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24話「矢面の対」

SCARLET24:矢面の対


・4月20日。水曜日。

「じゃ、稽古を始める。」

いつものように夕方の道場で

赤羽、久遠に稽古をつける。

「ところで久遠、お前大倉道場での稽古はいいのか?」

「ちゃんと行ってるよ?

私まだオレンジ帯だから正式な稽古は週に3回までしか受けられないもん。

それに死神さんの稽古の方が伸びる気がするし。

で、死神さん、私からも質問いい?」

「なんだ?」

「どうして今日もキーちゃんいるの?」

そう。今日もここにキーちゃんがいる。

まあ、家に一人で残していたら

いつあのくそ親父に何されるかわからないしな。

「ごめんね久遠ちゃん。稽古の邪魔はしないからさ。」

「いや、私はいいんだけど。」

「甲斐さん、稽古を始めましょう。」

赤羽からの催促。

「そうだな。」

赤羽もあの交流試合でだいぶ自信がついてきていた。

肉体改造に囚われない自分自身の強さに気付いたようだな。

それならそろそろ朱雀を教えてもいいかもしれないな。

あれは俺よりも赤羽向けだ。

「赤羽、いいか?」

「なんでしょう?」

稽古も中盤。一休みを入れているときに赤羽に声をかける。

「白虎、玄武に次ぐ四神闘技の

3番目の朱雀を教えようと思うんだがいいか?」

「ぜひ。」

「わかった。朱雀幻翔というのは変調を入れて

相手をかく乱しながら的確に攻撃を入れていく型だ。」

「変調・・・・」

「そうだ。どんな動きにもリズムというものがある。

そのリズムを少しずつ変えていくんだ。たとえばスピードをわざと1テンポ遅くしたりな。

戦闘中にいきなり変調を加えるだけで

相手の調子を大きく崩すこともできる。

無論自分自身のリズムをわざと外すから慣れるのに苦労するだろうが

この技は赤羽向けだ。

使いこなせれば確実に君の戦力アップにつながるだろう。」

「名前的にも美咲ちゃんに似ているしね。」

水を飲みながら久遠が言う。

「試してみてくれ。」

「了解です。」

休みを終えた後半戦。赤羽は朱雀の稽古を始めた。

やはり最初はぎこちなく転んでしまうことも多かったが向いている。

1時間で基本の型は覚えてしまった。

「よし、今日はこの辺で・・・・」

その時、ドアがノックされた。

「ん?誰だ?」

「僕が開けるね。」

キーちゃんがドアを開ける。

「え・・・・」

「失礼します。」

聞き覚えのある声。ドアから中に入ってきたのは甲斐アンナだった。

当然のようにその傍にはライル・ヴァルニッセも控えている。

「スタッフの方・・・・には見えませんが・・・」

赤羽が声を上げる。

「二日ぶりですね。」

「次に来るのは土曜日じゃなかったのか?」

「今日は私的なことでお話に来たのです。お兄様。」

「え!?死神さん妹までいたの!?」

「違う。・・・・で、話とはなんだ?」

確かに道場に来たのはこの二人だけであの男の姿はない。

「その前に椅子くらい出したらどうだ?」

「お前には聞いていない。」

ライル・ヴァルニッセの殺意の眼光に同じく殺意の眼光で返す。

「いいのです、ライル。

・・・お兄様、昨日中に現在のお兄様の背景を調べさせてもらいました。

そちらのお二方についても。赤羽美咲さん、14歳。中学3年生。

馬場久遠寺さん、11歳、小学6年生。

ですが、そちらの方について一切のデータがありませんでした。」

「・・・・・。」

キーちゃんが身をすくめる。

「人の周りをかぎまわって何がしたい?」

「お兄様のことをもっと知りたいのです。

一昨日出会うまで私はお父様から

実子がいるということしか聞いていませんでした。」

「実子の座がほしいのならそのまま戸籍ごとくれてやってもいい。」

「いえ。今の私はこの立場で幸せです。でもお父様は幸せではありません。

だから私は・・・・」

「そのためにほかの何を犠牲にしてもいいというのなら

俺はお前たちを金輪際認めない。」

殺意の眼光。それを受けてか甲斐アンナは後ずさる。

「まずは今日、話し合いをしましょう。お兄様。」

それでも何とか絞り出した言葉がそれだった。

「・・・・・」

仕方なく俺は畳の外にテーブルを置き、

そこに二人を座らせた。

