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第13話

「やっぱりか・・・」


 今夜も目の前に広がるのは一歩先すら見通せないほどの白い霧だった。この3日間いろいろあったが、この霧は3日前と変わらず薄まる気配はない。しかし、今夜は変わっていたこともあった。


「これは、椅子?」


 やや古ぼけてはいるが、頑丈で高そうな椅子だ。おまけにひじ掛けは綺麗に磨かれ、座る部分にはクッションも敷いてあった。

 そう、僕はやはりいつの間にやらこの「幻霧」に来たようだが、立ちっぱなしだった今までとは違い、今日は気が付いたら椅子に座っていたのだった。


「あ! デュオさん!?」

「シルフィさん?」


ここでもやはりというか、シルフィさんもいたようだ。どうやら僕はきちんと約束を守れたようだ。


「シルフィさん、こんばんは。えっと、この椅子は?」

「今日の昼に私が用意しました! デュオさん、ここにいるときは立ったままか、床に座ってるみたいでしたから!あ、それと、こ、こんばんは!」


 霧で相変わらず顔は見えないが、きっとドヤ顔をしているのだと思う。声から「私、頑張りました!」という感じがなんとなく伝わってきた。やっぱりこの人はかなり分かりやすい人だと思う。

 ともかく、レディにもてなしの準備をさせたのだ。ここはしっかり礼を言わねばなるまい。


「そうでしたか、お気遣いいただき感謝いたします」

「そ、そんなに畏まらないでください。私だけベッドにいるのはなんだか申し訳なくて・・」


 ここはシルフィさんの部屋らしいし、寝るときならベッドで寝るのが普通だから「幻霧」でもそうなのだろうか。シルフィさんは歓迎してくれているようだが、同い年くらいの女性の部屋に入ったことは情けないがほとんどなくて若干緊張する。昨日まではそんなことに気をつかっている余裕はなかったのもあるが。

 そんな風に女の子の部屋にいるという奇妙な感覚を感じていると


「あ、あの、デュオさんは、その、約束、覚えてますか?」

「約束? ええ、明日また会おうってやつですか?」


 その約束はもう果たされているが、まだ何かあっただろうか。


「それもそうなんですけど、その後の、最初からゆっくり話そうっていう・・」

「ああ、そういえば」


 そういえば、昨日はアンデッドがたくさん出そうな場所に行くから気合をいれていこうと思っていたし、早く「幻霧」を出たかったのだ。結局は杞憂だったが、そんなことを言った覚えがある。


「でも話って、どんなことを?」

「な、なんでもいいです! デュオさんの話すことなら、何でも!!」

「な、何でもですか・・」


 正直、困る。何でもっていうのはある意味一番困るのだ。僕はこれまでモンスターと戦ってばかりであんまり女の子と話たことはない。月に一度か二度、家に来ていたリズとも、いつも祖父であるジョージさんが近くにいて、あんまり盛り上がる話をしたことはないのだ。だから、何でもと言われても何から話せばいいのか分からないのだ。

 聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥という古い諺があるが、今がそれだろう。相手につまらない時間を過ごさせるのはこちらも気まずい。


「すみません、誠に申し訳ないのですが、お題を出してもらってもいいですか? 恥ずかしながらあまり女性の方と話したことがないので・・」

「え!? ・・・デュオさん、失礼します!!」

「はい?」


 シルフィさんがなにやら気合の入った声を出した直後、ザワ・・という心を読まれる感覚がした。


「痛ゥゥ・・デュオさん、本当に女の子と話したことないんですかっ!?」


 なぜそこに食いついた。そこは個人的に訂正したい。僕の名誉のために。


「いえ、全くないわけじゃないですよ!? ただ、同年代の男子に比べたら多分あまり話したことがないだろうってだけで・・」

「そうなんですかぁ、フフッ、そうなんだぁ・・」


 どうしよう。あまり話を聞いてもらえる感じがしない。馬鹿にしている風ではないが、こんなことでそんなに嬉しそうに笑うのはちょっと心にくるものがある。というか、お題の件もスルーされてないか?


「あ、そうでした。お題ですね。うーん、何にしようかなぁ・・」


 チカラを使っていたからなのかは知らないが、どうやら思い出してくれたようだ。


「そうだ、最近の流行りを教えてください! 最近はスケルトンとかアンデッドが人気あるんですか?」

「え、誰ですか、そんなデマ吹き込んだの」


 もしもそんなブームがあったら、僕は体質のおかげで今頃時の人だろう。


「違うのですか? 昨日デュオさんが床に書いていったからてっきり・・」

「違いますよ。あのときはまだ話してないことを書いてって言われたから昨日倒したモンスターを書いたんですよ」

「えっ!? スケルトンならともかくオークゾンビまでですか!?確か下級アンデッドの中だと最高クラスだったような・・」


 確かに、オークゾンビは強い方だろう。アンデッドの強さは生前の強さもしくは死ぬ間際の怨念の度合いで変わるらしい。いかなる理由か、筋肉を失っても腕力の強かった者は力の強いアンデッドとなり、盗賊のように素早いものは肉がなくなったことでさらに素早くなる。オークゾンビならば生前持っていたパワーにアンデッドのタフネスが加わり、体重が減ったことでスピードも若干上になる。ただ、アンデッド共通の炎や光に対しての耐性低下と著しい知能の欠落といった欠点もあるため、まともな装備を持って罠でも使えば新兵騎士でも苦戦はしないだろう。もっとも、僕は資金や適性の問題で対アンデッド装備やら携帯トラップなどをいちいち使える身ではないが。


