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冬の狼  作者: CANDY
欺瞞の章
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Act79 酒樽

 ACT79


 館は広かった。


 主人や客の過ごす場所を本館とすれば、その後ろに使用人の働く別棟がある。

 私達は、その本館と別棟を抜けて、更に奥の通路へと踏み込んでいた。

 どうやら、こちらは離れ屋敷のようで、隠居した年寄りが集うような作りに見えた。

 様々な樹木が植えられた庭も見える。

 もし、赤い霧が吹き、夜空も陰るほどでなければ、心穏やかに過ごせる場所だろう。

 今見えるのは灯りの消えた暗い佇まいだけだ。

 奥に行くほど、人の気配が消えていく。

 しかし、それとは逆に、重苦しい湿った空気が厚くなる。

 まるで、分厚い霧の中を進むようで、息苦しさを感じる。

 私達は、特に暗く湿った通路に踏み込んでいた。

 凝った彫刻が施された柱が続く。柱の灯火はついていない。

 本来なら、闇に足を止められるだろう。

 だが、私の眼は暗闇でも見えた。

 獣の目のように見通せるのだ。

 エリは、時折、周りを見回す仕草をしてから、迷い無く歩く。


「エリ、本当は、匂いだけじゃないんだね」


 エリは闇の中で頷いた。


「エリには、私に見えない人が教えてくれるんだね。」


 握った手のひらが答えた。


「アオイオトコ?」


 それには頭を振った。


「さっき急げって言ったのは、その青い男じゃないのかい?」



 離れの奥に扉があった。

 重々しい扉には鍵が掛かっていた。

 すると、エリは扉の側の壁に掛かっていた、前掛けに手を入れた。



 鍵だ。



 鍵は開き、扉は開かれた。




 風が吹く。

 ワインと木の香りだ。

 そして、何かの声が聞こえた。



 動物の鳴き声?

 人間の呻き?

 それとも




 覗き見る扉の奥は、更に濃い闇が居座っている。

 眼を凝らすと、ワイン樽が両脇に積みあがっていた。

 天井まで積み上げられたワイン樽。そして真っ直ぐに延びる通路。

 私の目でも追えないほど、通路は遠くへのびていた。


 そして、その向こうから湿った空気が吹き寄せる。

 こんな湿り気があっては、ワイン蔵の役目は果たせないだろう。


 エリが私を振り仰いだ。


「やっぱり奥にいくの?」


 頷くエリに、私はぎこちなく笑った。





 通路には、あの赤い色が奥へ続いていた。

 そして、振り返ると、開いた扉の内側にも、たくさんの赤い手痕がついていた。

 ちょうど、開かない扉を叩きひっかいたような手痕だ。

 誰かが、外にでようとした。

 でも、でられなかった。

 それから、彼らはどうしたんだろう?




 そう言えば、何かに手痕がついていた。

 アレは何処だったろう?



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