23話「甲斐家」
SCARLET23:甲斐家
・家。対峙する二人。
「急に10年も前から海外に行って一度も顔も見せずに今更!!」
「ちゃんと毎月仕送りはしていたはずだ。何の文句がある?」
「何を!!」
「まあ落ち着け。今日はお前に話があってきた。」
よく見ればテーブルには男女が一組いた。
二人とも俺と同い年くらいの見た目だ。
「・・・・その二人は?」
「紹介しよう。」
親父が女性の方を見る。
「甲斐アンナ。16歳。10年前に俺が拾った子だ。」
「は、初めまして。」
「ちょっと待て。10年だと?俺より長いぞ。」
「それがどうした?アンナは身寄りがないから俺が拾い、
この10年で教育をした結果
日本の大企業医療メーカー・甲斐機関のオーナーとなった。
そこでお前にはアンナと結婚して甲斐機関のオーナーとなってもらう。
そうすれば俺がわざわざ海外に出てまで働かなくて済むというものだ。」
「勝手なことを言うな!!貴様の勝手に家族を巻き込んだ挙句
貴様の姦計に息子を出汁として使うだと!?
言語道断!一昨日きやがれ!!」
「おい貴様、」
そこでアンナの傍に座っていた男が立ち上がった。
「このお二人は甲斐機関に不可欠な立場のお方々だ。
暴言は許さんぞ!!」
「お前はなんだ!?」
「俺もオーナー同様この方に拾われたライル・ヴァルニッセだ!」
ライル・ヴァルニッセの眼光には間違いなく殺気が宿っている。
「そいつもお前同様空手をやっている。お前と同じ10年間だ。
だがお前と違って足を壊してはいない。
車いす生活になりたくなければ大人しくしておけ。」
「くっ!!」
「それよりそちらは?」
親父がやっとキーちゃんの存在に目を向けた。
「俺の彼女のキーちゃんだ。甲斐三咲と名乗っている。」
「は、初めまして・・・・。」
さすがのキーちゃんもいつもの元気がない。
「そうか。なら別れろ。
お前はアンナと結婚して甲斐機関のオーナーにならなければならない。」
「いつまでもトチ狂ったことを抜かしているんじゃない!
自分の息子の過去と現在をつぶしておいて
今度は未来をも奪うというのか!?」
「なら聞くが、お前はその足でどこまでやる気だ?
お前の通っている大倉道場の指導員の給料は
コンビニエンスストアのアルバイト代とほぼ同額だ。
確かに大倉道場はそう安く沈んだりはしないだろう。
だがそんな安月給で未来を生き抜くことができるのか?
その彼女とやらを幸せに出来るのか?
何だかんだ言っても夫に求められるのは金だ。
その足ではまともな職業に就くことなど困難を極める。
だが、甲斐機関のオーナーになればその問題はすべて解決する。
給料は大倉道場のものの20倍以上だ。」
「金などに!!」
「それだけではない。
お前のその足は空手連盟の技術では完治は難しいと聞いた。
だが、甲斐機関の医療技術なら100%完治できる。
お前にとってプラスしかない話のはずだ。」
「確かにそうかもしれないがな、
俺が貴様の姦計に仕組まれた鳥籠で甘んじたら
悲しむ人がいるんだよ!!独りになる子がいるんだよ!!!
貴様は自分の保身のためにその子を見捨てろというのか!?
未来のために息子の幸せのすべてを叩き潰そうというのか!?」
「・・・廉君・・・」
「・・・・その娘の背景は知らないがなら
お前が引き取ってやればいいだろう。
甲斐機関の財力ならば娘の一人や二人引き取ることなど訳ない。」
「そんな汚い力でのごり押しで誰が笑えるものかよ!
誰が笑えるんだよ!?誰が幸せをつかめるんだよ!?」
「貴様!!」
その時。ついに痺れを切らして
ライル・ヴァルニッセが俺に襲いかかってきた。
思った以上に素早く俺の顔面に拳がぶち込まれる。
「ぐっ!」
「貴様はどこまで自分のために俺たちを困らせれば気が済むのだ!?」
「誰が!!」
すかさず奴の腹に拳を叩き込む。
しかし奴は一歩もひるまずに再び拳で殴ってくる。
「貴様の背景に何があるのかはわからん!
だがな、俺はこの人たちに命を救われた!
俺にとってこの人たちは理想郷だ!その理想郷を汚し罵ろうなどと!」
「下がれ!貴様に用はない!」
「下がれるものか!」
乱打の応酬。確かに実力は互角だ。
だが、奴には俺にない健全な右足がある分
明らかに俺が不利だった。
「俺は貴様への抑止力のために育てられた!
今まで育ててくれた恩のすべてをここで返す!」
「特定の目的のためだけの人生などに!!」
「貴様っ!!」
奴の拳、それを制空圏で返し後ろ手に構えた拳を奴の顔面に叩き込む。
「玄武鉄槌!!」
「・・・ぐっ!」
「白虎一蹴!!」
そこから高速飛び後ろ回し蹴りで奴の顔面をひっぱたいて吹き飛ばす。
「くっ!」
無理をしすぎたか、右足から出血する。
「そこまでにしておけ二人とも。」
「・・・・はい。」
「廉、今の話よく覚えておくのだな。土曜日にまた来る。
行くぞ、アンナ、ライル。」
「・・・はい、お父様。」
「Yes,sir。」
こうして3人は帰って行った。
「・・・・廉君、」
「キーちゃん、大丈夫だよ。
絶対に君を見捨てたりはしないし諦めたりもしない。」
「・・・ありがとう。今ご飯にするね。」
「ありがとう。」
キーちゃんが台所へ向かい、俺は部屋に戻る。
「・・・・ぐっ、」
着替えながら傷をぬぐう。
思った以上に奴の攻撃は重い・・・・。
制空圏の形成も万全だ。
今日は四神闘技の2つを使うことで何とか退けたが・・・・。
「だが、」
奴は親父に尽くすことでその身を燃やそうとしている。
その覚悟がある限り倒れることはないだろう。
「それにしても、」
何を考えてやがるあのくそ親父は。
言ってることはわかる。それが筋が通った正義だということもわかる。
だが、どんなに崇高な正義であろうとも絶対じゃないんだ。
強いられて選ぶ苦渋の正義などに意味なんてないんだ。
「・・・くっ、」
予想以上のダメージか、意識がもうろうとしてきた。
「・・・・ごめん、キーちゃん・・・・起こして・・・・」
着替え途中にベッドに倒れ、そのまま意識が遠退いてしまった。
「・・・・ん、」
気付いたら天井が見えた。
時計を見ればあれから2時間が過ぎていた。
「あ、起きた?」
隣にはキーちゃんが座っていた。
「キーちゃん・・・・・・ああ、ごめん。待たせちゃったか。」
「ううん。さ、ご飯にしよう?」
「ああ。」
よく見れば着替え途中だったのに着替えがちゃんとされている。
・・・・キーちゃんがやってくれたのか。
本当に助かる女房だよ。




