去っていったのだった。
「なんというか、あっさり決まってしまいましたね・・・」
「そうですね・・・」
父上が去って行って、なんだか気の抜けてしまった僕らは、椅子にもたれたまま話していた。
シルフィさんの言葉の通りだが、なんというか、という感じである。
「・・・・で、お姫様。アインシュは何考えてました?」
「ちょっ!?リーゼ!?」
チカラに関することはかなりデリケートなことなのに、ズバッと聞きすぎだ・・
「本当に、先ほど言っていたことについて考えてましたよ。いえ、正確にはそれしか考えないようにしていたというか、心が閉じられているというか・・・あんなに無心に近い人は初めて見ましたね」
「シルフィさん!?」
リーゼに注意しようとしたら、シルフィさんからドライな返事が返ってきた。
あの自分のチカラを呪っていたシルフィさんが・・・・
僕が困惑しているのを見て取ったのか、シルフィさんはまっすぐに僕の目を見て口を開いた。
「デュオさん、さっきは私のことを気にしていないって言って、思ってくれましたけど、私はそんな風に思うのは、難しいです」
シルフィさんの目が据わっていた。
「もちろん申し訳ないって気持ちだけじゃないです。私はこのチカラに振り回されてきたけど、だからこそ、そんな私に心から優しくしてくれたデュオさんの夢を支えたいんです。だから、デュオさんの夢に関係があるなら、このチカラを利用しつくして・・・・・誰の心でも覗いてやりますよ?」
リーゼもウンウンと頷いている。
「まあ、妙な噂でも立ったら困るので乱用は控えるべきだと思いますけど、あたしでもそうしますね」
「ふ、二人とも・・」
気持ちはすごく嬉しい。僕の夢を想ってくれるのは本当にうれしいのだが・・・なんか怖い、いやいや!! 僕の覚悟が足りないだけだ!!そうに違いない!!
「しかし、改めてこれからどうしましょう? アインシュの言ってる通りなら、しばらくはシークラントは安全でしょうけども」
リーゼの場を仕切りなおすような声で、僕は我に返った。
そうだ、こんなに心強い味方がいるんだ。それでいいじゃないか・・・暴走しそうになったら身を挺してでも止められるようにしなければならないかもしれないが。
「やっぱり、デュオ様はシークラントに戻りたいんですよね?」
「そりゃあね。僕はシークラント家の跡取りだし・・・父上の話の通りだとしても、いつまでも平気ってわけじゃないだろうしね」
そこは譲れない。僕はシークラント家に生まれ、シークラントで育ったのだ。貴族の僕は、シークラントの人々のおかげで今まで生きてこれたと言っても過言ではない。だから、彼らに報いるためにも僕は必ず帰らなければならない。魔装騎士が駐留するといっても引退間際ではやはりずっと安心というわけでもないだろうし。
故郷に戻る。これは決して揺らがない行動方針だ。
「ただ、父上の言っていたことも正しいんだよな・・・」
「魔装の作り手に、私が加われば、それだけモンスターに対抗できるようになりますからね・・」
昨今のモンスターの大量発生は国全体の問題であり、その中には当然シークラントも含まれている。ほかの地域よりも数は少ないとはいえ、自警団では対応が難しくなっているのが現状だ。魔装騎士が増えれば、強力なモンスターへの応手も増える。ひいてはシークラントもその恩恵に預かることができるだろう。政務で忙しい第一王女殿下や、類まれな戦闘能力で前線にいる第二、第三王女殿下と違い、シルフィさんは魔装の生産に集中できるのだから。
「お姫様が魔装を作る、ほかの人間と関わる上で、チカラは邪魔者でしかない。そんなお姫様を守ったり、魔装の素材を手に入れたり、造った魔装を引き渡すにはこの王城が最も適している。だから、チカラを抑えられるデュオ様やあたしを王都に縛り付ける必要があった。・・・・それが、デュオ様が近衛騎士に任命された理由。」
「であるのならば、私たちがクリアするべきは・・・・・シークラントでの魔装の製造と受け渡しができるような環境づくりに、私の護衛への信頼。なにより、そういう意見を受け入れてもらえるくらいの権力ですね」
「護衛の信頼性については大丈夫ですよ。魔装が手に入ればデュオ様ならすぐに功績を立てられるでしょうし、お姫様は私の主じゃあないですけど、デュオ様のためにあたしもサポートするつもりではいますから」
「それはどうもありがとうございます・・・・・あと、魔装の問題も手掛かりはありますよ。シークラント伯がこちらにすぐに来れたのは空間魔法が得意だというデュオさんのお母様のおかげかもしれませんけど、シークラント伯に事態を知らせるには確実に王城から空間魔法を使ったはずです。シークラントとの間にパスが繋がっているなら、利用できると思います。どのくらいまでの容量が送れるかはわかりませんが、材料と完成品の移動は空間魔法がかかった入れ物でも使えば問題ないはずです」
「空間魔法って術者も一緒に移動しない場合はすごい消費が大きい魔法ですよね?そんなのができるような用意があるって、アインシュは何を隠してるのやら・・・・まあ、重要な土地ならお姫様が移るのにも好都合ですかね。それなら後は意見を聞いてもらえるぐらいの権力、実績ですか」
