37話「カルビ開戦」
SCARLET37:カルビ開戦
・12月8日。
ついにカルビ大会の当日を迎えた。
一度道場前に集まってから3人で行く。
「いいのか久遠?二人の兄と一緒じゃなくて。」
「久遠ちゃんは確かに馬場の子だけどここの子でもあるの。
そして今日は馬場家としてじゃなくて死神さんの教え子として行くの。
だからいいんだよ死神さん。」
「・・・まあ、お前がそう言うならいいけど。」
「ところでキーちゃんは?」
「ああ。昼頃にお弁当を持って来てくれるそうだ。
だからそれまでは俺達だけでやるぞ。」
「・・・あの、里桜さんは?」
「知らん。勝手にやってるんじゃないのか?」
それから電車やらバスやらを使ってカルビ大会の会場に到達した。
流石というか尋常じゃない人だかりで
しかも身のこなしや体格が普通じゃない連中ばかりがそこにはいた。
そして俺の登場で一気に視線がこちらに襲ってきた。
「おい、あれ拳の死神じゃないのか・・・!?」
「足を壊したって聞いたがまさか復活してくるとは・・・!」
「しかも隣にいる二人を見ろよ。」
「紅蓮の閃光と呼ばれた赤羽美咲に
絶対制空圏幼女の馬場久遠寺か・・・!」
「死神の弟子だって聞いたがあの様子じゃ本物のようだな・・・!」
早速節操のない噂が流れていく。
「流石だね死神さん。」
「俺はもう慣れてるがお前達いつの間に
そんなあだ名をつけられていたんだ?」
「この前の清武会の時ですね。私はあの道着で目立ちますから・・・。」
「久遠ちゃんは絶対無敗だからねっ!」
「お前は馬場家であるということを忘れているだろう。」
と、そこへ二人の男がやってきた。
「げ、ライ君りゅー君・・・」
「・・・という事は、」
「お初にお目にかかる。馬場家4兄妹長男の雷龍寺だ。」
「3男の龍雲寺です。」
「・・・甲斐廉だ。」
「1年前は弟が、そして今年は妹が世話になったようだな。」
「・・・久遠に関してはまあ、そうかもしれないが。
早龍寺に関しては・・・」
「ああ、いい。気にするな。あれも実戦空手の名家である馬場の男。
如何なる怪我も試合での結果なら満足しているだろう。
ましてやあの拳の死神と実質相討ち同然なら尚更な。」
「・・・・・・。」
「まあ、そんな話はいいだろう。
俺は弟のようにはいかない。試合を楽しみにしているぞ。」
それだけ言って雷龍寺と龍雲寺は去っていった。
「ね?嫌な奴でしょ?」
「・・・それ以上に隙がなかった。
馬場早龍寺も中々の腕前で俺は勝つことが出来なかった。
・・・あの男はそれよりも格上。厳しい戦いになるだろうな。」
これ以上の弱音は必要ないだろう。
「さて、俺達も控え室に行くぞ。」
「はい。」
「おー!」
それから男女に分かれて更衣室で道着に着替えてから
控え室に集合。開会式の挨拶が終わりトーナメント表が発表される。
一回戦は全部で125戦。
ベスト16までは10のコートでそれぞれ行われ、
1試合は長くとも10分で終わるから大体2時間程度で終わる。
その後2回戦はシードを一人用意して62回戦。
これもそのまま行けば1時間程度。
次の3回戦ではシードは残ったまま31回戦で30分ほど。
4回戦はシードを混ぜて16回戦。ここからは2つのコートで行われる。
たった3時間半で人数は8分の1程度にまで絞られる。
・・・この中に混じれるかどうか。
「・・・俺は102番目か。」
だいぶ後半だな。早く見積もっても1時間以上は後だ。
対戦相手は東北出身の二階堂という男らしい。
聞いたことがないからきっと実戦レベルではないのだろうが
それでもカルビ出場者だ。
最低でも毒島レベルくらいは覚悟しておいたほうがいい。
あるいは久遠のような今回初出場でも怪物クラスの天才かもしれない。
・・・最初からするつもりはないがそれでも一切の油断は禁物だな。
「では、甲斐さん。行ってきます。」
「ん?」
「あれ?死神さん知らないの?美咲ちゃん1戦目なんだよ。
トーナメント表を見る。
確かに赤羽美咲の文字があった。