「ええ、まあ。炎を扱える竜も連れていたし、僕自身もそれなりに相手をしたことがありますから」


 この体質のおかげで下級アンデッドならばほぼすべてと戦ったことがある。もちろんオークゾンビと戦ったのも両手の指ではとても数えきれないほどだ。


「そうなのですか・・ デュオさんは強いのですね」


 シルフィさんは心から感心するかのようにそう言った。言ってはくれたが、僕自身ではとてもそうは思えない。


「いえ、まだまだですよ。この程度じゃあ、魔装騎士になれるかもわからない。」


 なるべく早くに魔装を持って故郷に戻るのが僕の目的だが、試験を受けてすぐに新兵が魔装騎士になるのを認められる例はごくわずかだ。ましてや僕は「専属」も目指しているのだからなおさらである。大抵の魔装騎士は通常の騎士が戦果を上げていって上層部に認められた上でなるものだ。シークラントでモンスターが大量発生したときに来てくれたある騎士は、その2年後に再び会ったときには武勲を上げた結果、魔装騎士になっていた。

 いろいろとお世話になったが、あの人は元気にしているだろうか。王都にいるはずだから会いたいけど、忙しそうだからなぁ・・・・


「魔装騎士、ですか? 騎士ではなくて?」

「っと、はい、魔装騎士です」 


 物思いにふけっていたら、シルフィさんが話しかけてきた。いかんいかん、集中だ。


「デュオさんは魔装騎士になるのですか?」

「なる、という意気込みでいますが、狭き門ですからね・・でも、全力を尽くすつもりですよ。僕の夢であり、絶対に手に入れたい武器でもありますから」


 僕は力を込めてそう言い切る。そうグラン殿のような騎士になるのはデュアルディオ・フォン・シークラント個人の夢であり、貴族の息子としての僕にとっては自分の目的と義務を果たすための手段だ。魔装騎士は一握りのエリートだ。その中に入るには文字通り死力を尽くさねばなるまい。


「夢、ですか。」


 自らの中で、改めて決意を確かめていると、シルフィさんはポツリとつぶやいた。


「あの、デュオさんはどうして魔装騎士になりたいって、それを目標にしているのですか? その、不躾だとは思いますけど、デュオさんには、えっと、モンスターを引き寄せる体質があって、普通の人よりもずっと大変そうなのに・・・」


 おずおずとそう聞いてきた。

 どうやら僕を不快にさせないように慎重に言葉を選んでくれたようだ。


「僕が魔装騎士になりたいのは、昔ある魔装騎士に助けてもらったことがあって、僕もそうなりたいって思ったからなんです。あと、確かにそういう枷はあるけれど、僕はこれでも貴族の端くれですから、領民を守る力が欲しかったというのもあります」

「領民、他の人を守る、ですか・・」

「はい、そうです」


 それは僕の義務だが、やりたいことでもあるのだ。


「私は、昔からあまり他の人と関わらないようにして引きこもりがちだったので、えっと、そういう守りたいって気持ちはよくわかりません」


 確かに、心を強制的に読んでしまうチカラがあったらそうなるかもしれない。シルフィさんにとってはあまりよくない話だったろうか。


「えっと・・」

「けど、デュオさんはやっぱりすごくて、強い人だって思いますよ。力だけじゃなくて、心が」


 とっさに何か言おうと思ったら先を越されてしまった。そこには、昨日のような暗さはなく、純粋に僕のことを褒めてくれているのが分った。


「い、いやぁ、まあ、子供みたいな夢ですけどね。魔装騎士を雇うって方法もありますし・・」


 なんというか、気恥ずかしい。偉そうなことを言ってるけど、僕はその騎士になるために18にもなって親と喧嘩して家出中の身なのだから。


「そんなことないですよ。私、今まで夢とかそんなことも考えたことなくて、将来の夢ってあまりわかってないけど、でも、デュオさんが立派だって思うし、それに、その、私、なんだかデュオさんがうらやましいです」

「え、えっと、あ、ありがとうございます・・うん、僕、頑張りますよ!」


 今までこんなに褒められたことはあんまりないかもしれない。けど嬉しい。誰かが自分のやろうとしていることを認めてくれるっていうのはそれだけで進むための力になるんだと実感する。


「あの、もしよかったらなんですけど、デュオさんが守りたいって思った人たちことや、デュオさんの故郷について聞いてもいいですか?」

「そんなことでよければ、喜んで」


期せずしてなかなか話しやすいお題が出てくれた。よし、それじゃあ、僕を応援してくれたお礼もかねて、シルフィさんとの約束を果たすとしよう。

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