「そうなりますね・・・デュオさんは、どう思います?」
「え?いや、それでいいと思う・・・・よ?」
シルフィさんとリーゼの口から水が流れるように言葉が出ては流れていく。あまりにも早くてついていけなかったせいで、なんだか置いてかれてしまったような気がするぞ・・・
とりあえず、魔装のことは置いておくにしても、とにかく功績を立てるのが必要だというのは理解できたが。
「しかし、功績を立てるにしても、どうやろう? 護衛としての腕前は他の騎士との試合とかでも示せると思うけど、それは前提みたいなものだし」
二人に負けじと僕も会話に加わる。近衛騎士になりはしたが、護衛として考えるならば、そもそも僕の実力が発揮されるような状況が起こらない方が望ましいというものだろう。
昨今の情勢を考えるならば、急造の騎士団のために増員をする余裕も乏しいだろうし、シルフィさんの事情も加えれば人を加えるのはさらに難しくなる。モンスターを狩りに行くのにも唯一の近衛騎士団員の僕とシルフィさんが別行動といのはまずいと思うが、連れて行くなどそれこそ陛下は許してくれまい。
「いえ、私以外の王族は外にもよく出て行ってますから、私も大丈夫だと思います。魔道具の素材の中には採取したてのものを加工しなきゃいけないやつもあったりしますし・・・恐らく、実際に私が外に行くときはこっそり隠密騎士団をつけてくるんじゃないかなって」
「そんな騎士団があるんですか?」
聞いたことはないが、いわゆる「裏」の部隊というやつだろうか。まあ、そんな保険でもなければ一人だけ、それも僕みたいな体質持ち、の近衛騎士団など作らないか。ともかく、王族のシルフィさんであっても外には自由に出れるというのは掴めた。個人的には明らかに荒事に慣れていないシルフィさんを表に連れ出すのは気が引けるのだが・・・
「そうなると、当面の方針はデュオ様がモンスターを倒しまくって、お姫様に箔をつけるって感じですね」
「そうですね。最初のうちは王都付近の整備された場所が限界でしょうけど、ゆくゆくは魔境にまで行きたいです」
シルフィさん、やる気満々である。さっきまでのリーゼとの盛り上がりといい、明らかに本気だ。というか、魔境ってどこまで行く気なんだ。
そして、リーゼと話し込んでいたシルフィさんはくるりと僕に首を向けて言った。
「デュオさん、1週間時間をください。今後のことを考えると、お父様にはあまり借りを作れませんが、初期状態の魔装を造れるくらいの魔鋼をふんだくってくるので、それで全力で魔装を造りますから」
「魔装・・・」
今まで近衛騎士になったことのショックが大きすぎて失念していたが、魔装騎士となった以上、僕にも魔装を身に着ける権利があるのだ。
シルフィさんの言うようにモンスターを倒していくことを考えると必ず手に入れておかなければならないもの。僕が長年追い求めてきたモノが、あと1週間で手に入る。
そう考えると、僕の胸の内になんともいえない奇妙な熱が沸いてくるのを感じる。
「デュオさん?」
「デュオ様?」
急に黙りこくった僕をいぶかしく思ったのか、二人が僕の名前を呼んだので、僕は慌てて現実に戻る。
「す、すみません。そうですね・・・・」
今の状況は数日前の僕にはとても想像できなかったくらい複雑怪奇だ。シルフィさんが王族で、僕はその近衛騎士になってシークラントに戻れなくなったり、相棒のリーゼが飛竜じゃなくて女の子になったり、その二人が僕の夢をかなえるために必死に頭を使ってくれたり。
「シルフィさん。魔装のこと、どうかよろしくお願いいたします」
僕はシルフィさんに頭を下げて頼み込む。
様々なことがあって、様々なことを考えないといけないけど、今は魔装が手に入ることを喜ぼう。
二人が、そして僕が思う夢への道を切り開いていくための原動力になるように。
「は、はい!!全身全霊で最高のものを仕上げて見せます!!」
頭を下げた僕を見て、シルフィさんはいつぞやスライムの魔鋼を渡したときのような声音でそういうのだった。
そして、時は今に戻る。
これまでいろいろあって、これからもいろいろあるだろう。魔装を手に入れたというだけで、僕の心は燃え盛り、その内心をうまく言葉に出すことはできない。だが、今やりたいことははっきりしていた。
「シルフィさん、リーゼ」
僕はマントとなった魔装を身に着けてシルフィさんとリーゼに向き直る。
「「はい」」
二人からは同時に返事が返ってきた。それに応えるように、僕は二人に向かって一歩踏み出す。
「行きましょう」
今、僕は魔装を試してみたくてたまらない。
幼いころから憧れた力を、使ってみたくてしょうがない。気持ちはまるで子供のころのように純粋に澄み渡り、けれど、子供のころよりも漲っている。
「「はい!!」」
二人の声を身に受けつつ、僕は前に進む。
夢への道を進んでいるのを感じながら、僕は前に前に進んでいくのだった。
続きを書いていくために参考にしたいので、いいと思ったところや悪いと思ったところを指摘していただけたら嬉しいです(訳:感想ください)