対戦相手は沖縄出身の比良海人。沖縄だから恐らく琉球空手。
赤羽がきっと今まで見たことがないスタイルで攻めて来るだろう。
「赤羽、相手は・・・」
「待ってください。甲斐さん、ここでは私達はライバル同士です。
・・・心配してくれるのは嬉しいですがアドバイスは・・・」
「・・・そうだったな。なら一言だけ、頑張れよ。」
「・・・はい。」
そうして赤羽がコートに向かった。
「久遠は?」
「私は33番目。まああと20分もすれば呼ばれるかな。」
「お前も油断するなよ。」
「もちろん。」
それから赤羽の試合を観戦する。
この会場で自分以外の誰かを応援する選手は希だ。
だから試合を囲んで観戦する連中は全員敵情視察だと思って間違いない。
そしてここまで上り詰めた連中だ。
観察にそこまで時間はかからず
ある程度視察したら他の選手のところへ行く。
つまり特定の一人の選手にだけ留まる事は滅多にない。
しかしそれでもなお視察が終わらないという選手は期待株だということだ。
現に赤羽は100人以上が視察に囲んでいた。
そして第一ラウンドが終わってもなお離れることはない。
それだけ彼女が期待できる脅威であるという証だろう。
その結果か2ラウンド目の開始53秒でTKOで彼女が勝利した。
「・・・さすがは美咲ちゃんだね。」
「ああ。」
もう三船のサイボーグではないただの中学生空手選手だというのに
ほとんど消耗もなくそれなり以上の相手を撃破したか。
思った以上に強くなっているようだな。
「じゃ、そろそろ行ってみるかな。」
最初の10戦が思ったより早く終わったからか久遠に招集がかかった。
そしてその中にはこの場においては異様とも言える白帯が見えた。
「・・・マスターホワイト・・・」
この距離で見るのは初めてだ。
年齢は俺よりやや下のように見える。
しかしその佇まいには一縷の隙も見当たらない。
あれは俺どころか馬場雷龍寺や赤羽剛人より上かも知れない。
間違いなくこの大会の優勝候補。
赤羽や久遠と番号が近いが、どうなることか。
それから久遠も無事勝利してそれからしばらくして俺が召集された。
嬉しいのか迷惑なのかやはり視察する奴は多い。
当然馬場雷龍寺の視線も感じる。
そしてマスターホワイトの視線も。
あれだけの強者から視察されるのは
中々光栄だがそれを喜ぶだけの余裕はない。
「・・・・・」
対戦相手の二階堂を見る。
それなりに出来上がった肉体と構えからして中堅程度はあるだろうな。
・・・赤羽も久遠も無事1回戦を突破したんだ。
その勝利に応えられなければいけないな。
「せっ!!」
試合開始と同時に拳の応酬。
まずは瞬殺を兼ねた様子見のラッシュ。
これに対してどう出るかで相手の強さと戦術を判断する。
「・・・・くっ!!」
二階堂は防ぐのに手一杯で徐々に加速していく俺のラッシュに
どんどん遅れていき最終的には防げる事のほうが少なくなっていく。
そして無理に防ごうとして出来た隙に特別
力とスピードを込めたワンツーを打ち込む。
「・・・がはっ!!」
「・・・ふう、」
彼が倒れると同時に時間を見た。
第一ラウンド開始17秒。まあ、まあまあかな。
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
丁度馬場雷龍寺と目が合った。
やがて向こうから踵を返して去っていった。
・・・今の程度じゃ牽制にもならないか。
「・・・で、お前だけ負けたか。」
コートの外に出てズタボロの里桜を見下ろした。
「あ、相手はあの馬場雷龍寺だったんですよ・・・!?」
「理由になると思うか?で、奴のスタイルは?」
「とんでもなく堅実的で恐ろしい程常識的でしたよ。
さすがは空手の総本山ってトコロですね。」
「・・・なるほど。」
何か特殊なスタイルであればそこから弱点を
見出すことも出来たかもしれないが飽くまでも正統派か。
それで大倉道場でもトップエースなのだからまいったな。
・・・だが、久々の実戦だ。面白くなってきたものだ。




