Act86 終わりを告げる鐘
ACT86
水は、トゥーラアモンに流れる。
城塞跡は水源の上にあり、昔から水を各都市に運んでいた。
昔、先住の民が戦に負けたのは、この水源を落とされたからだ。
鐘の音がした。
男の話を割るように、鐘の音が響きわたる。
候の兵士が着いたようだ。
「どう言うことだ?」
シュランゲから奪った武器で、グーレゴーアはトゥーラアモンを落とすつもりだった。
氏族の一部と蜂起して簒奪を企んだ。
「だから、嫡子は死んだのか?」
候は、事が明らかにならねば動かない。だが、事が明らかになれば、偽りも隠せない。
神の御意志?
朽ちぬのは、当たり前ではないか。
候の息子は、短命種なのだから。
私は鳴り響く鐘の音に包まれながら、痺れる頭で考えていた。
それぞれの思惑で事が動いていて、繋がりがあるようで、無い。だから、一見、物事が続いているようでいて、無秩序な事が次々と起こっている。
一つ、シュランゲの呪い。
一つ、侯爵と息子の争い。
一つ、奥方の企み。
シュランゲの呪いは、死だ。
トゥーラアモンに毒の水が流れる。
これはトゥーラアモンだけの話ではない。水は何処までも流れるのだ。大地に、草に、動物に。
侯爵と息子の争い。
これはどうしようもないものだ。
ただ、この争いにかり出された人間が、フリュデンに来ているのは問題だ。
頭上の呪は、混乱と死を招くだろう。婆様の呪いの輪だ。
問題は、奥方だ。
毒にしても、争いにしても、問題は大きいが、奥方が何をするかによって、全てに影響があるだろう。
なぜなら、奥方も、私の後同輩であるらしい。
「奥方は何をするつもりだ」
それに青い男は笑った。
その姿は再び、腐れた男になった。
そうして、周りの男達も笑った。
歯をむき出しにして、肩を、骨を、肉を揺らして笑った。
そうして、彼らは水に潜った。
真っ赤な水は、囂々と音をたてて流れる。
水路には、水音と鐘の音が響きわたった。
私は、膝をついた。
疲れと共に、これが終わりであり、始まりなのだと感じていた。
夜明けは、遠い。