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冬の狼  作者: CANDY
喪失の章
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Act9 違和

ACT9


 木々が疎らになり、沼地からひび割れた地面に変わる。


 その姿に美しさはなかった。


 西南地域は砂漠と荒野だが、王国の東や西にある緑の地は、目に優しいものだ。

 それに比べれば、この森には心を晴らすものはない。


 村人は森を神聖視している。

 鷹の爺らは、畏怖している。

 私は、もっと居心地の悪い何かを感じている。

 生まれ育った場所だが、違和は常に感じている。

 神聖と畏怖を感じると言えば、北の暗い峰嶺を見ると思う。


 ここは違う。


 北の森(首都から北の位置という意味)は、混沌である。

 樹木の種類も統一がなく、人の手が入らないので荒れて枯れ果てている場所さえある。

 狂った磁場に険しい大地、生態系もそれに併せて混沌としている。

 この森は、中央大陸でも有数の肉食獣の生息地である。

 獣には適しているのだろう。


 混沌とは多彩だ。


 人を拒んでいるが、肉食獣の餌となる小動物がお

り、小動物の繁殖に適した環境が整っているからだ。

 そして、それら生き物の住処に適した、地形。

 それは沼であり、崖であり、渓谷であり、人間を寄せ付けぬ、厳しい世界があるからだ。

 もちろん、今は彼らも巣穴の中だ。



 岩棚の下で、人馬は一息ついた。

 馬の具合を見、人は携帯食と少量の酒を呷る。

 火石、懐炉は十分か確認していると、頭目が側に来た。


「どの辺りだ?」


 地図とも言えない紙切れを見せてくる。

 方位と領主館と山と荒野。

 村の子供の落書きに見えた。

 私はちょうど北の山から西南の一点を指した。


「村へは直進すれば、今の半分の時間だ。沼地が多いのはここまでで、これより先、南下するほど地面の割れ目がある。沼よりは見つけやすいが、落ちれば死ぬ」


 今まで進んだ経路を簡単になぞる。


「今はどっちを向いているのかもわからねぇ。どうして、今の場所が分かるんだ?」


 男は覆いで蒸れたのか顎をかいて、岩棚の先の白い世界を見つめた。


「まだ、昼間だ。よく見れば、日射しがある」


 白い景色に、うっすらと明るい光点がある。


「...見えねぇな」


 私は肩を竦めた。

 私は村の狩人だ。森は狩り場で、遭難場所ではない。


「この季節は北の山と渓谷のせいで、風は西から吹く。湿った風は南寄りで、身を凍らす時は西北。今は、少し北よりだ。遭難しそうな時は西だと思えばいい」


「風が渦巻いててわからねぇよ...」


 体感をどう言えば良いのか。

 地図を眺めつつ今度は男が唸っている。

 智者の鏡があっても、自力で森から出られる自信がないのだろう。


 その時、懐からあの金属板が囁き始めた。


 気持ちが悪いので、あわてて懐から出す。

 表面には奇妙な円が描かれていた。隆起した姿は壷の縁のようだ。

 へにょり、と、音がしそうな感じで板から飛び出している。

 見ているうちに、意味が分かった。


 私は板を投げ捨てようかと本気で思った。



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