47話「紅蓮の閃光(スピードスター)・後編」
SCARLET47:紅蓮の閃光・後編
・そして最後の戦いの幕は切って落とされた。
何度も吹っ飛ばされている彼女はもちろん俺の方も
まだ馬場雷龍寺との試合のダメージが残っているからか疲労は強い。
しかしそれがこの試合を左右する理由にはならない。
「せっ!!」
「せっ!!」
コート中央で俺の拳と彼女の飛び蹴りが激突する。
彼女が着地すると同時に放たれた廻し蹴りをやはり拳で相殺して
彼女が残したもう片方の足を下段前蹴りで狙う。
と、流石に読んでいたのか彼女は蹴りを戻さぬまま跳躍して
俺の下段を回避するばかりかそのまま同じ足で上段廻し蹴りを放った。
「重ね刃!!」
それに対して俺は同じ上段廻し蹴りを激突させた。
同じ技同士がぶつかり合えば当然勝つのは破壊力が上の方。
すなわち、
「くっ・・・!」
彼女の方が吹っ飛ばされた。
空中で放ち体重が蹴りに乗っていなかったというのもある。
けど高度があったからこそ彼女は上手く着地できたというのもあった。
そして今度は構え直すのを待っているつもりはない。
熱気当てを繰り出しながら距離を詰める。
「・・・っ!!」
彼女の送熱の数倍の温度だ。一般人なら火傷するほどの。
当然彼女相手でも怯ませるくらいの威力はある。
が、ここで怯んでしまえばもっと大変なことになると予想したのか
彼女は側面に回り込んだ。
彼女の方が小柄だからか俺が体を傾けるより
先に彼女が俺の側面を奪っていた。
そして俺の脇腹に前蹴りを放った。
俺は腕を下げることで防ぐが思った以上に威力がある。
それで僅かばかり怯んでしまった。
その僅かに彼女は跳躍した。
「白虎落雷!」
再びあの技を放ってきた。
・・・あれを無傷で凌ぐ術は今の俺にはない。
しかし俺の技は四神闘技だけじゃない。
彼女の踵に合わせて上段正拳突きの構えを取る。
「!?」
「直上正拳突きぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!」
雷のように落とされた彼女の踵に正拳突きを放つ。
が、どちらの意思かあるいは偶然か激突はわずかにずれていた。
彼女の踵は外側にズレ、俺の拳は彼女の左足の裾を引き裂きながら
彼女の上半身を通り抜けヘッドギアの顔面部分を破壊した。
この一瞬の激突の後に彼女が着地して素早く俺の側面に回り込む。
と、俺は真横に、彼女にとっての正面に拳を向けた。
僅かだが俺が向き直る時間を稼ぐだけの制空圏をその拳に宿らせていた。
彼女が制空圏を形成し直すのと俺が向き直るのは同時。
残り時間はあと1分。このまま行けば前言通り勝つのは俺だが、
しかしそれは同時に俺の敗北でもある。
時間に勝たせては意味がない。俺が直接この手で打ち倒さねば。
だから、俺は左手を胸の前に構え前屈立ちに足を開き右拳を引く。
「・・・・青龍一撃・・・・」
彼女がより一層身構えた。
この技は彼女の前で何度も使っている。
だが、彼女に対して使うのは初めてだ。
この意味が彼女にも分かっただろう。
それなのに、いやそれ故か彼女も同じ構えを取った。
青龍同士で彼女に勝ち目はない。それは彼女もわかっているはず。
だからきっと彼女が行うのは遠山を破った技である青龍倒天。
あの技となると逆に青龍一撃では破れなくなる。
そして如何に本家である俺であってもあれを受けて倒れない自信はない。
「・・・行きます!」
そしてそんな俺の逡巡を無視して彼女は奥に控えた右足を前進させた。
決して焦燥故ではなく俺も前進させた。右足ではなく左足を。
「!?」
前屈立ちは半身を切って行うものそれ故に今俺は右半身を
外側に向けている。そのため真正面から穿つ青龍の技は効果がない。
そして一歩進んでしまった以上既に青龍は失敗している。
だが彼女は構えを解けない。解けば即座に俺の一撃が来るからだ。
「うああああああああああっ!!」
「何!?」
そう予測したが彼女は俺の深く曲げた左足を踏み台にして軽く飛んだ。
いや、この技は・・・!
「朱雀堕天!!」
彼女の最大威力の技。回避も防御も不可能。
なら俺がすることは!
