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冬の狼  作者: CANDY
欺瞞の章
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Act88 花冠

 ACT88


 領兵は町に入った。その数は数百人だろうか?


 遠目に松明と馬の姿も見える。

 ライナルトの手引きだろうか?

 私達の知らぬところで、候と反逆者の攻防は続いているのだろう。


 エリが頭上を指さした。


 輪の動きが停止している。

 赤黒い楕円の輪から赤い霧は降っていない。


「終わった?」


 エリの指が館を指さした。

 奥方だ。

 彼女は庭に出て空を見上げた。

 すると、輪が再び動き出した。

 ゆっくりと動き出すと、今度は地面から靄が立ち上った。

 ゆるゆると、煙は輪に届くと吸い込まれていく。

 赤黒い輪は、点滅を繰り返し、霧を降らせていたときよりも、激しく瞬いた。


 すると、町中にいた兵士が倒れた。

 次々と倒れ、馬は嘶き横倒しになった。


 すると、城塞跡の町が、町の敷石が光り始めた。

 天では赤く、地にては白い光が瞬く。



 そして、赤黒い輪が止まった。

 足下の敷石も戻る。


 ただ、奥方の足下だけが、赤い光に包まれていた。


 やがて、奥方を光が包んだ。


 光が包み、そして、消えた。



 私の見るところ、何の変化も見えない。

 だが、彼女は喜んで、ここからでは聞こえない歓声を上げているようだ。


 何かの呪が成功したのだろう。


 館から、ライナルトが出てきた。

 ライナルトは、奥方に何事かを話しかけた。

 奥方は、それに何かを返した。

 それに、男は背を向けた。

 ライナルトが足を踏み出した時、その影から手が伸びた。


 ズルリと彼は影に沈んだ。

 驚きの表情のまま、彼は消えた。

 それに手を叩いて笑う女。その首に背後から手が伸ばされた。


 グーレゴーアだ。


 彼は、奥方の首を後ろから締め上げる。

 すると、彼の足下の影から、やはり、手が伸びた。

 影に引きずり込まれながらも、彼は妻の首を絞め続けていた。


 遠くから眺める無言劇は陰惨だった。



「エリ、終わらせるにはどうしたらいい?」


 エリは抱えた玉を撫でて首を傾げた。


 当然、皆が死ねば終わるのだろう。

 答えるまでもない。


「当然の報いだとしても、あまり、命を刈り取ると駄目なんだよ」


 空に浮かぶ歪な輪を見ながら、私の内側の者が続けた。


「理を保つ秤は小さいんだよ。失われた物が大きくても、乗せられる物は小さい。だから、同じく大きく犠牲を払えば、秤は理を保てない。

 復讐するのに、沢山、犠牲を出しても、その分、逆に秤は傾いてしまうんだ。

 それに、誰が満足するんだ。

 死んだ人間は戻らないし、憎い相手が死んで、死んでそれから、どうすればいいんだ?」


 それでも、悔しく、憎いという気持ちは消えない。


 私は、どうすればいいのか?


 見逃す?

 逃げる?


 私の中で蠢く者は、果てなく争い憎み合う事を楽しみにしていた。



 ふと、その力の中に、美しい光景が見えた。




 嫡子だ。

 イエレミアスは少女と一緒だ。

 エリに似た少女だ。

 そして、更に幼い子供がいる。

 彼ら三人は、あの村にいた。

 イエレミアスは微笑んでいた。

 少女と一緒に幼い子供を遊ばせていた。

 すると、エリが走ってきた。

 手に一杯の花を抱えて。

 その後ろから、ふてくされたような青い髪の男が歩いてくる。

 男の頭には、花冠が乗せられていた。


「エリ?」



 エリは、泣いていた。

 幸せな時間もあったのだ。


 確かに、そこには愛情があった。

 壊れてしまったが。

 そこに、皆で加われば良かったのだ。

 グーレゴーアも奥方も、一緒に皆一緒に。



 約束は、皆、一緒にいること。


 呪いも、皆、一緒にいること。



 本当に欲しかったのは?



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