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冬の狼  作者: CANDY
欺瞞の章
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Act84 婆様

 ACT84


「黙れ、黙れ、黙れぇぇぇ」


 死人は墓場に帰るがいい。


 と、グーレゴーアは剣を振り上げた。


 距離はある。

 だが、私とエリは後ろに下がった。

 腐れた男は笑いながら近寄っていく。

 それに、グーレゴーアと一緒にいた男達は逃げ出した。

 正気なら、腐れた死体が近寄ってくるのだ。逃げるのが本当だ。

 だが、錯乱しているのか、男は剣を手に向かってくる。



 なぁ、幼なじみのよしみだよ

 いいことーおしえてやるよおー

 なぁなー



 大きく振りかぶった剣が、音をたてて腐れた体に食い込んだ。

 食い込んだ刃が、腐った肉をそぎ落とし、骨に固く食い込んだ。

 剣を引き抜こうとする男に、腐れた男が囁いた。



 ばばさまのけっかいぃ

 娘がーといてくれたようー

 おーまえが殺したぁむすめと同じぃ

 だからーとびらはーひらいているよおぉ



 それを聞いた男がこちらを見た。

 私を見て、エリを見た。

 そうして、大の男が悲鳴を上げた。

 腐れた男を見て切りかかったのに。小さな子供に悲鳴を上げた。

 ひぃひぃと喚きながら、男は逃げ出した。

 刺さった剣を引き抜きながら、腐れた男は歌った。



 これでぇ、あのおんなもー

 じごくへごしょうたいぃ



「あの男は誰だ?」


 剣を流れに捨てると、腐れた男は答えた。



 うそつきのひとごろしぃ



 水路の奥に開けた場所があった。

 四方から水が流れ落ちている。

 浅い湖のように広がり、中央から放射状に道がある。その中央には水の上に皿のような台座が突き出ている。

 その台座には人の頭ほどの、金属の大きな玉があった。


 二つ?


 台座は、二つの玉と左に空間がある。

 玉が三つあったら調度良い大きさだ。


 囂々という水音の中、腐れた男は玉に近寄ると開いている部分に角灯を置いた。




 ばばさまーばばさまー

 むすめがぁもどってきたよー

 あのにせものじゃぁないよぅ

 これでやっと、あいつらをぅ

 ころせるよおぉぉ

 はやくーはやくー

 くるしいよーはやくー




 空気が震える。

 重く大気が澱む。

 何かが曲げられるように感じた。

 凄まじい圧力と理を引きちぎる感覚に皮膚が痛む。


 来た


 地響きと共に、通路にソレが顔を出した。














 ソレが消えると、影が残った。

 うぞうぞと蠢く黒い影だ。

 それは手のような影をのばすと、台座に近寄り玉をとった。

 そして、玉を抱えて、私達の方へと這い寄る。


 顔を出したモノのお陰で、体が痺れて動けない。


 影はエリに玉を差し出す。

 すると、大きな玉がトロリと溶けた。

 溶けて形を変えると、エリにも持てる小さな一つの玉に変わった。

 手を出せと影が促す。

 エリは玉を受け取った。


 そこでようやっと、私の体から痺れが抜け、影を視ることができた。


 枯れ木のような老人だ。

 骨と皮の老婆だ。

 その眼孔は落ち窪み、エリが玉を受け取ると何事か呟いた。



 そして、私を見た。




 すまないねぇ、後同輩

 ちょっとばかり、見逃しておくれ

 元に戻すには、だいぶ、命が必要だ

 刈り取って、ささげないと

 輪が閉じないんだよ

 まぁ、人間なんざ

 生まれた時から罪人だ

 あきらめてもらうしかないねぇ



 そしてやけに楽しげに微笑むと霧散した。






 ばばさまー、やっぱり、あいつらしなないとだめなんだねー

 わかったよー

 みんなーいっしょだー

 じゃーしばらく、ここでまってるよー

 一つ、なくなってるからねー

 誰かがぁ死なないとねー



 水の中から、次々と腐った姿が起きあがった。

 腐れた青い男と同じく、体は腐り、千切れた死体だ。

 それらは水の中から這い上がると、私とエリを囲んだ。

 囲んで、あの台座に促し座らせる。

 腐った男達が立ち上がった水は、暗い色から徐々に赤く変色した。







 これでぇこのまわりの町も人もー

 いっしょだあよぅ

 みんなーみぃんなー俺達とうぅ

 いっしょ

 うそつきはーみんなーいっしょー





 目に映る水は、すべて、赤く染まった。



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