「青龍一撃!!」
最大威力のこの一撃で迎え撃つだけだった。
「っ!!」
「ぐっ!!」
俺の青龍が彼女の胸を穿ち、同時に彼女の膝が俺の顎を穿った。
同時に最後の戦いの終わりを告げる鐘の音が響き渡った。
・試合が終わった。
表彰式と閉会式を終えて数時間。
甲斐機関で赤羽は治療を受けていた。
「いい勝負だったよ、二人共。」
「今日は二人の好きなモノいっぱい作ってあるからね。」
久遠が俺に抱きついて頬ずりして、キーちゃんが台所に向かう。
「久遠、ちょっと好感度高すぎじゃないのか・・・?」
「え~?別にいいじゃん。」
「・・・ったく。」
腕に久遠を乗せたまま机の上に置いたままな
二人のトロフィーを移動させる。
「・・・う、」
「あ、美咲ちゃん目を覚ましたみたいだよ!」
「そのようだな。」
簡易カプセルの中から彼女が起き上がった。
「・・・まだ1時間くらいしか経っていないんですね。」
「ああ、普通だったらこのカプセルに頼るほどの傷じゃないからな。」
「よく言うよ死神さんの青龍を胸に受けて立てる方がおかしいんだよ。
ライ君なんか結局入院したよ?全治半年だって。」
「お、よかった。死んでなかったか。」
「・・・妹の前で中々言うよね死神さん。」
「まあ、昨日殴られた借りは果たせたからな。」
「・・・甲斐さん何か変わりました?雰囲気が少し違うような・・・」
「・・・そうだな、お前の成長を見れて何だか気が軽くなったようだ。
・・・それと大倉会長から別命があった。」
「・・・もしかして、」
「ああ。今年いっぱいであの道場で
お前に稽古をする今の役目が解除されることになった。
俺は現役選手に戻るしお前も多分そうなるだろう。
あの道場もまた閉鎖されることになるだろうし。」
「・・・そうですか。」
「何だか寂しいね。死神さんまた足怪我しない?
虎徹ならいつでもしてあげるよ?」
「・・・勘弁してくれ。」
・それから数週間。
あの道場で最後の稽古が行われることになった。
「・・・斎藤の奴め。邪魔することないだろうに。」
進路報告書に空手選手か甲斐機関社長かどっちを書こうか迷っていたら
斎藤の奴に後者にサインをされてそのまま提出されてしまった。
おかげですっかり待ち合わせの時間に遅くなってしまいそうだ。
「・・・・・・」
こうしてこの道場に入るのも今日で最後になる。
感慨深くなってしまう前に扉を開けた。
「・・・・あ」
「・・・・は?」
と、更衣室から全裸の彼女が吹っ飛んできた。
「ごめんごめん。ちょっと相撲してたんだけど。」
更衣室から久遠が顔を出す。
肩紐が見えるからきっと久遠も着替え中だろう。
いや、それよりも・・・。
「・・・えっと、赤羽?お、俺はその・・・」
「・・・もういいですよ。」
「え?」
「ここでのこういうハプニングも今日で最後でしょうし
それにさんざん見られたんですからもう見慣れたでしょうし。」
「・・・そう言う割には目が怖いぞ。」
「・・・そりゃ見られて嬉しいわけないですからね。」
と言って彼女は更衣室に消えた。
・・・しばらくぶりに見たけど相変わらず薄かったな。
それから二人が着替え終わってから俺も着替えて最後の稽古を始めた。
「死神さんはもう指導員やらないの?」
「まあ、正式な指導員じゃないからな。
今回のも臨時だったわけだし。
第一もうお前達は俺とそこまで差があるわけじゃないから必要ないだろ?」
「けど私は甲斐さんの稽古が一番しっくりきます。
・・・大倉道場のじゃもう物足りませんし。」
「それ分かるー。腹八分目どころか四分目くらいなんだよね。」
「・・・そんなこと言われてもな。」
そして最後の稽古が終わりシャワーを浴びてから玄関で
道場に向かって3人で礼をしてからドアを閉め鍵を閉めた。
近くにスタッフがいたためそのまま鍵を渡した。
それから3人で夜道を歩く。
星座は詳しくないがきれいな星空だった。
が、隣の二人は顔をあげようとはしなかった。
だから俺は不意打ち気味に二人の頭を同時になでた。
「え・・・?」
「死神さん?」
「別にもう二度と会えなくなるわけじゃない。
連絡先も知っているし俺の住居は知ってのとおり甲斐機関。
この街で一番大きな会社だ。会おうと思えばいつでも会えるだろう。
だから、そんな顔をするな。」
まあ、俺もあまり人のことは言えないがな。
「とりあえず帰るぞ。キーちゃんが夕食を用意している。」
「・・・はい。」
「うん!」
やや明るくなった表情の二人を傍らに俺は師走の夜を歩いた。