「赤羽、久遠。もう遅いから帰っていいぞ?」

「いえ、構いません。」

「ここまで聞いたら気になるよ。」

とか言って後ろに控える。

俺はため息一つつき、甲斐アンナに向き直る。

「まずそちらの求めるものはなんだ?」

「お父様のお望み通りお兄様が私と結婚し、甲斐機関を継ぐことです。」

「!?」

後ろの二人が驚くのがわかる。

「ちょっと待って!死神さん、この人たちはなんなの!?」

「10年前に家を出て海外に行った親父が拾った連中だ。

医療メーカーの甲斐機関の総帥とそのボディガードだ。」

「で、答えは?」

「決まっている。お前も甲斐機関もいらない。

あの男もろとも甲斐機関に帰れ。」

「・・・私のことは構いません。お父様のお望みをかなえるためであれば、

たとえあなたが甲斐機関を相続した後に殺してくれても構いません。

だから形式上でもお望みをかなえてあげてはいただけませんか?」

「そんな自棄捨身な身勝手、ますます気に入らないな。

他者のために自分のすべてを犠牲にすることなど愚の骨頂!

そんなものは逃げにすぎない。

その身を尽くすということはその身を果てさせることではない。」

「何と言われようと私の決意は変わりません。

隣の女性が気になるというのでしたら

私と結婚した後離婚して結婚したらどうなのですか?」

「貴様は何もわかっちゃいない!」

テーブルをたたく。

「俺たちはチェスの駒ではない!

与えられた役目だけ果たせばいいなどと無責任にもほどがある!

その役目を終えた後なら捨てられてもいいなど下種にもほどがある!!

貴様はあの男のために命を尽くし果てるのが

自分の幸せだと思っているようだが

そんなものは幸せでもなんでもない!ただ自分に酔っているだけだ!!」

「私のすべてはあの方のためにあるのです!!

それが私があの方に還せるただ一つの恩返しなんです!」

「ならば貴様はどこにいる!?」

「え・・・・?」

「貴様のすべてがあの男のためにあるなら貴様の存在はどこにいる!?

今そこにいるのが貴様ではないのか!?

人間は人間である以上ほかの何物でもないただ一つの存在なんだ!

それを無視して他人に尽くそうなどおこがましい以上に愚かなことだ!

そんなことでしかできない貴様もそんなことを

望まれて平気な顔をしているあの男も

生きとし生ける命すべてに対する侮辱だ!恥を知れ!!」

その頬をひっぱたく。

「貴様!!」

すぐさまライル・ヴァルニッセが飛蹴りを打ち込んできた。

「ちっ、」

「貴様という奴は許せぬ!

貴様の偽善に他者を巻き込むな!他者の幸せを踏みつぶすな!!」

「どっちがいうことだ!!」

すぐに奴の腹に拳を打ち込む。

「ならば!」

「何!?」

奴の動きが変調した!?まさかこれは・・・・

「朱雀と言ったか?」

変調からの乱打がすべて俺の体に叩き込まれた。

「貴様・・・・見ていたのか・・・・?」

「勝手に技を披露してくれるとはな。

おかげでこの通り。」

くっ、奴の攻撃が避けられない・・・・!

「手段を選ぶつもりはない。

だからここで貴様をねじ伏せて婚姻届にサインをさせてやる。」

「・・・!そんなこと、させるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

無理矢理相手の変調に合わせてタイミングを合わせる。

「青龍一撃!!」

踏込から全力を込めた拳を奴の胸に叩き込む。

「くっ・・・・!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

拳から離れた奴の体が壁にたたきつけられる。

「ぐうううううううううううううう!!!」

右足から血が吹き上がる。

「甲斐さん!」

「死神さん!!」

よろめいたところを二人に支えられる。

「くっ、恐ろしい破壊力だが

貴様の四神闘技とやらはすべて見せてもらった。

今とどめを刺してやる。」

「やめなさい、ライル!」

「!」

甲斐アンナがとめた。

「・・・・今日は帰りましょう。」

「・・・・わかった。」

「・・・お兄様、私は諦めるつもりはありません。」

「・・・上等だ。」

俺の意識は二人が道場を去ったところで消えた。

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